ホーム > 〇〇七部屋 > 小説「オクトパシー(「007/ベルリン脱出」改題)」
オクトパシー
(「007号/ベルリン脱出」改題)
〈原題:Octopussy,and The Living Daylights〉
1966年度作品
イアン・フレミング著
〈短編集〉
収録作品
オクトパシー(ポケミス版では「007号の追求」)
所有者はある女性(ポケミス版では「007号の商略」)
ベルリン脱出
解説/007のすべて
スリラー小説作法(ポケミス版にのみ収録)
■あらすじ
イギリスの退役軍人デクスター・スマイス少佐は、ジャマイカで余生を送っていた。
日のある内は海で魚と戯れ、夜はパーティ。
その他の時間は、酒と煙草に浸る毎日だった。
そんなある日、イギリスからボンドと言う男が、スマイスの元に現れる。
ボンドは、スマイスの過去の犯罪を暴きはじめるのだった……。
■解説
ボンドが登場する必要は全くない話なのですが、面白いので無問題。
舞台がジャマイカだと、ホントに描写が活き活きしてますな、フレミング。
■あらすじ
英国情報部に務めるKGBの二重スパイ宛てに、ファベルジェの高価な宝飾品が届けられた。
そして、その宝飾品が今度のサザビーズで競りに掛けられるという。
どうやら、それが二重スパイへの報酬らしい。
値を釣り上げる為にKGBの連絡員が現れると睨んだボンドは、オークションに紛れ込むが……。
■解説
意外性のないラストですが、それまでの雰囲気がいいので素直なラストにも不満は感じません。
二重スパイに気付いていた英国情報部が、取るに足らない情報と少しの嘘だけをそのスパイに与え続け、三年間もKGBを出し抜いてきたというのも良いですな。
ファベルジェの宝飾品の豪華さや、サザビーズでのオークションの雰囲気も、魅力的です。
■あらすじ
東側に潜入していた英国情報部員272号が、重要な資料を携えて東側から脱出しようとしている事が分かった。
しかし、運悪くKGBにもその事を知られてしまい、272号を殺す為に一流の狙撃手が送られてくるらしい。
272号が殺される前に、狙撃手を殺す事。それが今回のボンドの任務だ。
そして、東西ベルリンの境界線を挟んで、ボンドと狙撃手の対決が始まる……。
■解説
原作ボンドの魅力の一つに、殺しの許可証を持っているからこその殺人に対する嫌悪感のようなものを、ボンドが度々感じる所が挙げられると思います。
現実のスパイの世界なら、プロ意識に欠けるような甘い事を、ボンドは結構言ったりやったりしてしまうんですよね。
でも、そんな無駄な騎士道精神を大事に抱えている所が、ボンドを人間的で魅力的なキャラクターにしているのだと思います。
■解説
O・F・スネリング著の“James Bond Report”より抜粋したもので、ヒロインや敵、ボンドの銃や車、略歴などを記したもの。
「わたしを愛したスパイ」の項の解説で、(大変激しい、恥知らずなラヴシーンが続く。)などと書いてあったりすると、時代を感じさせ微笑ましくなってきます。
■解説
フレミングによる「ベストセラー小説の書き方」。
他人を皮肉りながらも自嘲的なオチも付けてみたりする、ひねくれ者のイギリス人らしい面白いエッセイです。
まず、初っぱなの「私の小品は人間を変えようというものでもなければ、外に出て何かをさせようというものでもない。(中略)それは熱い血を持った異性好きの人々に、汽車や飛行機やベッドの中で読んでもらうように書かれたものである。」と言う一文から素晴らしい!
そして、「ベストセラーを作るにはただ一つの秘訣がある(中略)つまり、読者がページをめくり続けるようにしなければならないということである。」と来て、「だからこそ、文章は単純で率直でなければならない」と言うことなのだそうですが、「わたしはこの点でしばしば大変な過ちを犯している」とか言ってます(笑)。
そして次の一節が最高なのですが、「私がいろいろな事物や場所の詩情に興奮させられてしまって、わたしの小説のペースがすっかり落ちてしまうことが時々あるが、その時わたしは読者の咽喉首をひっつかんで、読者が気に入るに違いないと勝手に思い込んだ大きな塊をその口に突っ込み、同時に自分がとくに気に入ったことについて、「こいつを好きになれ、この馬鹿野郎!」とわめきながら、読者を猛烈にゆさぶっているのである。」なのだそうで、もうなんと言うか、フレミング最高!(笑)
ホント、ポケミス版でしか読めないのが勿体ない傑作エッセイです。