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参考文献

以下、著者名のアイウエオ順(外国人の著者は日本語読み)で掲載した。

※ 文献名をクリックすると<寸評>が表示される。

【D01】李榮薫(イヨンフン)編著:「反日種族主義」、文藝春秋、2019年11月15日

  • <寸評> 「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知られ渡っています」で始まるこの本は、韓国でも日本でもベストセラーになった。6人のいずれも右派の著者の論稿から構成されている。
    種族≒民族なのだが、韓国の民族主義には自由で独立的な個人と言う概念がないので、種族主義としたのだそうだ。内容は、慰安婦問題や徴用工問題で日本に賠償を要求し続けることがいかに理不尽なことかを示し、韓国の左派の政策を糾弾している。慰安婦問題については日本の否定派が喜びそうな内容になっているが、喜んでいるだけでなく、韓国の右派から学ぶべきものがたくさんあるのではないかと思う。

【D02】海野福寿編:「日韓協約と韓国併合」、明石書店、1995年6月15日

  • <寸評> 1910年の日韓併合条約締結の経緯について韓国側学者の5件と編者本人の論文2件から構成されている。韓国の学者たちはいずれもこの一連の条約は武力による脅迫などがあり、無効だと主張、海野氏もその不当性を認めつつも帝国主義全盛の当時において、違法だとは言い切れない、としている。専門家向け。

【D03】大江志乃夫編:「支那事変・大東亜戦争間動員概史」、不二出版、1988年7月15日

  • <寸評> 戦後直後に記された執筆者不明の陸軍兵員動員状況を編集したもの。

【D04】大岡昇平:「俘虜記」、(1952年12月,創元社),新潮文庫、1967年8月10日,2015年4月10日65刷

  • <寸評> 著者は1944年7月、35歳のときに召集されてフィリピンミンドロ島に出征し、陸軍第105師団西矢中隊の本部付暗号手だった。1945年1月25日米軍の俘虜となり、終戦まで俘虜収容所で過ごした。この本は俘虜になったときから、日本に帰るまでのことを克明に記録していたものである。兵士たちの生々しい姿が描かれている。

【D05】大沼保昭:「『慰安婦』問題とは何だったのか」、中公新書、2007年6月25日

  • <寸評>アジア女性基金の呼びかけ人、理事として基金の活動の中心を担った著者が、その活動の総括を行った本である。「慰安婦」問題に取り組んだアジア女性基金、日本政府、支援団体やNGO、メディアについて、問題解決に失敗した原因や成果をあげた点などを述べている。なお、大沼氏は東京大学名誉教授で国際法の権威であったが、2018年10月、腎盂ガンのため72歳の若さで逝去している。日本の戦後責任問題に精力的に取り組み、慰安婦問題以外にサハリン残留朝鮮人の帰還問題などの解決にも貢献した。

【D06】大沼保昭・江川紹子:「『歴史認識』とは何か」、中公新書、2015年7月25日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類C)を参照願いたい。

【D07】稲葉正夫編:<明治百年史叢書>「岡村寧次大将資料 上巻」,原書房,1970年2月20日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類C)を参照願いたい。

【D08】笠原十九司,吉田裕編:「現代歴史学と南京事件」,柏書房,2006年3月25日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類B)を参照願いたい。

【D09】川田文子:「皇軍慰安所の女たち」,筑摩書房,1993年8月15日

  • <著者は1943年生まれのフリーライターで日本の戦争責任資料センターの共同代表。慰安婦問題や保育、女性問題などの著書が多い。この本では、元慰安婦のペ・ポンギ、石川たま子、宋神道、田中タミ(仮名)の4人の証言にもとずいて慰安婦生活やその前後の体験などをまとめている。千田夏光のような小説っぽい面白さはないが、誠実な描写の中にも慰安婦制度への批判が読み取れる。

【D10】川田文子:「インドネシアの"慰安婦"」,明石書店,1997年5月31日

  • <寸評> 1995年から96年にかけてインドネシアを3回訪問して元慰安婦たちに聞き取り調査をした結果をまとめている。ヒアリングに応じた慰安婦は、次の4つのグループに分けられ、それぞれ3~6人の証言が掲載されている。①南ボルネオの慰安所、②ジャワ島西部スカブミ地区の慰安所、③ジャワ島西部バンドンの中国人が経営する慰安所、④現地妻となった被害者。 一人ひとりの証言を忠実に再現したというより、それぞれの地区の状況を証言をもとにまとめているので、証言と著者が構成した部分との区別がつきにくいところもある。終章ではインドネシアにいた元日本軍将校の証言と元慰安婦のアンケート結果について評価している。インドネシアでは元慰安婦として2万人以上が名乗り出ているが、著者は日本軍の性暴力の激しさを強調するだけで、他地域と比較して著しく多い理由の分析がなされていないのは残念である。

【D11】韓国挺身隊問題対策協議会・挺身隊研究会編、従軍慰安婦問題ウリヨソンネットワーク訳:「証言-強制連行された朝鮮人慰安婦たち」、明石書店、1993年10月30日

  • <寸評> 韓国人の元慰安婦19人の証言集。昔のことなので記憶が薄れていたり、教育を十分に受けていないせいもあって話の辻褄が合わなかったりで、一人の証言をまとめるのに面談を5~6回繰り返したとのこと。秦郁彦氏は、「親族、友人、近所の人など目撃者や関係者の裏付け証言がまったく取れていない」という。証言内容がまったく信じられないということではないが、裁判の証拠に使ったり歴史事実の確定に使うには無理があろう。

【D12】金一勉編著:「戦争と人間の記録 軍隊慰安婦」,徳間書店,1992年2月29日,初版1977年12月30日

  • <寸評> 金一勉氏は在日朝鮮人の評論家。早くから慰安婦問題の研究を続けており、朝鮮人慰安婦20万人説を発出者と言われている。この本は7人の執筆者が論稿を集めたもので、その中に上坪隆の「芸者・黒須かなの従軍」がある。また、麻生徹男軍医の寄稿もあるが、内容は千田夏光「従軍慰安婦」に出てくるものと同じである

【D13】キャロル・グラック:「戦争の記憶」、講談社現代新書、2019年7月20日

  • <寸評> 著者はコロンビア大学教授で、日本近現代史の権威。日本、韓国、中国、アメリカなど各国の学生との対話を通じて歴史の見方が国によって異なることを明らかにし、なぜそのような違いが起きるのかを説明していく。韓国人学生は、「韓国人が日本人の謝罪を受け入れない決定的な理由は、謝罪があった直後に、政府の誰かが違うことを言うからなんです」と言っている。

【D14】熊谷奈緒子:「慰安婦問題」、ちくま新書、2014年6月10日

  • <寸評> 著者は「国際関係論」の学者で、慰安婦問題を女性の人権問題や社会的問題としてとらえ、大変わかりやすくまとめている。"国家補償派"と異なり、いわゆるアジア女性基金を肯定し、和解の方向性についても提案している。この本は秦郁彦氏からも「概説書として最適」と評価されている。

【D15】小林よしのり:「慰安婦」、幻冬舎、2020年1月30日

  • <寸評> 1996年頃から「SAPIO」、「戦争論」、[新ゴーマニズム宣言]などに掲載された漫画に,[反日種族主義と戦え」という描き下ろし1編をくわえたもの。否定派シンパが自己満足のために読むのにはいいが、これで慰安婦問題を勉強しようというのは無理がある。ただ、世の中に出回っている否定論の展示場みたいなので、このレポートを書くには役立った。

【D16】櫻井よしこ:「日本よ、「歴史力」を磨け」、文春文庫,2013年1月10日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類C)を参照願いたい。

【D17】佐々木元勝:「野戦郵便旗」、現代史出版会,昭和48(1973)年4月20日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類B)を参照願いたい。

【D18】 (財)女性のためのアジア平和国民基金編:「"慰安婦"関係文献目録」、(株)ぎょうせい、1997年9月30日

  • <寸評> 1996年までに出版された慰安婦問題関係の書籍、雑誌など総計1276件の目録。編著者、タイトル、出版社名、刊行日、だけが記載されている。

【D19】城田すず子:「マリヤの賛歌」、かにた出版部,1971年7月30日(初版),1985年8月15日(改定2版)

  • <寸評> 東京深川の比較的裕福な家庭に生まれたが、母が死ぬと家業は急激に傾き、借金返済のため芸者屋に売られた。。芸者屋から借りた借金はなかなか減らず、高収入が見込める南洋にいくことにした。台湾、サイパン、トラック島、パラオなどの慰安所を転々とし、戦後もアメリカ兵相手に体を売り薬物や博打に溺れて荒んだ生活を送る。睡眠薬自殺を図るが死にきれず、社会復帰が困難な女性ための施設「かにた婦人の村」で過ごした。この本の著者は本人の名前になっているが、その施設長で日本基督教団の深津文雄牧師が本人の告白を元に執筆したものであろう。日本に帰って来てからの生活や更生施設に入所後のことなどのボリュームが多い。

【D20】千田夏光:「従軍慰安婦」、講談社文庫、1984年11月15日(1973年双葉社刊行を文庫化)

  • <寸評> 慰安婦問題に関する草分け的存在の本。著者は元毎日新聞記者。慰安所の業者や慰安婦への取材をもとに、慰安婦の実態を明らかにしているが、著者の脚色がかなりありそう。取材した1970年当時は関係者も若く、問題がおおげさになっていなかったこともあって、たくさんの関係者のインタビューが掲載されている。

【D21】千田夏光:「続・従軍慰安婦」、講談社文庫、1985年12月15日

  • <寸評> 上記「従軍慰安婦」の続編。慰安婦の帰還について書いているが、正編以上に物語性が強く、読み物としては引きつけられるが、その分中身の信頼性には?がついてしまう。

【D22】千田夏光:「従軍慰安婦・慶子」、光文社文庫,1985年12月15日

  • <寸評> 慶子と呼ばれた元慰安婦の証言を小説風にまとめているが、歴史事実や時代背景の解説という形で著者の意志が強く盛り込まれている。そのため、本人の証言内容と著者が脚色した部分がごっちゃになって、どこまでが事実なのか怪しい感覚を持つ。「慶子」は日本陸軍が設置した本格的慰安所である楊家宅慰安所に開設と同時に慰安婦として行った。その後、ボルネオ、フィリピン、ラバウル、など、日本軍が設置した主な地区の慰安所を転々とし、ビルマで終戦を迎えている。

【D23】玉井紀子:「日の丸を腰に巻いて 鉄火娼婦高梨タカ一代記」、現代史出版会,1984年5月31日

  • <寸評> 標題の通り、元慰安婦である高梨タカの一生を本人の証言をもとにノンフィクション小説風にまとめたもの。タカは、1904年東京品川の博打うちの家に生まれ、11歳で奉公に出され16歳で結婚したが19歳のとき夫に「遊女屋」に売られた。娼館を転々とし、35歳で南京に行き、その後セレベスやサイパン、パラオなどで慰安婦をやった。結婚したが夫は帰還船が撃沈されて死亡、戦後は博打や闇屋などもやったという。明るく豪気な女性という感じで、慰安婦の暗さは感じないが、戦争については批判している。

【D24】谷川美津枝:「青年将校と慰安婦」、みやま書房、1986年8月5日

  • <寸評> 元陸軍少尉松本良男氏の証言と提供された資料をもとに慰安婦と青年将校の交流を書いている。松本氏は「これまでの従軍慰安婦の物語は暗く悲しいものが多かったけど、中には人間らしい幸せな日々をすごした女性もいたことを知ってほしい」と語っており、この本も悲惨な環境の中での心温まる"物語"のようになっている。証言の細かい部分の信ぴょう性は確認できないが、そうした慰安婦もいた、ということはわかる。

【D25】西岡力:「よくわかる慰安婦問題」、草思社文庫、2012年12月14日

  • <寸評> 著者は、国際基督教大学教授で、韓国に外務省調査員としての駐在経験もある韓国通。否定派らしく、朝日新聞やその記者などを批判する文章が多い。秦氏には到底及ばないが、それでも否定派の本としてはましな方であろう。

【D26】朴裕河(パクユハ):「帝国の慰安婦」、朝日新聞出版、2014年11月30日

  • <寸評> 著者は韓国世宗大学校日本文学科教授、慶応大学出身で日本語が堪能な女性。「和解のために」は日本人が翻訳しているが、「帝国の慰安婦」は韓国語版を本人が日本語に訳している。韓国側日本側双方の問題を指摘しており、日本の一般人にはわかりにくい韓国側の事情がよくわかる。「帝国の慰安婦」で慰安婦の名誉を棄損したとして韓国で起訴され、地裁では無罪判決が出たが高裁では罰金1千万ウォンの有罪判決を受け、現在、大法院(最高裁)に控訴中。この本は秦郁彦氏も評価している。

【D27】朴裕河(パクユハ)著,佐藤久訳:「和解のために」、平凡社ライブラリー、2011年7月8日

  • <寸評> 2005年9月に韓国で出版された同名の本の日本語訳である。日本と韓国の間に横たわる4つの問題(教科書、慰安婦、靖国神社、独島(日本名:竹島))について、客観的な目で日韓両国のそれぞれの問題を指摘している。著者はあとがきで、{ 戦争をふせぐためにわたしは書いていたのだと、あらためて気がついた。現在の韓日関係は、ときにぶつかりあってはいても、基本的には概ね良好といえるだろう } と書いているが、それから15年近くたって、両国の関係は大きく悪化してしまった。

【D28】秦郁彦:「慰安婦と戦場の性」、新潮社、1999年6月30日(2015年5月15日第15刷)

  • <寸評> 日本の近現代史の歴史家として第一人者の地位を占める学者。南京事件では中間派であるが、慰安婦問題は否定派の立場をとっており、否定派の理論家として拠り所になっている。実証的、論理的姿勢はキープしつつ、当時の法体系において国家責任を求めることはできない、との結論を出している。単行本1ページ2段構成で小さな文字でびっしりと書かれているが、膨大な量の史料を呈示しつつ、わかりやすくまとめてあるのには感服する。政府高官から英語版の出版を打診されたが、不都合なところは削除して欲しい、との要望を聞いてきっぱり断ったという。全文をそのまま翻訳して出版されることを期待したい。

【D29】秦郁彦:「慰安婦問題の決算」、PHP研究所、2016年、6月3日

  • <寸評> 慰安婦問題のみならず、得意の昭和史や喫煙規制に関するぼやき、なども含めた論稿集である。「慰安婦と戦場の性」では、自身の感情を抑えて、事実に基づく論証に徹したとのことであるが、ここでは感情丸出しでホンネを言い放題、ナショナリストとしての本領発揮というところで、素顔の秦氏を見たような気がする。

【D30】秦郁彦:「昭和史の謎を追う(下)」、文春文庫、1999年12月10日

  • <寸評> 太平洋戦争終戦以降で話題になった事件や疑惑のあった事件などをとりあげている。慰安婦問題のほか、昭和天皇独白録、東京裁判で裁かれなかった人たち、帝銀事件、松川事件、朝鮮戦争と日本、三島由紀夫事件、などである。従軍慰安婦は上下2編あり、上編は[正論]1992年6月号、下編は「諸君!」1992年9月号に掲載されたものである。両方とも慰安婦問題が騒がれ始めた初期のころの論稿になる。

【D31】林博史:「日本軍『慰安婦』問題の核心」、花伝社、2015年6月25日

  • <寸評> 林氏は関東学院大学教授で専攻は現代史、軍隊・責任論、吉見義明氏とならぶ国家補償派の重鎮である。本書は、これまでに発表した論稿や講演録に多少手をいれたもの。東南アジアにおける慰安婦の状況やアメリカ軍の性対策についての研究成果は他に類をみないのではないだろうか。ただ、やたらと政治的かつ教条的文章がめだつのは、南京事件の笠原十九司氏と似ていて、目障りである。

【D32】半藤一利・秦郁彦・保坂正康・井上亮:「『BC級裁判』を読む」、日経ビジネス文庫、2015年7月1日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類C)を参照願いたい。

【D33】広田和子:「証言記録 従軍慰安婦・看護婦」、新人物往来社、1975年11月15日

  • <寸評> 元従軍慰安婦と元従軍看護婦の証言を記録した本で、「戦争によって翻弄された個々の人々の不幸について報告することによって反戦を訴えたい」と著者は述べている。従軍慰安婦の証言者は、トラック島に将校用慰安婦として行った菊丸こと山内馨子と、同じくトラック島で兵士用慰安婦として過ごした鈴本文(仮名)の記録である。二人ともトラック島での生活は「楽しかった」と述べている。

【D34】フィリピン「従軍慰安婦」補償請求裁判弁護団:「フィリピンの日本軍"慰安婦"――性的暴力の被害者たち、明石書店、1995年12月20日

  • <寸評> 1993年4月にフィリピンの元「慰安婦」たちが起こした裁判の弁護団が編集した本で、元「慰安婦」たちの証言や裁判の意義や法的根拠、さらにはフィリピン占領史や戦後の日比賠償交渉の経緯なども記している。証言は訴状の内容をもとにしているとみられ、簡潔でとても読みやすい。この証言を読んでいると南京事件における中国民衆への暴虐行為によく似た事件が起きていることがわかる。南京事件で"勇名"をはせた16師団はフィリピン攻略戦にも参加しているのである。日本軍は中国でやったのと同じことをフィリピンでもやった可能性は高い。

【D35】藤岡信勝:「某国の大罪と言う7つの理由」、雑誌「Will」、2016年3月号

  • <寸評> この論稿は「勝利か、敗北か、日韓慰安婦合意」という特集で2015年の日韓合意に対する批判論稿を集めたもののひとつ。慰安婦論争をまるで戦争をしているかのように「勝利か、敗北か」で振り分けようとする国粋主義者たちの発想にはあきれる。なお、同じ特集で櫻井よしこ氏は「悔しいけど政治・外交的にみれば大いに評価すべき」と述べている。

【D36】藤目ゆき:「『慰安婦』問題の本質」、白澤社、2015年2月27日

  • <寸評> フェミニストの見た慰安婦問題として書かれており、3つの論稿と4つの講演録で構成されている。書籍コードは歴史書になっているものの、実証的研究には程遠い。また、同じフェミニスト系の文献からの引用は多いが、否定派や国家補償派の歴史家の文献からの引用は少なく、自分たちの世界に閉じこもって独善的、排他的な思想に浸りこんでいるのではないかと勘繰りたくなる。詳細は、"小論法"に書評を書いたので、そちらを参照ください。

【D37】洞富雄編:「日中戦争 南京大残虐事件資料集 第1巻」,青木書店,1985年10月20日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類B)を参照願いたい。

【D38】前田雄二:「戦争の流れの中に 中支から仏印へ」,善本社,1982年8月1日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類B)を参照願いたい。

【D39】山田清吉:「武漢兵站」,図書出版,1978年12月25日

  • <寸評> 著者は明治33年(1900年)生まれ、士官学校を出て予備役でいたところを昭和16(1941)年9月召集され小笠原の父島に配属、昭和18(1943)年3月、漢口兵站司令部に転任し、慰安係長に就任した。この本は漢口兵站にいたときの慰安所や演芸会など慰安行事のことを詳細に書いている。おそらく日記かメモか何かを元にして書いたのであろう。慰安所の現場にいて、しかもそれをしっかり記述できる知力を持った方の記録であり、慰安婦問題を勉強する人にはとても参考になると思う。ただ、絶版になっていて古本でしか手に入らず、私は2000円で入手したが、1万円以上する店もある。

【D40】吉田裕:「日本軍兵士」,中公新書,2017年12月25日

  • <寸評> 弊サイト「南京事件」の部の「参考文献」(分類C)を参照願いたい。

【D41】吉見義明:「従軍慰安婦」、岩波新書、1995年4月20日(2018年9月5日第26刷)

  • <寸評> 吉見氏は中央大学教授の歴史学者で、国家補償派のリーダー格。この本は、慰安婦問題に関する本としては秦氏の「慰安婦と戦場の性」とならぶかそれ以上によく読まれている本であろう。慰安婦の徴募や生活、慰安所の運営などに加えて、国際法との関連についても一般読者にわかりやすいように記述されている。また、これらの項目については発行から20年以上たって研究が進んだ現在でも古びた感じがしないのは立派である。

【D42】吉見義明編:「従軍慰安婦資料集」、大月書店、1992年11月27日

  • <寸評> 慰安婦に関する日本軍・日本政府の資料を集めたもの。

【D43】吉見義明・川田文子編著:「『従軍慰安婦』をめぐる30のウソと真実」、大月書店、1997年6月24日

  • <寸評> 吉見氏は中央大学教授の歴史学者、川田氏はノンフィクション作家で日本の戦争責任資料センター共同代表で、両者ともに日本の国家責任を韓国とともに追求する代表的な研究者。この本は慰安婦問題の争点をわかりやすく整理している。

【D44】吉見義明:「真の解決に逆行する日韓『合意』」、雑誌「世界」2016年3月号

  • <寸評> 2015年の日韓合意に対する批判。

【D45】レギーナ・ミュールホイザー著 姫岡とし子監訳:「戦場の性――独ソ戦下のドイツ兵と女性たち」、岩波書店、2015年12月15日

  • <寸評> 著者は1971年生まれのドイツ人。歴史学、ジェンダー史が専門の女性学者。韓国留学経験もあり、女性国際戦犯法廷にも出席している。この本は第二次世界大戦の独ソ戦における強姦などの性暴力について、当時のドイツ軍の考えかたや兵士の心理などを分析したもので、大変な力作である。A5版の単行本2段書きで本文は230ページほどだが、脚注と参考文献リストだけで80ぺージ以上あり、特に参考文献は数えきれない(500件以上)ほどある。日本の文献もあるが、吉見義明氏や林博史氏など国家補償派の著作が多く、秦郁彦氏の著書がないのが残念。内容は性暴力や娼婦の利用などの実態と当時のドイツの人種政策や売春に対する軍の方針と兵士の心理などで構成されており、ドイツの"慰安婦システム"についても簡単に書いている。日本の慰安婦問題に関する書籍は、自らの主張を前面に出して反対意見の紹介をしない本が多いが、この著者は様々な論者の意見を淡々と紹介した上で、自分の考えを述べている。きわどいレイプのシーンも出てくるが、全体としてはとても地味な印象を受ける。それでも、独ソ戦の残酷さは日本軍の残虐さ以上かもしれない、と思わせたり、ドイツやロシアの性に対する考え方は日本とはだいぶ違う、ということがわかり、興味深い。ただ、ある程度の予備知識と学術文書を読む心構えが必要。