死ぬのは奴らだ
1954年度作品
イアン・フレミング著
アメリカの黒人社会を牛耳る犯罪王ミスター・ビッグが、イギリス領ジャマイカから大量の古代金貨を持ち出し、アメリカに不正に持ち込んでいるらしい。
アメリカに飛んだボンドは、旧友フェリックス・ライターと調査に乗り出すが……。
リゾート地、ロワイヤル・レゾーが舞台の前作「カジノ・ロワイヤル」から打って変わって、この第二作「死ぬのは奴らだ」では、アメリカは黒人街ハーレムからジャマイカと、野趣溢れる舞台設定になっていて、内容的にも冒険小説風味が強くなっています。
また前作に比べ、良い意味でオーソドックスな娯楽作に変わっており、フレミングも今作からシリーズ作品である事を意識して書いたんじゃないかと思えます。
ボンドの性格も、感情の起伏の激しかった前作に比べ、心理描写も少なく個性も薄めです。
そこら辺も、この後のシリーズ展開を考えての事だったのでしょうかねえ。
物語的には、前半のハーレムでの冒険は、ボンドが能動的に動かないのと、フレミングならではの描写の魅力に乏しく、少々退屈でした。
黒人社会を恐怖で支配するミスター・ビッグの恐ろしさの表現も、通り一遍に感じられてもう一歩踏み込みが欲しい感じで。
しかし、セント・ピータースバークに向かう列車でソリテールと再会した辺りから、徐々にテンポアップしていき、ジャマイカに着いてからは細かいディテールで雰囲気を盛り上げるフレミング節が炸裂。
よほどジャマイカが好きだったんでしょうな、フレミングって(笑)。
そして、息もつかせぬクライマックスから静かなエピローグまで、ダレる事がありません。
シリーズとしての一歩を踏み出した第二作。
娯楽作として申し分ない出来です。