「紀行」目次 翠簾洞ホームページ入口


牛若丸で有名な鞍馬山の麓には立派な温泉旅館がありますが、別棟で日帰り入浴が出来る広々とした露天風呂があります。単純硫化水素泉だと云う湯は透明・無臭です。まだ風が冷たいなか、山ふところに囲まれた温かい湯槽にのんびりと浸かっていると、歳も忘れて真によい気分です。


鞍馬温泉 2015年

1月30日

30日は無聊をかこち、午後二時頃から思い立って鞍馬温泉に行って来ました。「鞍馬温泉」バス停は「静市駅前」から5、6個先の終点です。


 広い駐車スペースを前にして、鞍馬温泉の本館は10段ほどの階段を付けた、山あいらしからぬ堂々とした二階建てです。内湯もあるようですが、「峰麓湯」と称する露天風呂は別棟です。入口の階段下に自動券売機があって、その脇の小屋に居た案内人兼管理人がチケットを受け取りました。何も自販機で買うほどの手間は要らないのにと思いました。


 入湯料は日帰り千円ですが、私は手ぶらで行ったので、2百円でタオルも買いました。上の孫娘が中学生の頃二人で来て男風呂に一緒に入ったのを思い出しましたが、その時は脱ぎ捨てた靴を盗られたオープンの下駄箱が、今回は銭湯と同じように下足札がついたロッカー?になっていました。その他は脱衣場も露天の大浴場も昔のままでした。


 朝の雪模様は上がっていましたが金曜日だし、相客は中国人らしい男が湯から上がって脱衣場で服を着かけていた一人だけで、湯槽は無人でした。その男は、私と入れ違いに出て行った男に何か英語で尋ねていましたが、尋ねられた男は「ジャパニーズオンリー」と答えたのでそこ迄の会話でした。服を脱ぎながら私が拙い英語で、独りで来たのか尋ねたら、女風呂に入っている妻と一緒だと言っていました。


 露天風呂の湯加減はどちらかというと稍ぬるめで、ゆっくりと浸かっているのにはちょうどよいくらいです。私が湯槽でゆったり身体を伸ばしていると痩せて長身の男が独りで入って来て、一通り湯槽に浸かるとすぐに洗い場に入って身体を洗い、また大浴場に戻ってきました。


 そこへ肩から上腕にちょっと入れ墨をした若い西洋人の二人連れが何か話しながら入って来ました。肩まで湯に浸かって暫く二人で何か話していましたが、髭もじゃの男が湯から出て行くと、残った一人が湯槽の中を私の方へ寄って来ました。彼らは豪州人だそうで、私に仕事は何かと聞くので、もう82歳だから仕事はしていないと言ったら、40に見えると言われました。


 湯から上がって服を着るのも同時くらいでしたが、二人が脱衣場でウォーキングシューズを履くのを見たので、入口まで連れて行って下足ロッカーを教えてやりました。彼らは明日は奈良に行くとか、そして鞍馬温泉と叡電鞍馬駅間のシャトルバスに乗り込んで帰りました。


 そんな具合で、鞍馬温泉には外人客が圧倒的に多いようですし、彼らはこの自然たっぷりの風物が気に入っているらしいです。1時間ほど露天風呂を楽しんで来ましたが、結局その間、日本語の会話はありませんでした。

     のどかさや 英語ばかりの 鞍馬の湯


 身体もすっかり暖まっているので、帰りはバスに乗らずに街道をブラブラと下って来ました。

「鞍馬」は立派な旧家がバス道路沿いに軒を連ねていて、往時の繁栄が偲ばれる聚落でした。中に1軒、重要文化財だという卯建を上げた情緒たっぷりの「何とか家住宅」があり、その案内板によると鞍馬は若狭へ続く鞍馬街道の宿場町だったそうで、牛若丸が修業した鞍馬山で行き止まりと思っていた私は啓発されました。

     雪解けや 卯建の家もある 鞍馬路


 佃煮屋の「辻井」に入って、グルテンを細かい粒状にして鳥そぼろに見立てた精進料理の「雲珠梅」と、蕗など山菜を集めて煮込んだ「深山しぐれ」を買いました。

家並みを数軒進むと、店構えも商品も同じような佃煮屋がもう一軒ありました。


 更に下ると一旦家並みが途切れて、鞍馬寺の門前に出ます。石段を登って行くと右手に保育園があり迎えの母親たち数人がわいわいやっていました。

     さわぐ子等 保育園あり 鞍馬寺


 更に石段を登ると「ケーブル」という大看板があり、宿坊だったかと思う大きな建物が乗り場になっています。

入って見るとおかみさんが出て来て「今日はもう終わりましたが…」というので「他日来るときの参考に…」と答えると、私一人のためにわざわざ奥に戻って電源を入れ、パノラマを点灯しながら、由岐神社、本堂、奥の院、牛若が住んだ坊や修業した峯道、更に峰伝いに廻って貴船神社に下りるコースを精しく説明してくれました。大国主神と少彦名神を祭神とする由岐神社は鞍馬寺の守護神で、貴船神社は別な神社だということでした。その時最終?ケーブルが着いたのか乗客が大勢現れたので、辞して外に出ました。

     ケーブルの あとまた険しき 鞍馬山


 鞍馬寺の階段を下り、門前に出て少し歩くと、「鞍馬」バス停に着きました。

バスの時間まで20分近く待つので、その前の甘味と軽食の店に入りました。温泉で会った中国人夫婦と覚しき二人連れが何か食事をしていましたが、私は950円の生麩餅と蕨餅のセットを注文しました。共に黄粉がたっぷりと掛けてあり、黒蜜が添えてあります。一皿によもぎや胡麻など3種類を盛った生麩餅は温かくて、空きっ腹にはとても美味しかったです。残念ながら、お茶はお薄ではなく番茶でした。

     バス待てば 春なお寒し 麩餅喰う


 勘定を払って表に出ると、間もなく数人の客を乗せた京都バスが来ました。「貴船口」を通過するとき貴船神社の赤い鳥居を望見しました。市原までは随分細くて曲がりくねった道で、対向車を見ると一方が道路端に停まって道を譲っています。

     鞍馬路 細くくねって 冴え返る


 家に着いたのは五時頃だったでしょうか、雪空に夕闇が迫っていました。 みやげに一句、

     雪解けの 水なお浅し 鞍馬川

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<2015.2.15.>