〔エッセイ〕 すすき野の四季
    
黄色の似合う季節

 ヒュウガミズキの芽吹きの色,萌え出たばかりのカエデの若芽の,透きとおったあのやさしい黄緑色が好きだ。万物の木地を洗いだす寒冷の気はまだまだ枝々の末に居座ったままで,それらの芽は固い。それでも草木の小枝にはそれぞれ小さい芽が用意され,よく見ると,かすかな息吹きにふるえている。ゆきやなぎの細い枝にはビーズの半分ほどの小さな小さな芽の球がつき,春の陽の明るむのを待っている。
 それにしても,ふくじゅそう,ふきのとう,ろうばい,まんさく,すいせん,れんぎょう,たんぽぽ,フリージア,ミモザ,おうばい,きんせんか,えにしだ……。春待ち遠しいこの時期とそれにつづく浅い春に咲く花には,どうしてなのか,黄色いものが多いように思うが,どうなのだろうか。ひょっとすると黄色は春の妖精たちをいざなう秘密のサインなのかも知れない。あのうぶうぶしい無垢な色を目にすると,それ以外に考えられない。菜の花畑の織り出す圧倒的な明るさはどうだ! あの光に満ちた海原のうねりを目のまえにしたら,精たちが悦びにどよめきながら,うすもののヴェールをひるがえし,しなやかな,清麗なダンスをくりかえすイメージしか浮かんでこないではないか。あの黄色は,まこと,世界をすみずみまで明るく染めるような色だ。春浅く,冬枯れた風景のなかに,この黄色はひときわ美しい。スギの黄禍さえなければ,この季節がいちばん好きだといってもいいのだが。――SUGANO