〔要旨

20回すすき野福祉討論会〔老親介護〕

講演 野原すみれ

がんばらない介護

介護の辛さは先が見えないことにある。その間のストレスで介護する側が病気で倒れるようでは困る。そのストレスからつい虐待に走ってしまう例も少なくない。また懸命に介護し,ついに看取って介護から解放されたとたんに燃え尽き症候群に陥り,痴呆になる場合も少なくない。介護を一人で抱え込んで無理をしてしまわぬ知恵を。

高齢者の痴呆症状はまず食事のことに現われる。食べたばかりなのに「ごはんはまだですか」と云うようになったら,始まったと思わなければならない。次に現われるのがお金のこと。「お財布を盗まれた」「預金通帳の残高がおかしい」などと執拗に云うようになったら,銀行や郵便局などに事情を伝えておくとよい。

公的介護サーヴィスの活用

 公的介護を受けるためには,区役所の相談窓口に赴き申請をしなければならない。そこにはケースワーカーが控えていて相談に応じてくれる。その際には,お化粧をしたよそ行きのきれいなふうではなく,寸暇を割いて駆けつけたといった様子のほうがインパクトがある。必ず筆記具を用意しメモをとり,こちらの真剣さと切迫感をアピールする。嫁の立場にあれば,介護対象者の実の息子であるご主人もいっしょに行ってもらう。窓口での申請がすんでもすぐに介護は始まらない。始まるまでをどう対処したらよいのかと話を詰め,いろいろな情報の提供を受けること。民間ヘルパーの事業所や有償ヴォランティア,ショートステイ施設等のリストが示されたら,それをコピーしてもらうなども。

よい介護を引き出すには…

 周囲に理解されない介護は苦痛であり,もめごとの原因になる。周囲のみんなで介護を分かち合う態勢づくりが大切で,第一に,夫(伴侶)を味方にすること。男性の理解を得るのは簡単なことではないが,必要なら仮病を使ったりちょこっと家出≠フ手段に訴えてでも共感をかちとること。時には過剰なくらいのリップサーヴィスも。夫が味方についてくれれば,舅・姑の余計な口出しを封じられるし,とかく冷たい世間の風を避けることもできる。日々の様子を記録しておき,誰にも状態の変化がわかるようにしておく必要も。密室介護でなくみんなに見えるガラス張り介護につとめ,いろいろな人が入れ替わりできるようにしておけば,虐待も避けられ,偏った負担にならない。ただしその際,誰がキーパーソンかを明確にしておくことが肝心。

 みんなで介護する気運が生まれたら,次に有償介護を提案してみよう。「おれの目の黒いうちは人さまの世話にはならない」といったプライドを振りまわす古い体質も残っているが,この高齢社会にあっては,特定の人が一人で抱え込むのでなく,みんなで助け合う,地域全体で支え合う時代。冷静に話し合い理解し合うこと。

輝きある生き方を全うしてもらうために

 よい施設に出会うためのポイント。まずいちばん近い事業所に電話し,その応対がよければ○,アポイントなしで訪問し受付窓口の応対の感じがよければ◎,次に施設見学。清潔度,職員の動きがきびきびしているか,利用者さんの様子はどうかを見る。トイレもチェックしておこう。こうして2〜3か所を見て施設を選び,そこのケアマネジャーに介護プランを立ててもらう。偏見や古い観念から施設に入ることを忌避する人もいるが,そこでは高齢者の世話をすることを仕事とする専門スタッフが日々努力しながら取り組んでいるので,質の高い00介護が受けられる。輝きある生涯をそういうところで悠々と全うさせてあげたい。


2月9日,すすき野コミュニティハウスにて/文責・菅野)

講師のプロフィール――「高齢化社会をよくする虹の仲間」運営委員長,東神奈川高齢者ショートス

テイセンター「若草」施設長,社会福祉法人「和枝福祉会」理事。著書に『今日もしっかりモメてま

す――母をめぐる看護奮闘記』『老親介護は今よりずっとラクになる!』ほか