西澤保彦さん

「七回死んだ男」 (99/09/26)

 前作の「完全無欠の名探偵」の感想を書いたと思っていたのは、どうやら夢の中だったようで(笑)、これが西澤先生の作品の最初の感想文になるみたいです。そして、「完全無欠」と合わせて西澤先生の作風がおぼろげながら分かったような気がします。「とんでもない能力を持ってしまった主人公が繰り広げる物語」というものです。今回のも誰もが一度は、欲しいと思った能力じゃないでしょうか。「もう一度今日がやってくればいいのに、そしてやり直せたらいいのに」そんな願望によって作られた作品じゃないかなと。そして、人間というモノの不安定さを改めて認識されたれもしました。普段は、良い人に見えても、周りの環境によっては、一変してしまう。舞さんのヒステリィな場面を見てそれを強く実感しましたね。そして、現実では、反復落とし等というモノは、起こらないのだから、一時の感情で自分の人生を台無しにはしないように注意しようと思うのでした。

 お気に入りのキャラは、やっぱりキュータロー君こと久太郎君ですね。友理さんのことを密かに想うところがね。「頑張れ〜!!」と応援したくなってしまいます。この二人で何かお話が書けそうなくらい。読了してから20分くらい経っていますがまだドキドキ興奮さめやらぬと言う感じでしょうか。

 次の「殺意の集う夜」を読むのが楽しみなのでした。でもいつ読むのだろう。

 

「殺意の集う夜」(99/10/26)

 西澤作品4作目。読みやすかったです。作品の世界に入りやすいんですよね、これって1人称で書かれているからでしょうか。三諸と万里の視点で交互に話が進んでいくというのも、良かったです。こういう話の展開って結構好きなんですよね。作中作も、似たような理由で好きですけど。今回は、「七回死んだ男」のようなSFチックな設定はなかったですが万里が次々と人を殺してしまうシーンは、痛快でした。日常の生活では、こんなドミノ倒し的な出来事がないからかな。

 一つ気になったのは、ここに出てくる凶悪犯たちは、みんな新聞の占いを信じて(疑って?)行動を起こしているという点です。僕も占いは、結構好きでなんでもやってしまいますがその日の行動の参考にするということは、まずないですね。良いことが書かれていたらその日がハイない気分になるという程度です。

 一番ショックだったのは、万里ちゃんが男だったということでしょうか(涙)

 

「瞬間移動死体」(99/11/04)

 「人格転移の殺人」がまだ手に入らないので先に読んでしまいました。今回のも面白かった!景子さんが可愛いです。最初は、ただのわがままな女としか思っていなかったですけど。コイケさんの妹の美保ちゃんが交通事故にあったときいて、一緒に日本に帰ると言い出したときに、グラっと来ましたね(笑)事件が進むにつれて、早く帰りたがったりしていて、なんだかんだいって、コイケさんがいないとだめなんだな〜って。そう考えてしまうと、景子さんのS的な行動も、愛情表現が不器用なだけにみえてしまって。それをしっかりと受け止めるコイケさんが心の広い人だなぁと思えてしまうのです。ここで言えることは、SとMの関係というのは見かけと違って実はMが主導権を握っているということです。・・・・・。ここまで言い切ってよいのかな(汗)一番かわいそうなのは、波多野君ではないでしょうか。根がまじめなだけに景子さんの遊びに対応しきれずずるずると深みにはまってしまって、コイケさんに電話で悩み相談するところなんて同情してしまったよ。「そこまで思い詰めているなんて」って。 まじめな人をたぶらかすのは、やめましょうという良い教訓でしょう。(本当か?)

 

「人格転移の殺人」(99/12/30)

 年末のギリギリになってついに読めました、「人格転移の殺人」!前々から面白いから是非読んでとすすめられていたのです。一言で言うなら「久しぶりに感動した!」です。稲妻のような直撃型の感動じゃなくって、後で徐々にしかし力強く心が揺り動かされちゃいました。この物語のポイントになる「セカンドシティ」と呼ばれる「人格転移装置」が何故作られたのか?これが最大のミステリィでしたね、僕にとっては。そして西澤先生は見事な答えを最後に用意してくれたのです、「人格が入れ替わったモノ同士の相互理解を深めるため」というものでした。つまりこれは、相手を思いやる気持ちを養う装置だと思うんですよね。エリオとジャクリーンの二人だけになったときジャクリーンは、エリオを殺そうとするのですが「それが出来なかった」というところなんてその良い例だと思います。何回も人格転移を繰り返す内に相手の痛みを分かるようになってしまったのです。最後、二人が仲良くなっていく場面ではもうこっちが嬉しくなってしまったよ(笑)

 さて、現実の世界では、人格転移装置なんて都合の良い装置はまだ開発されていません。どうやったら相手の痛み、苦しみ、喜びを感じるか?これは、ドクターアクロイドから出された僕らに対する宿題のような気がします。


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