国の違いと白と黒と色

 数年前までは、小さな車でよくスケッチに出かけていた。
不意に飛び出した車に激突する初めてで最後になるであろう交通事故にあった。
 最近は多くの人に知られるようになった脳脊髄液減少症であるとわかり、東京医大の先生の紹介で国際医療福祉大学熱海病院の篠永先生にめぐり合うことになった。
'03 11.2 道志 山伏峠近くにてkakou.jpg道志 山伏峠 31×23cm 水彩 2003年
ブラッドパッチ治療を受けて、1回目でそれまでの首痛・肩痛・腰痛や吐き気・頭の重さなどが劇的に良くなり、驚いた。
 交通事故の後遺症で不思議なことがある。

img117kakou.jpg安曇野 常念 28×38cm 水彩 1997年 (S氏蔵)

それは、昼と夜の見え方が違うこと。昼間の色彩を伴う光景のときは、何の不自由も無いのだが、夜になると月や星や街灯がひとつの映像は固定して見えるが、もうひとつのダブって見える映像は首を動かすのに連動して、月の直径の10倍くらいの範囲で揺れ動くという不可解なことが起こるのだ。
 当初、月や星での現象だけが気になっている頃は、峠での暗くなっての運転はしないことにし、車に乗っていたが、その後、熱海の宿で、朝まだ暗い時の海上の船の灯火が月や星と同様に動くことを知った。街灯でも試してみると、動くことがあるのがわかった。車の運転に不自由を感じたことは無かったが、夜の水平の灯火が、動くこともあるのを知ったことから、車の運転を自主的に中止している。

その後、どこかのテレビで、目から脳への神経が、明暗を伝える神経と色彩を伝える神経が別回路だとの報道を、絵の仕事をしながら耳にした。昼間は何も無く、夜になると月や星が幽霊のように揺れ動く不思議な現象も、これを知って合点がいった。そんな体験から、その後、白・黒と色彩の関係に関心が余計に強まった。渋谷でマチスやクレーの周辺の画家たちの展覧会を見たときも、白・黒と色彩の使い方が気になり、その関係をうまく活用しているのに感心して帰った。
 その後、通院の帰りに、岩佐又兵衛の絵巻や歌麿の肉筆画を見てハッとした。白・黒と色彩の響きでのインパクトは西洋の人に負けていないように思えた。
西洋には数百年のグリザイユ技法の伝統があり、白と黒と色彩のそれぞれの諧調を重ねて、その調和を探求してきた深いものがある。日本の場合は紙の白に墨そのものの微妙な色合いにも心し、白・黒と色を響かせて、調和を求めてきたのだと思う。白・黒と色彩との感覚における西洋と日本の、微妙な違いに一層興味がわいてくる。(2010.5)

IMGP0466kakou.jpg江奈湾にて 28×38cm 水彩 1995年1982.9.15 舞阪の風kakou.jpg舞阪の風 36×45cm 鉛筆 1982年