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秋山草堂〇〇七部屋・小説「007/孫大佐」

DATA

007/孫大佐
〈原題:Colonel Sun:A James Bond Adventure〉

1968年度作品
ロバート・マーカム(キングズリイ・エイミス)著

あらすじ

Mが誘拐された!
現場に居合わせながら、誘拐を阻止出来なかったボンドは、手掛かりを追ってギリシャに飛んだ。
そして現れる謎の美女。
その背後には、複数の組織の複雑な思惑がからみあっていた……。

解説

フレミングの死後、最初に書かれた“公式な”続編。
著者キングズリイ・エイミス自身、シリーズの大ファンであり、フレミングのオリジナルを大事にして書かれているのが分かります。
Mやビル・タナーはもちろん、ヴァランスやハモンドなどの登場人物や、世界各国の土地や食べ物に対する蘊蓄など、フレミングらしさをだそうとしていたのでしょう。
ただ、文体は明らかにフレミングとは別物なので、少し違和感を感じます。
そのあたり、“作家”キングズリイ・エイミスとして、文体まで変えられなかったと言うことなのでしょうか。

あと、身も蓋もない言い方をしてしまうと、展開が退屈で面白みに欠けます。
フレミングが様々な角度から読者の五感を揺さぶるサービス精神を詰め込んでいたのに対し、この作品にはそれが欠けている気がします。
先述の蘊蓄や描写にしても、蘊蓄の為の蘊蓄になってしまっている感が強く、フレミングの即物的で俗物的な満足感を読者に感じさせる語り口には到底及びません。

ヒロインであるアリアドネも魅力に乏しく、「ロシアから愛をこめて」のダーコ・ケリム風の傑物として描かれているはずのリツァスにしてもキャラクターが弱いように思えます。
敵の親玉、孫大佐も、ステレオタイプな中国人のイメージを引きずっている部分が多く、魅力や凄みに乏しく、只の拷問好きな中国人としか感じられません。
さらに、ボンドを拷問するのに、自分まで疲弊してヨボヨボになっている姿は情けなさすぎます。

展開としては、シリーズで初めてソ連を協力者として描いている点が当時としては斬新だったのでしょう。
ただ、代わりに中国が悪役に担ぎ出された訳ですが、その描写に東洋人蔑視を感じさせる部分が何ヶ所かあり、エイミス自身の東洋人に対する嫌悪感が出てしまっているのではないかとさえ思えてきます。

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