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漆工の個展を開いているという京都新聞文化欄の記事を見つけたので、バスを乗り継いで祇園に行ってみました。平日昼下がりの祇園ですが、これが「はんなり」という雰囲気かと合点して大変気に入り、一週間後に再訪いたしました。


祇園探索 2015年

1月20日

今日は京都新聞の囲み記事で見た漆工の個展を見に祇園までやって来ました。それは高台寺の前の石塀小路という路地奥でやっていました。

さすが祇園だけあって、貸衣装を着たインスタント舞妓さんを何人も見掛けました。その一組に「石塀小路はどこですか」と尋ねたら、はにかみながら「判りません」と返ってきたのは標準語でした。

町を歩いている娘たちにも和服姿が多く見られましたし、中国人かと思われる集団が何組も来ていて、スマホ写真をやたらに撮っていました。

また人力車も沢山走っていました。浅草の人力車と違って、高台寺の坂を登り降りする車夫さんはご苦労なことですね。

漸く探し当てた石塀小路は、ちょっと古びて一様に続いた板塀の所どころに門を付け、同じような割烹が何軒も並んでいるので驚きました。夜になると目が覚めたように忙しくなるのでしょうか。

しかし、昼下がりの石塀小路は瀟洒な住宅街としか思えず、如何にも京都の狭い路地裏という印象で、石畳の雰囲気など静謐そのもの、とても気に入りました。


 目的の漆工展では、大判の飾り鉢と20センチ径くらいの盆が多く、碗や皿はちらほらでした。短冊掛けや、柱掛けの香炉、ブローチなどにはユニークな作品が見受けられました。

盆の地色に白漆を使っていて、白漆の色を始めてみましたが、ミルクを入れ過ぎたミルクティーのような色でした。

参考になったのは、色漆を硝子に塗って硬化後削り落とし、微粉末にして粉筒で蒔くという手法です。その結果は磨りガラス状の表面になり、漆の艶が押さえられています。食器類にすれば指紋が目立たなくなるかと思いました。型紙などを使ってこの手法で色粉を蒔けば、紅柄のような文様もボカシも出来るでしょう。面白いと思います。TOPへ

1月28日

前回は石塀小路まで直行直帰でしたが、祇園の町並みは活気があり華やいでいて楽しそうだったので、今回は八坂神社前から川端通りまでの両側を、歌舞錬場など東西の小路・路地を行きつ戻りつしながら、並んでいる店を1軒ずつ見回ってきました。

昼前でしたが、屋号入りの提灯をぶら下げた家が並んでいる路地を、髷を結い上げ黄八丈なのか黄色っぽい着物を着て風呂敷包みを抱えた若い娘が、後ろ手にカタンと引き戸を閉めながらそそくさと出て来る姿は、樋口一葉の世界を見るようでした。


 その日は水曜日でしたが、アーケードで覆われた歩道は大勢の人で溢れんばかりです。中国人や韓国人などは2、3人の組だと見分けが付きにくいのですが、金髪婦人も何組も見掛けました。しかし小旗を持った男性ガイドに率いられた30人くらいの団体客は、ガイドも含めて中国人らしく、甚だ迷惑な行動が多くて雰囲気を毀しています。

今は寒いばかりの京都でしょうが、どうも日本人よりも海外からの観光客の方が多いようです。


 隙間無く軒を連ねた商店は多種多様な物を扱っています。中でも和菓子屋が一番多いようで、漢字四文字の同じような屋号をつけています。多くは生菓子と干菓子を店の左右に並べていて、どの店にも源氏名をつけた季節の練り切りがあり、甘い物が好きな私には薄茶の香りも感じる想いですが、帰途を思うと潰れてしまいそうで結局何も買わずに終わりました。

京都らしい小物類は本当に可愛らしくて江戸土産には恰好です。着物や和傘、京扇子など、京都ならではの専門店もここへ来ればすべて用が足りそうです。

何を扱うどんな店も、いずれも京都らしい店構えと売り場で、江戸育ちの田舎物には、どちらを向いても目の保養です。


 川端通りに近付くと商店と並んで突然南座の前に出て、あの有名な南座が商店街の真ん中のこんな狭苦しいところに、こんなふうにあったのかと驚きました。演劇には縁が無い私ですが、南座の名前はよく知っています。川端通りに廻り正面に立って見上げると、建て直していかめしくなった新歌舞伎座とは違う、昔風で庶民的な雰囲気があり、興行のときの賑わいはさぞかしと偲ばれました。


 南座の前から川端通りを四条通りの反対側に廻り、八坂神社に向かって戻り始めました。

最初の小路の角には、以前、娘が運転していた車を停めて「とっても美味しいから買ってきてくれ」と云った「壱銭洋食」があり、観光客がい多い昼間だからか、外で焼けるのを待っている人は居ませんでしたが、店内は相変わらず混んでいました。ここで昼食にしようかとも考えたのですが、一応味を知っているので通過することにしました。


 既に正午を少し過ぎたので、花見小路の角から2、3軒目の「へん古」という蕎麦屋で鰊そばを食べました。ちょっと辛めのたっぷり出し汁が入った、関東の蕎麦屋では見ないような深くて大きな底が広い鉢に、鰊が一切れ隠れていて九条葱というのか青みのキザミ葱が沢山掛かっていました。空きっ腹とは云え、なかなか良い味でした。鉢一杯の汁も残さず飲んでしまいました。冷えていた身体もすっかり温まりました。

ちょっと太めの愛嬌の良い娘さんに「へん古」の由来を聞いたら、偏屈とか頑固とかいうことで、京都では普通に使う言葉だそうです。「頑固親父でね」と奥を目配せするので「蕎麦屋にはそんな人が多いですよ」と応えたら笑っていました。家付き娘が跡継ぎに婿を取って頑張っているという調子です。


 「おうすの里」という梅の実専門の菓子屋?で1個三百円、五百円から最高1千円(鳳凰梅)という高価ながら、とても立派な梅干しに甘みを付けた菓子?がありました。ウインドウで化粧袋から出して飾ってあるのを見ると、あんこ玉そっくりに見えました。

さすがに1個千円は買えませんでしたが、「宝玉神梅(\518)」「京一輪(\302)」「献上梅(\302)」を話のタネに各1個ずつ買いました。家に帰って早速「宝玉神梅」を食べてみましたが、どうもスーパーの蜂蜜漬けの梅干しと変わらぬ味でしたねぇ。残る2個も食べ比べて味の違いが判るかなぁ…。とにかく大粒で皮が薄く身が柔らかい見事な「梅干し?」ではあります。


 ぶらぶら歩きの祇園散策もそろそろ疲れてきました。

神社前の「祇園」バス停まで行くと、目指すバスまで時間があるので、2、3軒戻って先ほど赤いべべ着て赤い帽子をかぶった恵比寿大黒風のコスプレ親父を見かけた「八福神人」という店に入りました。何だか得体の知れないいろいろな原色をしたロール巻き状の、菓子とも言い難い食べ物が沢山並べてあります。分厚い緑色の皮で木の葉状に包んだ「餃子のような」としか云いようがない物は「葱饅頭」というものです。どれもこれも余りにどぎつい色使いで選ぶにも躊躇した挙げ句、親父が「味には自信がある肉が入っている」というので、一番平凡な竹の皮に包んだ餅を二つ買いました。

家に帰って夕食にみんなで食べたら、ごく普通の「中華ちまき」でしたが、味が付いた餅米が美味しく確かに少し入っている肉も好評でした。今度はあの原色のロール巻きのどれか一つと葱饅頭とやらを買ってみたいと思っています。


 バス停に戻って「100」を待つこと数分。空いていた席に掛けて2回角を曲がると、岡崎公園の美術館前です。ここで「5」に乗り換え、国際会館駅で降りました。市原経由鞍馬温泉までの「50」を待つこと12分。数人が待っていましたが、私が腰掛けたベンチ前には風花が沢山舞っていて、公園の樹木がやや霞むほどです。そこで一句、

         バス待てば 風花舞うや 市原野TOPへ


<2015.2.15.>