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秋山草堂〇〇七部屋・小説「007は二度死ぬ」

DATA

007は二度死ぬ

1964年度作品
イアン・フレミング著

あらすじ

トレーシーを失ったボンドは、生きる気力を失い廃人同然になっていた。
この様子を見かねたMは、荒療治とも言える難しい任務をボンドに命じる。
日本へ赴き、万能暗号解読器マジック44を入手せよ、と言うのだ。
勝手の違う日本の文化に悪戦苦闘しながらも、日本の情報部のボス・タイガー田中の信頼を徐々に勝ち得ていくボンド。
そんなある日、タイガーはボンドの思惑を全て見透かすように、ある提案を持ちかける……。

解説

原作第12作。
どこか悪い夢でも見ているかのような雰囲気が全編を包む異色作です。
お歯黒を塗った女将と若い芸者がいるお座敷で、ボンドとタイガーがジャンケン勝負をすると言う妙に居心地の悪いシーンから物語が始まるのが象徴的です。
ボンドは嫁さん殺されたせいですっかりダメ人間になっているし、いつものような明確な敵の存在する任務では無く、敵ではないけど友達の友達的な疎遠な味方国から重要アイテムをゲットすると言う慣れないネゴシエーション中心の任務も雲を掴むような感じだし、日本に来たは来たで(西洋人にとって珍妙な)日本文化に振り回され、後半の江戸川乱歩風な死の城も、ラストの対決も、キッシーに助けられてからのボンドの有り様も、全て悪夢と言う言葉がピッタリきます。
そんな悪夢的雰囲気がいつにない魅力になっているのが、この作品の面白い所です。

この作品が書かれて50年近くたった現代の日本人である我々から見ると、その詳細な日本描写に(忍者はともかく)「昔はそうだったのかも知れないな」と思いつつ、今では失われた日本文化やその中の精神的な部分に郷愁と違和感を感じながら、更にそれが外人であるボンドの視点で語られるという二重のフィルターを通しているので、妙にリアリティがある部分とファンタジックな部分が平気な顔で共存している所が悪夢的雰囲気を強めている理由の一つになっているのだと思います。

三度目の登場のブロフェルド氏は、もはや狂人と化し、「サンダーボール作戦」の頃の威厳は見る影もありません。
妻を殺されボロボロになった男と、計画をことごとく邪魔され狂気に落ちた男。
宿敵同士の死を賭した戦いの結末は、それに相応しい生々しく物悲しいものでした。

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