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連載「手をつなぐ子育て 父親の出番」 おやじの会(上) 掲載日 2010年1月6日朝刊 | ||
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鮎喰川に架かる上鮎喰橋を徳島市内から西へ渡り、堤防を南に曲がると、木をふんだんに使った温かみのある園舎が見えてくる。無認可保育所「すぎの子共同保育所」。2007年に完成した新園舎は、在園児の父親たちによる「おやじの会」が建設に携わり、業者とともに完成させた。 2005年末、老朽化した徳島市北田宮の旧園舎に代わり、同市国府町に新園舎を建設することが決まった。「なるべく費用を抑えたい」「自分たちの園舎なのだから、できるところは自分たちで作りたい」。そんな思いを抱いたおやじたちは、週末になると建設地に集まった。 土掘りや土入れにはじまり、造成工事、基礎工事、園庭作りや外柵や門扉、防音壁、水洗い場のタイル張りノ。建設業を営む父親の一人、立石志郎さん(45)=国府町=の主導で、「自分たちでできるところ」の範囲が広がっていく。 | |
年末年始の冷え込みが一番厳しい時期だった。仕事の休みは作業でつぶれた。「何でこんなことしよんだろって思いながらも、みんなでわいわい集まるのがおもしろかったんやなあ」。立石さんは目を細めて振り返る。 「職場や仕事先での付き合いと違って、気兼ねなく言いたいことを言い合えたり、くだらない話から重い話までできたりする仲間がいるのは貴重」。昼食時には、近所のラーメン屋でラーメンをすすりながら、子どもの話で盛り上がった。 ?年の1月下旬に園舎は完成した。保育所を運営するNPO法人から「おやじの会」に感謝状が贈られた。賞状には「子どものためにと一生懸命働く父の姿は頼もしく、子どもに勇気を与え、母親にさらに見直されたことでしょう」とある。 「おやじの会」は、新園舎の建設を機に生まれたわけではない。もともと、飲み会で意気投合した父親たちが?数年前に結成。それまでも、旧園舎の雨漏りを直したり、廊下を造ったりするなど、大工仕事を請け負っていた。 そうした貢献がたたえられ、現在、「おやじの会」だけは保育園内での飲み会が認められている。新年度には、新しい父親を歓迎する意味も込めて、それぞれが母親の手料理を持参し、酒を酌み交わしながら子どもの話で盛り上がる。 「保育所で父親たちと飲み会をすると話すと、職場で驚かれる」。そう話すのは3人の子どもを持つ水口武司さん(38)。2人は昨年までに卒園し、1人は入園前だが、現在も、時間の合うときに父親たちとランチを楽しむなどの付き合いは続いている。 新園舎の完成以降も、不要な竹をもらい受けて防音壁を作ったり、外柵に防腐剤を塗り直したり、伸びた草を刈ったりノ。気が付いた父親が、そのつどメンテナンスに当たっている。 核家族化が進み、「よその家庭には深く立ち入らない方が無難」という感覚が広がっている現代。「自分たちさえよければ」という風潮も強い。しかし、「子どものために」という視点を持って大人が力を合わせることで、親も子もともに育っていく。 昨年末、恒例となっている「おやじの会」の忘年会の席。父親たちの中からこんな声が上がった。 「おやじの会がなかったら、育児は母親に任せきりで、子どもはただ何となくずるずると大きくなっとったんだろうなあ」「年を取るのも悪くないと思えるようになったなあ。子どもの成長が楽しみやもんなあ」。。。 | ||
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「手をつなぐ子育て 父親の出番」 おやじの会(下) 掲載日 2010年 1月7日朝刊 | ||
もちつきや魚つかみ。。。徳島市国府町の「すぎの子共同保育所」では、その主要な行事を父親たちが陰で支えている。特に秋に行われる運動会では、音響や大道具など、あらゆる係を父親たちが担う。先頭に立つ実行委員長は「親方」と呼ばれる。 当日までの目玉といえるのが、事前に行われる「企画会」。3〜4回行われ、係の分担から運営の流れなどを確認し合うとともに、子どもたちの運動会に向けた様子や仲間とのかかわりが、保育士から丹念に紹介される。 1人だけ縄跳びが跳べず仲間の前で大泣きした子。友達に励まされて登り棒が登れるようになった子ノ。1人1人の話に、みんなで大笑いしたり、じーんとしたり。さながら父親懇談会のような光景だ。 「お父さんは、なかなか子どもの保育所での様子を肌で感じる機会がない。企画会で子どものメ今モを知り、運動会に向けた雰囲気を感じることで、子どもが一生懸命に頑張る姿、互いにかかわり成長する姿を知り、当日の喜びを共有できる」。武市史施設長は、企画会の狙いについてそう説明する。 「企画会に参加したことで、わが子が何にぶつかり、乗り越えようとしているのかよく分かった」。そう話すのは1歳から5歳まで3人の子どもを持つ中上映生さん(36)=同市国府町。なかなか縄跳びが跳べなかった長男(5)が、仲間や保育士に励まされながら跳べるようになるまでの過程を細かに聞いた。 「運動会に向けて、長男がかっとうを抱えているのを知っていたので、自分は縄跳びのことについて一切口出ししないでいられた。人とのかかわりの中で子どもの成長を実感できた」 わが子だけではない。昨年の運動会で「親方」を務めた岡田達也さん(46)=同市北前川町=は「クラスで起こっていたドラマを事前に共有していたことで、当日は1人1人が自分の子どものように思えた」と振り返る。 運動会の当日、父親たちは午前6時前にグラウンドに集合し、ラインを引いたり整備をしたり。競技中も大道具を出し入れしたり、ビデオで記録をしたりと休む暇がない。 岡田さんは「大人の社会では、負担を押し付け合ったり、責任から逃れようとしたりするのが当たり前。それなのに、ここではどの父親も、子どものために何が必要かを考え、自主的に動いてくれる」と話す。 運動会のほかにも、組み立て式プールの設置や発表会の舞台づくりなど、父親たちの出番は多い。普段は仕事に追われ、保育所やほかの保護者と接点を持ちにくい父親たち。しかし、こうした父親ならではの出番を通 じてきずなを深め、楽しみながら親としても成長していく。 「ここの親たちは、1人1人の子どもの性格までよく知っている」。父親たちは声をそろえる。「そうすると、自分の子どもだけではなく、友達やクラス全体の成長も楽しみになる。そこで感じた思いを、ほかの親や保育士に話し、共感し合うことでさらに喜びが増す。同じ気持ちで、子どもたちみんなの成長が喜びになる」。 | ||