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秋山草堂〇〇七部屋・小説「不死身な奴はいない」

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不死身な奴はいない
〈原題:NOBODY LIVES FOREVER〉

1986年度作品
ジョン・ガードナー著

あらすじ

ボンドは休暇を取った。
それは、病気療養中の家政婦メイを、ザルツブルグに迎えに行くついでの、ささやかな休暇になるはずだった。
しかし、ボンドの行く先々で不穏な事件が立て続けに起こり、怪しい影がボンドに付き纏う。
やがて姿を現した陰謀は、ボンドの首に一千万スイスフランの賞金が懸けられた、スペクター主催の首狩りコンペだった……。

解説

ガードナー・ボンドの第五作。
二転三転するストーリーと誰も信用出来ない状況など、ガードナー・ボンドで唯一完成度の高かった「アイスブレーカー」の路線を狙ったと思しき作品ですが、信用出来ない状況もどこか中途半端で、二転三転するのはストーリーだけではなく、設定も二転三転して、言ってる事がコロコロ変わる始末で、どうにも完成度が低い作品だと言わざるを得ません。
さらに、前作から翻訳を担当している後藤安彦氏の訳も、相変わらずクセが強く、個人的にはボンド物には合わないように感じます。
その上、翻訳の凡ミス(ホテル名で、他は全て「ゴールドナー・ヒルシュ」と訳しているのに、一ヶ所だけ「ゴルデナー・ヒルシュ」と訳していたり、前後の文脈から考えて「拳銃型の注射器」であるはずの所を「注射器型の拳銃」と訳していたり)が多く、雑な翻訳が作品の完成度をさらに低くしてしまっているように思えます。

プロット面では、守護天使云々の件は「ロシアから愛をこめて」のレッド・グラントそのままだし(ヒロインを飲み物に混ぜた睡眠薬で眠らせようとする所まで)、鮫に襲われる危険のある海を泳いで行く件は「死ぬのは奴らだ」を始め、フレミング作品で何度も登場したシーンだし、フレミングの諸作やガードナー自身の過去のボンド作品、映画の007作品からの流用やオマージュと思しき部分が多く見られ、悪く言えば何処かで見たシーンの寄せ集めという印象も強いです。
ピラミッド型の建造物が爆発して活火山の様に見えるクライマックスは、映画「007は二度死ぬ」のオマージュでしょうかねえ。

敵であるスペクターの有り様は酷いもので、もはや威厳も何もあったものじゃない状態です。
魅力的なキャラクターもほとんど登場せず、唯一、ナニーはちょっと格好良くて可愛い所を見せてくれたと思ったら、あっという間に安っぽいキャラに落ちぶれてしまいガッカリさせられます。
その上、クライマックスでボンドが助けに行く相手が、ばあさん(メイ)とおばさん(マニーペニー)では、なんだかとてもしょっぱい感じです!(笑)

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