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秋山草堂〇〇七部屋・小説「カジノ・ロワイヤル」

DATA

カジノ・ロワイヤル

1953年度作品
イアン・フレミング著

あらすじ

ソ連の工作員ル・シッフルが党の資金を使い込み、カジノでその埋め合わせをしようとしていると言う情報を掴んだ英国情報部は、情報部員007号ジェームズ・ボンドを派遣した。
ル・シッフルの計画を阻止し、東側に大きな打撃を与える為だ。
そして、カジノ・ロワイヤルで史上最大の賭けが始まった!

解説

あり得ない設定をリアリティを持って描くと言うのは、原作、映画に共通した007シリーズのテーマだと思うのですが、原作第一作であるこの作品も“バカラで敵を破産させる作戦”というある意味とても非現実的なプロットを、様々な描写の肉付けによってリアリティを持たせる事に成功しています。
というか、しつこいほどの描写こそがフレミング作品の真骨頂であると言えるでしょう。
それに加えて、井上一夫の名訳がさらに雰囲気を盛り上げてくれます。

物語的にも、カジノでのボンドとル・シッフルのバカラ対決は緊迫感があり、まさに息詰まる山場になっています。
そして、(一応ネタバレになるので詳しくは書きませんが)ル・シッフルとの対決を中盤のクライマックスとして、その後波が引くように後日談に入っていく予想外の展開ながら、その間も静かな緊張が持続されていて最後まで全くダレる事なく、見事なラストシーンへ。
ヴェスパーの手紙とボンドの最後の台詞には胸を締めつけられます。

ボンドの性格も、気性が激しく(時代性もあるでしょうが)男尊女卑的で、本当なら好感が持てなさそうな性格であるのに見事に感情移入してしまうのは、その不完全さが人間臭さを感じさせてくれるせいなのかも知れません。

処女作ならではの輝き。
フレミングの全てが詰まった文句なく名作と言える作品でしょう。

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