見学・研修レポート
〔研修レポート〕
横浜市北部斎場を見学する
2003年3月9日
ゲートを抜け、深い緑の中にぽかりとあいたトンネルをくぐると、そこは、美術館か博物館、いや、建物こそ真新しいが、ずうーっとずうーっと先まで列柱が整然と並び、ドイツかどこかの古城にでも来たかの錯覚さえ覚える。谷戸の地形をうまく生かした設計だ。手入れのゆきとどいたアプローチに沿ってまずはピロティーへ。ここから火葬棟のエントランスホールへ入る。シンプルながら、聖なるもの、清いものに包まれた厳粛な趣きに、胸のあたりがシーンとする。
ここは、長津田台に昨年4月にオープンした横浜市北部斎場。市内五つ目の斎場である。横浜市が10年の歳月をかけ、約350億円という巨費を投じてつくった最新施設。敷地面積約9万u余、地上2階地下1階、全館バリアフリー、駐車台数約180台。規模において、また徹底して最新の環境保全対策を施している点において、現在、ここ以上の設備は日本じゅうどこにもない。16基もの火葬炉を擁するところは世界じゅうどこにもない。無煙無臭化に対する取り組みにおいても、ここより先に出るところは今のところない。オープン以来、一日平均20件の火葬をおこなってきたという。あらゆる作業がコンピューター制御で進められる一方、命の尊厳をテーマとする細やかな配慮が告別室、収骨室、その他いたるところでうかがわれる。
火葬場といえば死体処理場というイメージに結びつきがち。ときにはいわれない差別さえ生んできたところである。しかし、神ならぬ人間がいつかは通らねばならない死というものの尊厳性に立てば、ここは故人の来しかたをしのび、故人としみじみと対話し、その恩義に感謝し、こころおきなくお別れする空間であり、遺族の悲しみを癒す時間でもある。エスカレーターホールのドームから射す淡い光、また、光線を虹色に濾して床面に投げかける小窓、2階の休憩室を出た喫茶ラウンジからは、中庭を隔てて天の川をイメージしたコラージュの施された壁面――黒曜石に銀色の小さな球体を嵌め込んだ平面が広がり、人びとは悠久な時の流れにしばし身を浸し、こころを聖化することになる。
火葬の全工程にはおよそ1時間30〜40分かかり、料金は横浜市民10歳以上で8000円。
入口から見て右手には葬祭ホールが並ぶ。80〜100席のものが4室。ときには1000規模の弔問客を集める特別の葬儀にも備え、変換可能になっている。ただし、使用料金がたいへん安いこともあって予約で混み合うことが多く、早いもの勝ちの状態という。葬祭ホール使用料金は通夜・告別式がセットで80000円(横浜市民の場合)。たしかにこれはほかの会場に比べると4分の1程度である。
これまでは横浜北部に斎場がなかったため、火葬には鶴見や戸塚まではるばると行かねばならなかったり、場合によっては川崎市の設備に依存しなければならなかった。もちろんそんなにしょっちゅう利用するところではないが、比較的近くにこういう施設があるというのは、ありがたい思いがする。
By T.SUGANO