HONDA Accord 2.0VTS Model 1997
First Impression




 やはり比べてしまうものである。
 だが、比べるというのはその対象がお互い比較するに足るもの同士であるから出来るし、その気も起こるのである。例えば2輪車として初めて乗ったYAMAHA DT50(第1種原付・2サイクル・オフロード)と、現在の愛車Kawasaki BALIUS(250cc・4サイクル・オンロード)とでは足着き程度しか比較出来る要素はなかったし、4輪でも、まだ軽の規格排気量が550ccだった頃の最初のパートナーHONDA today(これも名車の1つに数えてもいいだろう)と、6年4ヶ月と決して短くはない間付き合ってきた同じくHONDAのCONCERTOとを比較してみる気にもならなかった。
 然るに、そのCONCERTOと、3台目の愛車HONDA Accordとでは如何。

 CONCERTOは国内セールスでは必ずしも成功しなかったかも知れない。しかし、間違いなく名車であると思う。CIVICベースではあるものの、ROVERとの混血という生い立ちもあって(実際儀装等を変えてROVERが416SLiとして市場に出していた)、ROVER風(?)の造りの良いキャビンとHONDAの元気の良いエンジンを兼ね備えた、徳大寺の受け売りではないが「小さな高級車」たり得た車であった。
 私の乗っていたJX-iタイプについて言えば、エンジンはVTEC全盛となる以前の名機ZCのSOHC16バルブモデル。CIVICやCR-XのホットモデルSiには、このZCのDOHCバージョンが積まれていた。が、SOHCでも120PS、14.5kgmの出力を誇る。この値は、同時期の同排気量DOHCユニットであるTOYOTAの4A-GE(AE92のLEVIN/TRUENOに搭載)と等しく、NISSANのCA16DE(RZ-1/EXAに搭載)をトルクで0.5kgm上回っていた。(いずれもレギュラーガソリン仕様)
 それでいてキャビンの静粛性は、当時としては極めて高かった。静粛性のみならず、6ライトの明るい、天井の高い室内は後席居住性も優れ(4ドアにしてこれが犠牲にされている車種がいかに多いことか)、燃料タンク容量を削ってまで備えたという厚く大きいシートクッション、生真面目な配置のメータやセンターコンソールの使い勝手も良かった。そのくせトレッドやホイールベースの寸法は思いのほか大きくなく、取り回しも楽であった。
 また燃費も4名乗車の市街地走行でも最低9km/lは確保出来、機嫌のいい時は12kmを超えることもあった。
 点火系のリコール1回、トランスミッションのトラブル1回と、後は3、4のマイナートラブルはあったものの、総じて不満らしい不満はなかった。(敢えて言うならば、静電気怖さに窓ガラスを押してドアを閉めていたら、運転席だけ風切り音がするようになってしまったというのはあるが、これは自分の不注意である。それと、オプションのカップホルダーは設計不良かよく支柱が折れた。)
 つまりCONCERTOは私にとって極めて満足度の高い車だったのである。

 この名車の後釜となったのが、出たばかりの6代目Accord(何故か今回はロゴが全て大文字ではなくなった)の主力モデル、Accord 2.0VTSである。
 そもそも私としては、発表直後の新モデルを買うというのは、やや珍しい。確かにtodayは3気筒を積んだ5ナンバーモデルとして出たばかりを手に入れたが、スタイルそのものはそれ以前の丸目4ナンバー2気筒(!)の時と同じ「ペンタストリームシェイプ」のままであり、またCONCERTOはマイナーチェンジ後の後期モデルであった。モデルのライフサイクルを考えれば全く参考にはならないが、2輪ではBALIUSはデビュー5年めの、DT50に至っては10年めのモデルを買っている。

 寸法は、良心的な(?)5ナンバーに戻ったこともあり、CONCERTO比、幅は5mm広がるに留まったが、長さで220mm大きくなり、ホイールベースも115mm延びた。スタイリングとしては、メッキのモール類が全くないためきらびやかさには欠けるものの、お世辞にもスタイリッシュとは言えなかったCONCERTOと比較すれば、ルックスはAccordの方が格段に上である。ディーラーでの営業マン談として、展示会の客が若向けのデザインであると言ったというが、さもありなん。

 運転席へ。頭上が非常にきつい。Aピラーがかなり傾斜している。カタログの側面図を分度器で測るという大雑把な真似をしたところ、対接地線角度はCONCERTOの34度に対しAccordは32度である。おまけに私は座高が高いくせにシートバックを立てたアップライトな姿勢を好むので、ルーフが額の辺りに迫って来るような感じになる。実際運転席でヴォルヴィックの500mlペットボトルのラッパ飲みは少々無理があった。室内高はCONCERTOに対し20mmのプラス、座面高で前席10mmプラス、後席変更無しなのだが、CONCERTO程上方の広さを感じることはなかった。
 シートはCONCERTOが運転席のみであるが電動パワーシートを積んでいて、気分や体調に合わせて座面を数cm、あるいはシートバックを1、2度という微調整が出来たのに対して、Accordはオーソドックスな調節方式である。まだしっくり来るポジションが見出せない。さらに曲者なのが座面高さの調節機構で、前が高いの後ろが低いのとごちゃごちゃしてしまう。
 さらに座面であるが、どうもAccordの方がCONCERTOより小さいような気がする。運転席座面幅でわずかに15mmの違いでしかないのだが、サイドの張り出しやクッションの厚みなど、数字以上にCONCERTOの方が大きかったと思える。代わりに確かにセンターアームレストなどはAccordの方が大きい。他にも両シート間の幅の割と大きめな車があり、CONCERTOを見てどうしてこいつのはこんなに小さいんだと思ったこともあったが、どうやらシートの大きさがその一因だったようだ。
 もう一つの理由と思しきは、ドア内張りの厚みである。CONCERTOのドアの内張りは非常に厚く、肘を掛けられる程だった。しかしAccordはその半分程度の厚さしかない。その代わりかドアが外へ膨らんでいる。サイドインパクトバーや電波式ドアロックのアンテナを内蔵しているためであろう。
 CONCERTOではドア内張りからダッシュボードを経て反対側へと、ほぼ室内を取り囲むように貼られていたつや消しの木目調パネル(もちろんプラスチック)が、Accordでは同じプラスチックながら光沢調となり、最近の主流となっているセンターコンソールからATセレクタへかけての位置に移った。これも多少印象が変わるところである。ATセレクタのレバーは短めで、BMWのそれを思わせるという説も。ここはCONCERTOより品があるか。

 ドアの話でついでであるが、CONCERTOが凄かったと思わせるのは、フロントドアの内側下部である。スピーカ面が布張り、カーテシーランプの付いたドアポケットに至ってはカーペット張りである。この点Accordは完全にプラスチックなので、もしドア1枚を持ってきて内側だけ見せたら、CONCERTOの方が価格の高い車だと思われるのではなかろうか。
 他にドア関係で大きな違いと言えば、パワーウィンドウのスイッチと運転席以外のアシストグリップだろう。CONCERTOのパワーウィンドウスイッチは、壁面に垂直に貼り付いている感じなので、多少違和感がないではなかった。一方Accordはよくある肘掛け埋め込み式。しかし私のポジションでは、普通に手を伸ばすと、後席のスイッチが操作しずらい。アシストグリップは、CONCERTOでは、天井の他に肘掛けに腕を置いた位置から握れるようにも付けられていて、地味ながら気に入っていた部分だが、Accordでは天井だけになってしまった。

 そしてダッシュボード。私はかつてメータ配置とメータクラスタについては拘りがあって、メイン2眼(スピード&タコ)とサブ2眼(燃料&水温)の対象配置のメータをクラスタがきっちり囲う感じのものを好んでいた。todayはやや変則的(分度器のような半円形のタコメータの下に燃料計と水温計がある)だがこの形だったし、CONCERTOは正にこれであった。ところがAccordはスピードを中心にタコ・コンビ(燃料&水温)を左右に配した、PAJERO風穴ぼこ式3眼が長い庇の下にある。この配置では左に配されたタコメータの上端や左端がステアリングホイールに隠されて見にくいという難点がある。おまけにメータは少し上を向いているので、埃が溜まりやすい。
これも当世の常識となった運転席・助手席エアバッグを装備。CONCERTOにはエアバッグは付いていなかったが、その代わり(?)にステアリングホイールにはHONDAのHマークではなくCONCERTO独自の上品なオーナメントが入り、助手席前には小物の置けるトレイがあった。今回はエアバッグ装着車だけあってステアリングホイールに趣向を凝らせないのは致し方ないか。
小物入れはさすがにAccordの方が充実している。もっともサングラスホルダーなどはまず使うことはあるまいが。それと縦形グローブボックスは使いにくい。車検証入れという位置付けではあろうが、CONCERTOの時、私は書類の類は助手席のシートバックポケットに入れ、グローブボックスにはカセットテープなどが入っていた。今回はグローブボックスの深さがかなりあるので、中に入れたものの確認がしにくい。結局グローブボックスにはクリンビュー(丸ものバンドはアイディアものである)と軍手、懐中電灯が入り、カセットの類はセンターアームレストの下に。しかしことある毎にカセットケースががちゃがちゃいうのはかなわない。
 アイディアものと言えばカップホルダーもそうだ。既に書いたとおり、CONCERTOのカップホルダーは最大の難点で、使用しない時はセンターアームレストの中に畳まれるのだが、畳み込み機能が明らかに設計ミスで、支持アームが何度も折れた。スライド式の今回はその心配もない。
 エアコン・オーディオの操作性は悪くない。今更のようではあるがラジオの交通情報一発呼び出しスイッチは嬉しいし、ガラスプリントのアンテナも立体駐車場で気にしなくて済むのがいい。エアコンはこれもフルオートだがCONCERTOと操作系は大分異なり、ボタン操作の際にピッという音は出なくなった。回転式の室温調節は1度刻み。これはMITSUBISHI並みに0.5度ステップにして欲しかった。その他スイッチ系はほぼ問題無いのだが、ただ最も重要なイグニッションスイッチ、即ちキーが宜しくない。CONCERTOでは、キーホールが真横からやや運転手側に向けられていて、自然に抜き差しやひねることが出来た。Accordではこれがほぼ真横を向いている。キーシリンダ照明が何のために付いているのか分からないような状態である。シートに落ち着いてから気分よくキーの操作を、と言うには難ありだ。おまけにぶら下がったキーホルダー(ドアロックのリモートコントローラ)が膝に当たる。

 我慢して(?)キーをひねる。私が今まで乗ってきたのは軽のtodayに至るまでいずれもPGM-FIを載せたHONDA車であるが、始動の時の共通するおまじないがある。キーをSTARTまで一気に回さず、ON位置で一旦止める。ここで警告灯のチェックが入るが、PGM-FI警告灯の黄色いランプが消えるまで待つのである。本当におなじないに過ぎないという説もある一方で、いや制御コンピュータの初期化をしているのだという説もある。私は一応後者の信奉者である。
 セルの高い音は1秒程。床下からどんという変な振動が伝わり、エンジンが始動する。F20B型SOHC VTECタイプである。アイドル・アップはCONCERTOより速い。そして静かである。アイドリング回転数は700rpm。
 走り出すと、4気筒とは思えない音。CONCERTOは回すと「トォォン」という、いかにも4気筒という音がしたが、このAccordは、まるでV型6気筒のような音がする。4000rpm迄回してみても、あまり4気筒らしいフィーリングは感じられない。SiR系ではこの辺も変わって来るのだろうが。
速さという点では、さすがに400cc、30PS、4.5kgmのアドバンテージは大きい。1.3tもあるのに、4速2000rpm、80km/hまであっさり上がる。それでいて静か、振動もない。これはCONCERTOに優るとも劣らない。ただしエンジン性能曲線を見ると、CONCERTOのトルクカーブは綺麗な台形を描いているのに、AccordはVTECの切り替えのためと思われるが、2900rpmから3300rpmにかけて極端にトルクの谷がある。実際にハーフスロットルで発進加速をしていくと、その谷間あたりでシフトアップされる。吹け上がりという点からは、これは正直な話あまり気持ちのいいものではない。経済性を取るか爽快感を取るかは、運転者が自分で明確に切り替える必要がある。
ATはPROSMATEC。HMM(ホンダ・マルチマチック、無段階変速機)が載るかという予想もあったが、見送られたようだ。シフトショックはほとんど感じられない。セレクタも7ポジションとCONCERTOより1つ増えている。これは進化した分確かにAccordの方が上だ。
ブレーキペダルはストロークが短く、ブレーキディスクとパッドの接する感触が足に伝わってこない。制動性は良好。信号待ちなどで停まると、まるでエンストでもしたかのような静かさである。
 そこそこ回すとどの程度走ってくれるかは、これから先の期待のままにしておかざるを得ない。また燃費は馴らし中故参考程度だが、1人乗車の郊外走行燃費と4人乗車の高速+渋滞時燃費共に、ほぼ10km/lを記録した。この数字はCONCERTOに匹敵する。2000ccとは思えない好燃費である。やはりVTECによる低回転時の吸気1バルブ停止が効いているようだ。
 EPSのパワーアシストは、中立でもやや軽すぎると思える。重めに振っても、気持ち重いかな、といった程度。昔のACCORDのパワーステアリングは、このEPSを軽めに振ったのと同等だったと聞いて驚いた。試しに軽めにセットしてみたら、気持ち悪くて運転できたものではなかった。ステアリングはアンダーが強いように思える。さすがに寸法拡大が響いてか旋回性はCONCERTOに劣る。

 夜間走行の際、ディスチャージヘッドランプの明るさに驚く。これはすばらしい。点灯時のブルーの光だけでもぞくぞくする。他の車の後ろに付け点灯すると、前の車のテールに青い光が浮かび上がる。フォグランプも明るい。CONCERTOのオプションのフォグランプは点いているような気がしなかった。燈火系については完全にCONCERTOを凌駕している。さらにドアロック解除時のエントリーランプも気に入った。明かりを点けてお迎えとは気がきいている。
 ドアロックも、CONCERTOの赤外線式は運転席ドアノブ付近のセンサーに向けて、という指向性制限があったが、Accordの電波式は指向性もなく、距離的にもずっと遠くから制御できる。ただし従来までの充電式が廃されたことと、コントローラがキーホルダータイプというのが少し残念である。CONCERTO同様のキー一体式が望ましかったが、トランクリッドの解錠機能もあるので、大型化が避けられなかったか。

こうして見てみると、AccordのCONCERTOに対するアドバンテージは、400ccの排気量差による点と、8年という時間の経過(CONCERTOのデビューは1989年である)による技術発展を反映した細かい装備の2つに尽きると思われる。かと言って、その他が尽く劣っているという訳ではない。劣っているのではなく性格付けの違いと受け止めるべきかと思う。CONCERTOは基礎を徹底的に詰めた上で、時代の要求もあってか(開発時期がバブルと重なっているはず)高級感を持たせたセダンであり、通好みとも言えるが、一方AccordはHONDAのフラッグシップという立場もあり、良きにつけ悪しきにつけ万人向けという性格を幾分かでも持たされることを余儀なくされているだろう。

 CONCERTOを知った後では、Accordはセダンとしての基本部分は飛び抜けているといった印象はないが、そこそこの点は付けていいと思っている。また単純に動力性能を考えれば、それは従来に比べて魅力である。しかしまだ何分にも日が浅い。これから慣れていくにつれ、満足も不満も新たに生じたり変わったりすることであろう。思い返せばCONCERTOには一目惚れ同然で、付き合っていく間にその選択が誤っていなかったどころか大正解であったという思いが深まっていった。そして今回、Accordにはその時のような強力な魅力を感じたわけではなかったが、さてこれからいかが相成りますことか。

le 19 novembre,1997




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