〔ぶらりすすき野――5〕

世界の名画がやって来た!

 食欲の秋,スポーツの秋,読書の秋,ひと恋しい秋,もの思う秋……。あなたの秋はどんな秋ですか。熱暑の夏が行きすぎたあと,いつとも知れずやってくるこの季節を,人びとはいろいろな思いをこめてそれぞれに表現します。吸いこまれるような高い高い空,ひんやりと頬をなでてゆく風に誘われて,ふらり外へ出て行きたくなるのもこの季節。
 いま,朝に夕にウォーキングを楽しむ人びとが目に立つようになりました。独り黙々と腕を振りふり歩く人,互いにいたわりあいながら前になり後ろになりながら歩く夫婦,ときにはにぎやかな談笑を弾ませながら歩く3人,5人ずつのクループ。澄んできた空気の流れを感じながらジワリと汗をかき,自分のなかの「健康」を確かめるかのように元気に歩く若い人,老いた人。

 ウォーキングを楽しむこうした人たちがピタッと足を止めるところがあります。そう,世界の名だたる名画がズラリ! ミレーの「落穂ひろい」がある,ゴッホの「ひまわり」がある,レオナルド・ダ・ビンチの「モナ・リザ」も,ルノワールの「イレーヌ・カン・ダンベール」のなんともやさしい少女像もある。おや,スーラの「グラン・ジャット島の日曜の午後」,モネの「睡蓮」も…。ぜんぶ合わせて11点。いずれもどこかで目にし,親しんでいる名画。もちろん,ホンモノじゃなく,模写した複製品ですけどね。とはいえ,なかなかなものですよ。
 ――えっ,どこかって? そうそう,大場町です。嶮山スポーツガーデンのゴルフ練習場のむこう,桐蔭学園嶮山グラウンドの東の,あざみ野白ゆり幼稚園です。その北側の壁面がギャラリーになっています。ええ,当然タダ。24時間いつでもOK。といっても,特別な照明があるわけではなく,やっぱり夜間は暗くて見えませんがね。

 こうした美しい絵画を幼稚園の塀を使って展示する意図はナンでしょうか。じかに関係者に聞いて確かめたわけではありませんが,それは,かならずしも地域のみなさんに観て楽しんでもらうためではないようです。思うに,多様な可能性を秘めた幼稚園世代の子どもたち,純粋な目としなやかな感性,疑うことを知らずまっすぐに伸びていく個性をもつその幼いみずみずしい心に,まがいものでないホンモノ,この世のもっとも美しいモノを与えたいとする,せめてもの教育的良心によるものに違いありません。子どもでもないし,純粋な疑うことを知らぬ心をもっているとはいいがたいわたしたちではありますが,その寛やかな精神にちょっぴりあやからせていただきたいものです。
 なお,これらの絵画が,ある展示期間を経たあと,別なものに差し替えられるかどうかは,確かめてありません。どうぞ,あなたご自身でお問い合わせください。
(9月20日/文と写真・菅野)