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秋山草堂〇〇七部屋・映画「ワールド・イズ・ノット・イナフ」

DATA

ワールド・イズ・ノット・イナフ

1999年度作品
監督 マイケル・アプテッド
脚本 ニール・パーヴィス
   ロバート・ウェイド
   ブルース・フェアステイン
音楽 デヴィッド・アーノルド
主題歌「The World is Not Enough」ガービッジ

出演
ジェームズ・ボンド
 …ピアース・ブロスナン
エレクトラ・キング
 …ソフィー・マルソー
レナード(ヴィクター・ゾーカス)
 …ロバート・カーライル
クリスマス・ジョーンズ
 …デニース・リチャーズ
ヴァレンティン・ズコフスキー
 …ロビー・コルトレーン
M
 …ジュディ・デンチ
Q
 …デズモンド・リューウェリン
R
 …ジョン・クリーズ
シガー・ガール
 …マリア・グラツィア・クチノッタ
マニーペニー
 …サマンサ・ボンド
ビル・タナー
 …マイケル・キッチン
ロビンソン
 …コリン・サルモン
ブル
 …ゴールディ
ロバート・キング卿
 …デイヴィッド・カルダー
ドクター・モリー・ウォームフラッシュ
 …セレナ・スコット・トーマス
ダヴィドフ
 …ウルリク・トムセン

あらすじ

石油王ロバート・キング卿の300万ポンドもの大金を、テロリストから取り返したボンド。
しかし、密かに現金に仕込まれた爆弾によってキング卿は殺されてしまった。
キング卿の娘エレクトラを誘拐した前科のあるテロリスト、レナードの仕業と睨んだボンドは、エレクトラ自身が次のターゲットになる危険を懸念する。
Mは、エレクトラ警護の為、ボンドを派遣するが……。

解説

シリーズ19作目。
以下ネタバレありなので、未見の方は要注意(って程でもありませんが)。

「ボンドは、エレクトラといい仲になるけど、実はエレクトラは悪い子で、テロリストのレナードと出来てました」てなネタ自体は、悪くないと思うのですが、展開が散漫でメインのプロットに上手く乗れないもどかしさを感じます。
レナードの恐ろしさとエレクトラの狂気をもっと深く描いて情念の物語として仕上げるか、逆にボンド×エレクトラの恋愛展開を無くして「悪者バカップルに振り回されるボンド」的な切り口に仕上げるとか、の方が面白くなったのではないでしょうか。

そんな感じで、エレクトラが黒幕である事が判明する後半まで、敵の思惑や最終的な計画がぼかされている為、全体的に回りくどい話になってしまっています。
脚本の方も、辻褄合わせにイッパイイッパイで、回りくどい話を少しでも分かりやすくする為の工夫が、説明的な台詞を多くする程度の事しかなされていないのも問題かと。
とりあえず初っぱなの「機密書類が盗まれて」「MI6の情報部員が殺され」「キング卿が書類を買い戻して」「ボンドがお金を取り戻す」と言う流れなんかも変で、「買った上で、金まで取り戻す」って、落語の壺算の様にしか思えません。
それこそ、レナードが「こっちの思う壷や」とでも言いそうです。
冒頭のこの件は「金取られたから、取り返しに行った」ぐらいに単純にした方が良かったのではないかと思います。

ブロスナンは、前作に引き続き、非常にバランス良くジェームズ・ボンドを体現していて文句がありません。
あまりに卒が無さ過ぎるのが、欠点と言えるほどです。
ソフィー・マルソーも、情緒不安定な役を演じさせれば世界一のフランス人だけあって、独特の魅力がありますね。
雪崩に巻き込まれてパニックを起こすシーンや、ボンドに怒鳴られて子供のようにビクッとするシーンなど、いい感じです。

一方、お色気要員としては見事にその役割を果たしているデニース・リチャーズですが、シナリオ的にクリスマスは全くいらない子なのが難点です。
パイプライン内を高速走行しながらの原爆解体など、ボンド一人で処理した方がよりサスペンスが増したでしょうし、潜水艦のシークエンスもまた然りです。
また、ロバート・カーライルと言う味のある役者を使いながら、あまりに存在感の無いレナード。
痛みを感じないと言う設定もほとんど活かされず、手下から畏怖される所以となる威圧感やカリスマ性も全く感じられません。
なんかすごく勿体ないキャラです。

さてさて、今作が最後のQことデズモンド・リューウェリン氏。
撮影の数週間後に交通事故でお亡くなりになったと思うと、あの退場シーンは何度見ても感慨深いものがあります。

アバンタイトルのテムズ川でのボートチェイスは素晴らしい出来です。
それ以外のアクションシーンも、「目先を変えよう、趣向を凝らそう」と言う意図は感じられますが、それらの工夫が逆にリアリティを無くしていて、サスペンスを殺いでしまっているように思えます。
狙いは悪くないし、好きな要素もあるのですが、テーマを絞り込めていない所が、全体的な散漫さに繋がった、個人的にちょっと勿体ない作品だと思います。

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