森先生講演会レポート!

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 「ミステリィと力学」 Mechanism and Mechanics in Mysteries

講演 森博嗣 先生

司会 をかべまさゆき 様

主催 名古屋大学ミステリ研究会(MNU)

後援 森ミステリィパーフェクト読者の会(森ぱふぇ)

平成10年6月14日 名古屋大学工学部7号館にて

オードブル (名古屋大学ミステリ研究会 会長 大川博様)

 大川さんが講演会の開会の挨拶の代わりにお話しされた内容は、「ラッセルのパラドックス」という数学の集合論に関するお話でした。以下にそのお話の内容を出来る限り忠実に掲載させていただきましたのでどうぞ。

 集合というのは、ご存じですよね?高校くらいででてきますよね。数学で言う集合というのは、中に入るかはいらないかがはっきりしたものを対照としたものの集まりですね。その集合に対してちょっと面白い事があるのでそれで挨拶に代えさせて頂きたいと思います。一番よく出てくる集合というのは、数字の集合ですよね。自然数の集合、有理数の集合とか、無理数とか複素数とか今いったものが一番基本になるのですが、2の倍数の集合とか5で割ったら2余る要素の集合とか、いろいろ考えられます。だから講演会を聞いてる人の集合、男性の集合、女性の集合とかいろいろ分け方は、ありますよね。ところで「自分自身を要素に含む集合」というのは、どんな感じになるのでしょうか。考えてみたいと思います。自分自身を要素に含んでしまう、なんとなくフラクタルみたいな感じですが、そういうものじゃないものばかりを集めたものもまた集合ですよね。自分自身を要素に含まないようなものを集めたものもまた集合になります。今決めた集合をRとしますとRというのは、Rの中に入るのでしょうか?これを背理法(ある仮定をしておいて進めた論理が矛盾していたらその仮定は、間違っているという証明法)で考えてみたいと思います。

 まずは、「Rは、Rの中にはいる」と仮定してみます。Rは、Rの元(げん)なのですから自分自身を要素に含んではいけないはずです。そうすると今の仮定に矛盾していますよね。中に入っていると思ったら中に入っていないと言われたわけです。だから中に入っているというのは、おかしいわけです。だとすると「Rは、Rの中に入っていない」というのが正しいと思いますよね。これで仮定してみますと自分自身を要素に含む集合でないものじゃないわけですから自分自身を要素に含む集合なわけですよね。中にはいらないと思っていたら中に入ってしまったわけです。これも矛盾ですよね。

 どちらかわからない。なにが悪かったのでしょう。おかしなところは、絶対どこかにあるんですよ。でも論理の展開は、おかしくない。これがラッセルのパラドックスと呼ばれているものなのですが何がおかしいのかわかりましたか?「笑わない数学者」の冒頭の文は、ラッセルが書いたのですがラッセルは、この矛盾に気づいてしまたtのでこの矛盾が起こらないようにどんどんやっていったのですがやっぱりどこかしらおかしなところが出てきてしまうというようになっていったのです。

 「笑わない数学者」は、ヒントになると思います。最後の11章でなにを言わんとしているのかは、これと関係があると思うのですが参考にして考えてみて下さい。 これで挨拶に代えさせていただきたいと思います。

 さてどこがいけなかったのでしょうかねぇ。僕は、わかりました(たぶん)ここに書いておきましょう。 ですがぱふぇら〜の方には、是非自力で解いていただきたいですね(笑)

メインディッシュ(森博嗣先生)

 4月から楽しみにしていた森先生のご講義がついに聞ける瞬間でした。もう頭の中では、わくわくでいっぱいでしたよぉ。そんな講義のはじめの話題は、「森」に関してでした。

 えっと、あのミステリィと力学という・・あっ、自己紹介しましょうか、自己紹介するとおかしいですね。あの・・実は、森という名前なんですが、あの大体、外国人の人にも日本人の人も一番最初にこの話をして、関ミス連の人にもお話ししたんでもう二度目かも知れませんが・・・。え〜と漢字の中でこの木という字が一番美しい字なんですよね。日本の漢字の中でというのもおかしいですけども漢字は、日本のものじゃありませんから中国から来た外来のものですから特に日本は自慢してもしょうがないですがこの字は一というのがあって十があって「はらい」があって一番美しい字。まぁそいういう形の美しさもあるし、もう一つは実際の木の形をこの5本の線に託したという形を変換した美しさですね。非常に美しい!と思います、この字が。・・・という風に言われている、言われているというか、僕が言っているんですけど他にこの字が美しいと書かれた文章は、あまりないのですけど。この次に美しい字というのがたぶん未来の未と言う字だと思いますね。これが二番目だと思います。これは、そのもう一つ上に枝が出てきてる、まだ出てきていないというのを示しているんですね。えと、これがその3つあって、え〜。小学校の時、よく木が4つあったらジャングルだとかって言いませんでした?で、5つあったらなんだ?って5つあったら「シンリン」ですよね。・・・・・・ちょっと今の面白くなかったかもしれません。アマゾンだと言う人がいるかもしれませんが。でこの木の大きさですが面積比で3:5:7なんです。これ誰が言っているかといったら僕が言っているんですけどね。3:5:7、七五三です。お正月によくある門松の竹の長さも七五三です。それから法隆寺に行くと伽藍(お寺の建物の配置)が七五三になっている。伽藍というのは、大陸からわたってきた者なんですが韓国に行くと塔が二つ並んでいます。左右対称になっていますが、それを一つにして左右非対称にしたというのが日本の文化、左右のバランスをくずしてる文化というものがあってそれからみるとまたこの字が美しいですね。

 この今言った内容は、ですね。講談社ノベルズで来年の十月か、再来年の1月に出る本の複線でした。

 森先生が如何にご自分の名前が好きなのかがよくわかるような木がしました。(変換ミス)講演会一発目の意味無しジョークも出てきてましたね(笑)僕は、アマゾンと考えてしまいましたし。さてこのあとでは、付属会議室で話題になりました「コリオリの力」についてです。

 コリオリの力というのは、コリオリという博士が考えた力で、これで説明は、終わるのですが・・・。

 え〜! そ、それで終わりなんですか〜? と思ったのですが続きが有りました(笑)

 地球が回っているものですから・・・、回っていない平行運動しているところに立っている人は、幸せな人なんですが、回っているテーブルの上に立っている人とかは、キャッチボールをしていると、回っていない人のようには上手くいかないで、遠心力という力を受けて外側へボールが曲がってしまいます。それから遠心力というのは、止まっているものにも働くのですが、コリオリの力と言うのは、そうではなくって、運動しているものだけに働いて、座標変換で式が出てきて・・・。もうココに式を書きたくてうずうずしているんですけどね、ここに書けばすぐこれだと言えるんですけど外積をとって、回転座標の式をですね、3行くらい書くとこれがコリオリの力だって言えるんですけど、それが言えないっていうのは、つまり式でかけないというのは、如何に難しいかということですね。数学とか物理というのは、相手にものを伝えたいのにしゃべると大変だから、式かいて伝えるという記号ですから、一番簡単なんですけどね。それがなかなか、なんというか人間の進歩が行き過ぎちゃったというのか、止まろうと思ったら行き過ぎちゃって、だから最適化を越えてしまってそういう人間が生まれてきて、式がわからないという人間が出てきて、今の話分かっている人30%くらいだと思いますけど分かりました?つまり最適化を行き過ぎちゃうわけですね。そういう行き過ぎちゃったところに排他的なものが出てきてしまうんですね。それがコリオリの力です。要するに動いているものがそれるんです。

 ちょっと文章が変かもしれませんがご勘弁を(汗) テープからそのまま打ち込んでいるので上手くまとまっておりません(大汗) でも森先生の「最適化を越えてしまった人間」のお話は、興味深かったですね。最適化で生きている人の方が幸せなのでしょうか、それともオーバーランしている人の方が幸せなのでしょうか。 次は、コマが倒れない不思議についてです。

 コリオリの力は、ちょっと難しかったので今度は、「封印再度」の裏表紙に書かれている京極夏彦さんの推薦文の中にsinθを積分すると-cosθのカーブになります。それがブーメランがかえってくるという説明になるんですね。まず、sinθというのは、こういうカーブになるのですがそれを積分するとこうなります。山が90度遅くなるんですよね。

 講演会の時には、90度前進している図が書かれていて爆笑していましたね(笑)あれで笑える人ってやっぱり理系の人しかいないのでしょうかね〜。 つづきです。

 これは、どいういうことかというと、例えば車がこっちから走ってきて、こちらから風が吹いてくる。風は、真ん中が一番強く吹いていて両端が一番弱く吹いている。(図参照)ダクトがあって吹き付けているとこのようになりますね。車じゃなくってバイクの方がいいのかもしれませんが、そうすると風の影響を受けて車がそれますよね。その時に、一番風が強い場所で一番遠くにいきますか?違いますね。それて、こういう風になりますね。つまり力が収まったところで一番遠くにいるわけです。これが積分ですね。つまり1の力をうけてちょっと行って、2の力を受けてちょっと行って、3で一番傾きが大きくなってたくさん動いて、だんだん収まってきて5でなくなる。でも気が付いたらここで一番遠くにいるわけですから、必ずしも一番たくさん力を受けたところで一番遠くに行くわけじゃない。ということを一つ覚えておいて、そうすると、コマが回っているときに1から息を吹きかけるんですね。息を吹くと、1が下がると普通の人は、思うかも知れませんがでもさっきの理屈で言うとここで一番息がかかっているんだけども、一番下がるのは、2なんです。これがsinθを積分すると-cosθになって90度位相がずれるという理屈でコマに息を吹きかけると回転方向に90度ずれて下がるわけです。これがジャイロ効果です。この効果があるためにコマが倒れない。そうですね。1に息を吹きかけて1で下がると倒れちゃうわけです。これがずれて2が下がって、2が下がるとまた向こうが下がってこうやってドンドンずれていってしまうもんですからまた戻ってくると言うか、倒れずに済んでしまうわけです。で、この原理は、何に応用されているかと言いますと・・・。自転車がありますが、自転車は、走っているときには、タイヤがこう回っています。で、自転車は、どうして2輪なのに立っているのかって言うと、これ凄いミステリィです。世の中には、凄い不思議なことがあって、まぁ「世の中には、不思議なことなどない」って言いきっている人もいますけど。自転車が何故倒れないのかっていうと「走っているからだ」ってみんな言うんですね。じゃあ、走っていたら倒れないですか?走っていても倒れる人は、倒れますよね。そうかと思って、走らずに乗ってても倒れない人は、倒れない。「走っているから倒れない」と思って記号化して分かったと思ってしまっているわけですね。あれウソです。それは、さっき言いましたコマの原理でタイヤがこちら側に回転しているときに手前に傾こうとしますと1が一番押されますね。押されると90度ずれたところつまり2で手前に来ようとしますから、こちらへ、倒れようとするとハンドルが手前に切れるわけです。倒れようとした方向にハンドルがずれる、ジャイロで。そのために倒れない。そっちに倒れようとするとそっちにいくものですからね、で重心移動が逆に起きて倒れない。ですから、もし自転車のタイヤの下に小さいタイヤをつけてこのようにしますと、これは、機構的に非常に難しいですがこの小さいタイヤが地面に付いていてこのタイヤで走っていて車輪逆に回っていて前進する自転車を作ったとしますとこれは、バッタリ倒れる。全然手放し運転もできませんしすぐ倒れます。という理屈なんです。こういうこと知らずにみんな自転車に乗っていて・・・まぁ、幸せですよね。

 僕も幸せな人間の一人でした(汗)。 この後には、ですね日常に役立つ力学をお話してくれたのです。(図が汚くてごめんなさい(汗) 大急ぎで描いたので)

 ミステリィなんて読んでもなんの得にもなりませんけど、力学っていうのは、こういうことを知っていれば少なくても自転車に安心して乗れます。例えばほかには、「おせんべい」なんていうのもそうですね。1枚しかないお煎餅を、兄妹二人で分けるとき、割らないといけないですが、二人でこうはじっこを持って割ったりするんですけども、このときにできるだけ自分の取り分を多くしたいですね。図にするとこうなって、両方にモーメントがかかる、トルクですね。でどこでお煎餅が割れるのか?これは静力学(Mechanics)で静かな力学、それから反対に動くものを扱うのは、動力学(Dynamics)といいます。話を戻しますと、これは、力の分配でいいますと、こうなってどこで折れるのか?両方が全く同じ力ですとモーメントノ分布がこうなって、ちょっとこの話は、建築学科の人しか分からないと思いますが、aからbまでどこで折れてもおかしくない。Weakest Link と言いますが、一番弱い部分。鎖が一番弱いところで切れるという意味です。つまり組織の脆弱さというのは、一番たちの悪い人間がいると思うとその人で決まってしまう。まぁ、それでaからbまでで一番弱いところで割れるんですけど、このときお兄さんは、力学を知っていたとします。そうするとお兄さんはですね、妹がクッとこじ開けるときにですね、下の指をはずすんですね。指をちょっと浮かせて軽く受け止める。「勝手に折りなさい」っていう感じですね。そうすると下の指の力がなくなって、モーメントノ分布がですね、こういう分布になります。するとこれは、間違いなくココ(ヒビの入っているところ)で折れます。つまり、お煎餅をもし二人で取り合いするときは、力を抜いて「まぁ、好きにしなさい」という感じで軽く受け止める、それがコツです。そうすると相手の方に近いところでひびが入ります。ね、役に立つでしょ。こういう風に力学とは、役に立つのです。

 みなさん、早速試しましょう(笑) ちなみに僕のうちでは、弟も力学を知っているのでお互い牽制しあって、お煎餅が折れません(汗) さて、この次は、「世の中にある不思議」についてです。

 世の中には、もう不思議なものばかりで、ただその不思議がですね、大人になって行くにつれて、簡単に説明できるモノがだんだんなくなってきますね。子供の時には、割とたくさん不思議があって、そして周りの大人に聞くと大体教えてくれたんですけど、中学生くらいになると「このリモコンどうなっているの?」って訊くと、お母さん「それは、私たちが子供の頃なかったのよ」って終わってしまう。「その不思議は、私たちの世界にない」っていう断り方をして、教えてくれないですね。そして不思議がだんだんたまっていくんですけど、そう言うとき世間には、二通りの考えをする人がいまして、なんでも二通りなんですけど、何か努力すれば不思議が解決すると思う人と、いや世の中には、不思議がたくさんあるんだと鵜呑みにできる人がいると思います。それでは、こういう不思議があるということで例をあげていきたいと思いますが。

 マカロニね。チューブになっていますね。うどん粉を練って押し出して整形して作るんです。ちくわは、違いますね。ちくわは、棒の周りにぬっ焼いてからすっとぬくんですけど、マカロニは、穴から出てきたのを切るわけです。すると中が空洞ですから真ん中のパーツがとれちゃうじゃないですか、そうするとなにかで支えていないと、で支えておいたらそこで切れちゃいますね。不思議じゃないですか?不思議じゃないですかね、このくらい・・・。(3秒間 静まる)・・・、ま、そういうのがあると。

 それから、アクアフレッシュという歯磨き粉がありますがチューブから出てくると青と白が別れて出てきますね。中は、どうなっているのでしょうね?4つの部屋に分れていると思う人います?4部屋に分かれていてそれを絞るとあようになるというのが一番妥当な、僕は一番はじめそう思いました。そう思いましたがそんなにコストをかけて作るかな?っていう疑問がありましたので生協に買いに行きました。それでナイフで切って中をあけてみました。これは、やっぱり物事を解決する手段として一番早いと思ったのでやりました。まぁ、そういう不思議があると。ね、世の中たくさん不思議あるでしょ。そういうのを人に聞こうというのがおごかましいですよね。だからミステリィでも「答えがちゃんと書いていない」っておごかましいですよね、こちらは、わざわざなぞなぞ出して楽しませているのに答えを教えてくれないって怒る人がいるんですよね。

 たしかに身近なところに不思議ってあるなぁって、そして見落としている自分がなんか情けないですね。

 もうちょっと難しい話をしましょうか.。階段のスイッチですが、下で付けてトントントンとあがって上で切るんですよ。で次の人が来ても下でパチンとやればつきますね、そして上って切りますね。今度上からやってきてもつきますね。一カ所でパチンパチンとやっても付いたり消したりできますね。この配線図がどうなっているのかって言うのがあります。僕は、はじめコレを見たときに子供心に考えました。これ、こういう配線図のはずです。見たこと有りませんよ。でもこれで解決ですからね。こうなっているのが本当かどうか知りませんよ。でも自分で解決したことが真実ですからこれで自分が納得できればもうそれ以上実験はしませんよ。ところで僕が三重大学に助手で24の時に就職したのですがここでは、4階の建物があって各階にスイッチがあるのですがどこか一カ所のスイッチをパチンとやると全部の階の電気がつくんですよ。つまりこのスイッチが4つある。二つだったらこの配線図でいいんですが、4つ、3つでもいいのですが、だったらどのような配線図なのかってことなのですけど、僕は、コレを考えるのに3時間かかりました。工学部の人でしたら考えてみる価値のある面白い課題だと思います。

これは、スイッチ二つの時もみなさん考えてみて下さい。たぶんすぐできるでしょう。問題は、3つからです。

 それから、よくビルの屋上から飛び降りる人が・・・まぁ、よくは、いませんけど、いるんですよね。僕友達に自殺のメッカの近くに住んでいる人がいまして今年になってから3人飛び降りているそうなんですけども、20階建てなんですが、不思議なんですよ。今まで飛び降りている人は、みんな19階から飛び降りているんです。もう一つ上に行けば、階段があるんですよ。もちろんエレベーターもあるんですが、でどうして19階から飛び降りたのかっていうのが分かるのかというと履き物が残っているわけですね。だからエレベーターであがってきたのか、あるいは、階段で・・・19階まで上がるっていうのは、死ぬ思いであがるわけですが・・・。今のジョークでしたけど分かりました? もう1階あがらないでここで「私は、ここでいいんだわ」っていうとなんだか女性みたいですが、男性か女性かは、わかりませんけど19階で飛び降りると、それで19階でやめるのは、なぜだろうと言うことでちょっと議論したのですが、それは、ちょっと僕には、分かりませんでした。そういうことを考えるのは、無駄だと思ってやめたんですけど。ま、飛び降りたときに、普通の人は、頭から落ちるっていいますね。でどうして頭から落ちるのかって言うと「頭が重いから」って言うんですね。だけどピサの斜塔でガリレオが実験をしまして重い玉と軽い玉を落として見せたらどちらも同じ速さで落ちましたと、重いモノも軽いモノも重力加速度gは、同じですから、同じ加速度運動をして落ちていくわけですね。なのに人間が頭が重いから頭が下になるっていうのは、理屈としておかしいと思うんですけど、おかしくないですか?


 それで、今の話は、ここでクッととぎれるんですけど、飛行機がですね、飛行機というのは、主翼が浮力実際には、揚力という力を受けて機体の全ての重量を支えて飛んでいるわけです。そのときにですね、飛行機というのは、重心位置というのが非常に大事で重心位置は、必ず揚力中心よりも前にあります。で、なぜ前に来ているのかというと、飛行機が失速したときにですね頭から下がるように設計されているんです。失速したときに後ろが下がるとものすごい恐いわけですよ。で、失速しているというのは、エンジンが故障しているとかそういう事態ですから後ろから下がったらもう舵もきかないしそのまま落ちていってしまいますから、失速したときには、なるべく頭から落ちてまた機速がついて地面から遠ければスピードが付いてまた滑空できるように前が重めになっているのです。だからここに重心があるんです。でこれを支えるためにこのままじゃ前につんのめってしまいますから後ろにある尾翼、スタビライザー(安定板)といいますがこれをちょっと上に上げると、ここに風があたってこの羽がちょっと下に押すんです。そうすると天秤棒でいうとここに機体の重さがかかっている、それをここで支えている。でこちらでそれをちょっと押さえる力がかかっている。こういう釣り合いがとれてるわけです。ということは、これが例えば1tの飛行機だとしますよ。尾翼にかかる力が100kgだとしますと、1000kgの飛行機に100kgの力を追加した1100kgの揚力を主翼が持っていないとこの飛行機は、飛べないわけです。ところがですね。ライト兄弟が作った飛行機というのは、フライヤーズという飛行機を最初に作ったのですがあれは、複葉機でしたが前にスタビライザーがあります。でプロペラが後ろについてこういう形をしています。この場合は、ここに主翼を支える中心があって、そのちょっと前に重心があります。で天秤棒で行くとどこで釣り合いがとれるのかというと、先尾翼でちょっと上に引っ張ってやると釣り合いがとれますね。そうすると飛行機の機体が1000kgの場合に前が100kgの揚力をもつので主翼は、900kgの羽の面積があれば飛ぶんです。つまりこの形にすれば主翼の面積を2割減らして同じ性能の飛行機が得られるはずなんです。完全にこちらが勝っているんです。どう考えてもこちらが勝っている。だからもちろんライト兄弟は、この形にしたわけですね。ところが今現在みんなが目にしている飛行機の形は、すべてこの形(A)をしてます。すべてというわけでは、ないですがコンコルドは、あの格好(B)ですね。三角翼ですけども。それから最近戦闘機なんかF16なんかは、前に翼を付けてだんだんあういう格好になってきてます。ホーネットなんかもそうですね。やっとそういう形になっているのですが。これから旅客機があのような形(B)になっていくと思います。今ジャンボジェットこういう形をしていませんけど次世代の旅客機は、全てあの形になるだろうと僕は、ふんでいるのですが、じゃあどうしてこんな形(A)をしているのか?という疑問が出てきますね。なんでこんな不合理な形をしているのか。ね、不思議でしょ。世の中に不思議なことは、たくさんあるんですけど。これは、実際僕は、わからなかったので航空学科の人とかに訊いてみたんですけど、みんな「うーん、そうだそうだ、その通りだ」って言うだけで・・・でもいろんな意見を聞きました。一つは、昔は、レシプロエンジンですからプロペラだったので後ろにプロペラがついていたんです。これ後ろにプロペラがあるっていうのも効率が非常にいいんですよ。前に付いているって言うのは、前で風を起こしていると自分の顔に当てるわけですから凄い効率が悪い。船だってスクリューは、後ろについていますよね。後ろで風を起こしていると抵抗がありませんから一番効率がいいのに前にプロペラがあるっていうのも非常に効率が悪い。プッシャーの方がいいんですが、この欠点はですね脱出するときにプロペラに巻き込まれる危険性がある、ということが一つあります。それからもう一つは、足が長くなるっていうのがあるんですね。足って言うのは、ギア、飛んでいるときには、いらないんですけど上がっていくときにプロペラが地面を叩かないようにするためにちょっと高めに足を設定しないといけないからその重量が馬鹿にならないというのがあります。でそういうことは、ジェットエンジンになったら全部解決してしまったことですから今まったくその理由は、ないんです。不思議ですね。これ非常に綺麗な答えがあるんです・・・これ僕が考えたんですけど・・・言いましょうか?どうしてこの形(A)をしているのか、これはね、鳥がこの形をしているからですよ。あの形(B)をした鳥がいないんですよね。それが理由だと思います。つまり人間が見て「なんかあれが飛ぶのはヘンだぞ」という、その理由ですね。そういう安心感。それがフランスのブレリオが作った飛行機からこういう形(A)になってきてなんとなく安心して飛んでいるような、たまたまそれが成功したっていうのもありますけどね。ただエンジンが前にあると乗っているときにエンジンの調子が見れるっていうのがありますね。後ろにあると後ろをみないといけませんけど、でこういうことするもんだから車もエンジンを前にのせるんですよ。あれなんの得にもならないのに前にのせるんですよ。僕、前にエンジンがある車大嫌いなんですけども、これたぶん大事なモノは、まえにあるんだということなのでしょう。人間が走るときも前屈みに走って、でも走るときは、足から走った方が安心だと思うんですけどね。で、今度のベンツなんかもそうですけどぶつかった瞬間にエンジンが下に落ちるようにしていますね。これあったらダメなんですよ。前にない方がここがくしゃっとつぶれてショックを吸収して安全なんでエンジンがある方が安全だと思っている人は、なにか違うモノを信じている人なんですけどね。F1だって前にエンジンついていませんし、バイクだって前にエンジンついていませんよね。

 森先生の大好きな飛行機のお話でしたが、今の飛行機の形が鳥を真似しているというのは、なんだか哲学的で素敵ですよね。

 ミステリィを作るときに形作られる不思議なんですが、物事の不思議というのは、ことごとくそうなんですが、現実と理想の間のギャップ、この間のかみ合いがうまくいかないと、これが問題です。人間が抱えるあらゆる問題は、これに帰結します。現実は、こうだ、でも僕の考えていることは、こうだ。すべてそうです。世の中の不思議もみんなそうです。科学者が考えるものもそうですし、数学者が考えるのもそうです。やってみるとこうなのに、どうも自分の思った理論からはいかない。必ずこのギャップから問題、不思議と言うより問題ですね。問題が起こる。で、これを解決するために生きているわけですが、解決する方法は、3つあります。一つはですね、理想を変えるんですね。僕は、すごく綺麗な人と結婚したいのに彼女は・・・だと、そういう場合ですね。これは、現実と理想との間に問題が生じてそれをなんとか解決しなきゃいけない、解決しないと生きていけませんから、でそのときに、「ま、いいや」ともう自分の理想を変えましょうと言うのが一つです。それが一番手軽な解決方法。もう一つはですね、当然現実を変える方法です。もっと理想にあった人を捜しにいくとかいうケース、これは、科学の分野ではなかなかありえません。現実を変えることはできないので、理屈を変えていくというのは、いままでの歴史で散々あります。星の運行とかですね、あういうものは全て現実をみてそれに対する理論を組み立てて、どうも合わないところがあると理論を再構築していくという歴史だったんですけれども、でもう一つ解決の方法があるんですよ。それは、みなさんあんまり気が付いていないんですけど、もう一つの方法というのはですね、実は、この現実というのは、現実じゃないんですね。我々が見ている現実とは、全て「観察された」現実であって、「認識された」現実であって本当の現実ではない、だからメガネをかけ直してみると「お、結構いい男だな」ということ、つまり観察の仕方が悪かったという場合ですね。これが非常に今までの科学の発展では多くて、天体なんかもそうですしそれから物理学のミクロな部分でもそうでしたね。観察の仕方が間違っていたということで、間違った問題に悩んでいたということですね。光は直進するんだという理屈なのにどうも直進しないことがあるとかですね。すべてこういう理屈です。

 ミステリィも全部そうです。なにか現実と理想のギャップを提示しておいて、そんなことは、ありえないんだということを見せて、それをどっちかからすり寄ってくるんですね。だからトリックって言うのは、実は、そうじゃなかったんだよとか、なにかミスリーディングしているような、違う方向で考えさせてしまったというところで騙すわけです。

 ある絵がありましてね。ガラス瓶のなかに木の棒が突き刺さっていましてそれで、先にボルトが入っていてナットでしめられているのです。こういう写真があったんです。で、これは、現実ですね。写真を見まして、で理想からいくと、おかしいですよね。抜けないんですから。で写真を見るとこうなんか問題として沸々とわき上がってきて自分の持っている科学の知識からいくとこれは、あり得ない。瓶の向こう側は、ないのだろうか?とかね。これ本当は、ものすごく大きい瓶で人がロープを伝って入っていっていろいろやるのか?とかですね、いろいろ思ってしまうわけですよ。「封印再度」のあれもそうですけど。でこれを見たときに僕は、5分くらい考えて導いた結論としては、これは、観察された現実、これは、写真に撮られたものであって本物ではないということで、瓶いっぱいに水が入っているんでしょうという仮説を立てました。水がいっぱい入っていれば屈折しますのでその通りには見えません。で、現に手近にあった瓶に水をいっぱいに入れて箸を入れてみると凄く太く見えるんですよ。だから本当は、水を抜くとですね凄く細い棒が入っていてこれが屈折によって横に引き延ばされたのだろうと、だからこれは、すぐに抜けるのだという風に解決して、でこの仮説を立てたらですねみんなが「うん、そうだそうだ」とそれでその場は、解散になったわけです。
 で、それで解決したわけですが、それからしばらくしてデパートに行ったんですが、そこに行ったらですね、売ってるモノがありまして・・・。

 ここで森先生おもむろに細長い筒上の入れ物を机の上に出されて出てきたモノが、なんとボルトとナットによって棒が抜けなくなっている瓶の登場です。

 2500円でしたが、売っていたんです。これ水入っていないんです。で、どこにも切れ目ないです。で、売っているときは、「さわらないようにして下さい」と書いてあったのでさわらずにずーっと見ていたのですが、そのときは、分からなかったです。散々考えましたあらゆる可能性を考えたのですが、で店員さんもですね「あの人、買うなら買ったらいいじゃないか」と思ったと思うのですが、それでもう2500円出して買ってきました。買ってきてうちに帰ってあけてみたら、説明書もなにも入っていないんです。種も仕掛けもありません。というものがありまして、僕の妹は、パズルのマニアなんですが、「それは、傑作中の傑作」と言っていましたね。種がない、種がないんですよ。だけどできるんです。やればできるというものなんです。なにも道具使いませんよ。僕それで練習したんですけど、練習を積み重ねると5分あればできるようになりますね。要するにこそこそやっているうちにできるという、いくら考えてもわからない、でそういうミステリィというのは、書けないものなあと思いましたね。つまり言葉では、書けないんだけれども実際にやれば誰でもできるという、でも考えているうちは、わからないという。これは、観察された現実というモノを言いたかったのでこれを例に挙げましたけども。

 で人間というのは、不思議を求めて前に進むわけですが、ミステリィというか本なんかにしてみると、本というのは、最後まで読んで貰うのが書き手のなんていうか第一目標ですから、一番はじめの一行を読んだ限りは、最後までなるべく読むように書かなきゃいけない、それは、つまり毎ページに「次を見よ」と書いてもしょうがないので何か面白いことを書かなきゃいけないわけですけども、そのときに釣るわけですよね。何かで釣るわけですよね、で人間は、何に釣られるのかということを考えてみると、最初は、「富」という分類、お金とかですね、権利とか、ですね。こういうモノに釣られる。だからギャンブルとかする人そうですね。で、その次に来るのが「謎」ですね。これは、「富」では、ないんです。「富」じゃないんだけれども、何かを知りたい、問題だけ出されて、このまま黙っていられないと言ってめくっていく「謎」、「真実」。一線を画するモノがありますね、ここには。この中間というモノはあまりないですね。ただ、それを解いたら・・・あのですね、この「富」の中に優越感というのが入りますからね。ゲームなんかで点数を上げていくのは、これですね。別に富じゃないですけれども、他の人よりも自分は優れているんだということを定量的に数字にして出したい、他の人より優れているとなにか良いことがあるんじゃないか、なにかお金になるんじゃないか、全部ココ「富」に行き着きますね。だからゲームなんかで数字をカウントしたりするものは、「富」。それからRPGとかアドベンチャーなんかで最後何かがあるからということで進めていくのが「謎」ですね。それからもう一つは、最近そう言うモノは、あまりないと思っていたのですが、「謎」の次に来るのがですね。「妄想」ですね。「妄想」ね、これが3つ目なんです。つまり書いていないのに、これ、作者が出すかどうかというのもあるのですが、これだけで読める人がいるんですよね。いません?・・・、どこにもその犀川が男前だって書いていないでしょ。どうしてそういう風に思ってしまうのか、トリックにあれだけ「こんなトリックには騙されないぞ」と言っている人が、探偵が凄く格好良いんだって簡単に騙されてしまうのがちょっと想像を絶するモノがあると思いますが、そういう「妄想」これで読んでいける。これは、「富」<「謎」<「妄想」の順で人間的ですね。「富」が一番動物的です。で、謎を知りたいというものよりも、そういう妄想を得たいと言う方が、ですから若い読者は、おそらくまだこちら(「謎」、「妄想」)にいるし、だんだん年取っていくともうこちら(「富」)で、点数を貰ったり、葉書で当たったりとそんなもので、じゃあどうでもいいと、「謎」になるとなんか知識欲で「知りたい、知りたい」、どうせ死んだら消えちゃうのに「まぁ、いいや」と思わないでなんとか知りたい。それでもうちょっと行くと「今夜限りの妄想でもいいから、読みたい」という、そういう風になって行くわけです。で、これは「妄想」の方が高等なんですよ。だから本格ミステリィとか古典とかは、「謎」を売り物にしていたんですが、最近出てきたそうでないものを古典からはずれているということで、馬鹿にする人がいるように思えるのですが、全然そうじゃなくって客観的に見て、あういうトリックとか謎に釣られるって言う方が低級だと思いますね。まぁ、そう思っているというだけのことですけども。ちょっと安心した方がいるかもしれませんが。だからキャラクターものでそのシリーズが売れるというのは、文化レベルとしては高い、だから文明の発展途上のところでは、キャラクターものは、まだうけない。差別しているわけじゃないですが、文明が上がってきて、初めて出てくるという人間の余裕のものだということですね。

 そろそろ時間なのでおさらいしますけども、一つはですね、この問題が現実と理想のギャップで必ず起こっていると、これ非常に役に立つと思います。これから生きていく上でですね、なにか悩みがあったときは、必ずこれなんですよ、で解決する方法は、3つしかありませんから、その3つの中から選んで解決して下さい。っていうと簡単ですけども。よく悩み相談とか受けるんですが、相談に来る方のパターンというのは、必ず答えを知っています。自分はどうしたらいいのかという答えを知っています。だから何を悩んでいるのかというと自分が知っている答えをしたくないだけなんです。だからそういう人たちに対してですね、「じゃあ、すれば」というしかないものですから・・・今のは、応用編ですけどね。ですからそういう風に問題を解決して、人生を全うして、死ぬときは、何もなくなりますので、そういう人生を送って貰えたらと思いますが。

 ということで、森先生の講演「ミステリィと力学」は、終了です。森先生本当にありがとうございました。