環境に優しい船(後編)
前編に続いて後編を掲載します。                 

5. 長崎のコンソーシアム開発事業(環境に優しい船)             
事業の狙い                                 
  ●長崎で開発を先行することによる環境を重視する県のイメージアップアップ。
  ●付加価値の高い船舶を建造することにより地元造船所の活性化を図る。   
  ●省エネ船の就航により燃料費高騰で苦しむ運航会社の経営を改善する。   
  ●電気推進船により保守点検が軽減され整備技術者の高齢化や後継者不足に  
   対応できる。(若年者は就労環境が悪い事業を敬遠する傾向が強い)    
  ●電気推進化により電機関連技術者の養成の道も開けることを期待。     
事業の位置づけ                               
  ●平成18年10月に「長崎県新産業創造構想」により「新エネルギーの県」を  
   目指して、新エネルギー・環境産業の振興を集中プロジェクトとした。   
  ●ハウステンボスは「長崎次世代エネルギーパーク」に認定され、「創り」  
   、「使い」、「見せる」ことを体験し、自然エネルギーの普及、啓蒙に貢献 
   することになった。(開発中の電気推進船,電動ボートも目玉の一つ)   
  ●電気推進船の開発事業は、造船産業を重視する長崎らしさの象徴でもある。 
全体構想(クリーンエナジーシップの企画)               
                                    24m湾内遊覧船(ハイブリッドボート)                       ●太陽光発電には甲板面積を広く確保し、抵抗の少ないマルチハル船型を開発。   ●駆動装置やバッテリーを含む電源装置の最適システムを開発。          ●風力エネルギーも積極的に推進力として利用できる最適なセールシステムの設計  ●桟橋には効率よく急速に充放電できる装置を設置。               ●湾内クルーズ客船、近距離連絡船や係留時間が長いプレジャーボートを目標      全長Loa          24.10m                      全長Lhーハル全長      24.00m                      全長Lrー登録長さ      22.75m                      全幅Boa           8.10m                      全深Doa          3.58m                      定員          乗員2人+旅客200名                  総トン数        100トン以上                     軽荷重量(計画)       50t                       重荷重量(計画)       70t                       最大速力(200psx1)   10kt以上                  
                                   9m周遊艇(テーマパークや観光地のクルージングで使用する)            ●深夜余剰電力(商用電源)を使用して充電。                   ●電気モータの特性により優れた加速と騒音,振動を抑制し静かで快適な走行。    ●低コストで高信頼性の電気推進モーター、蓄電装置及び制御装置の開発が必要。  ●将来は鉛電池以外の高性能電池を採用し走行性能を向上させる。         ●非常用内燃機関駆動発電機はバイオマス燃料を使用。            

                                   7m小型周遊艇(テーマパークや観光地のクルージングで使用する)        7m程度の小型電気推進船であれば鉛電池でも成り立つので船価が低減できる。既に諸 外国では一部実用化されている。
                     補助電源システム(現状船舶の居住区電源に環境技術を応用する)         入出港のみ使用する電気推進装置や居住区内の電源にメ再生可能エネルギーモを利用 することは比較的容易である。特に居住区などで使用する補助電源システムとしては 短期間に実現できる。
                       6. ハイブリッドボートの企画(実用化は現状の応用技術で可能)          ハイブリッド技術導入は、大型のハイブリッドシップより充電時間が充分に取れる  遊覧船や近距離旅客船およびプレジャーボートの方が成功する可能性大。      セーリングクルーザーなどのプレジャーボートは短時間に実用化が可能で量産効果も高い。      低速のWind Solar Sail Boat                           ●年に200時間程度でしか使用しないプレジャーボートは係留中に充電できる電力量が    大きい。                                  ●セーリングクルーザーは電気自動車用モーターが流用可能で、ディープサイクル鉛バッ    テリーでも成り立つ。(船外機と船内機仕様)                 ●セールとソーラーパネルと組み合わせたメカニカルセールは商品性を高める。   ●非常用電源として内燃機関駆動の発電機も考慮。(バイオマス燃料を使用)    ●豊富な電力でキャビン内の空調も行なう。                
                                   新しいコンセプトのプレジャ?ボート   ●電気モーターとバッテリーのみで30KT以上を発揮するのは現状では不可能。    (電気推進装置は重量当たりの発生出力が内燃機関に劣っている。)       ●中速領域(30FTで25KT程度)なら自動車用のハイブリッドエンジン技術を流    用すれば新しいハイブリッドボートを生み出すことは可能である。        ●ハイブリッドボートは居住性にも電力を積極的に使用できるので新たな商品性    を生み出す。                                ●ハイブリッドボートのメリットは電気モーターの出力特性による走行性能の改    善と静粛性に優れ居住性が改善できる。                 
                                    中速のハイブリッドボート                             ●電気モーターとバッテリーのみで30KT以上を発揮するのは現状では不可能。    (電装品の重量および容積の総合評価では内燃機関に劣る)           ●中速領域(30FTで25KT程度)なら自動車用のハイブリッドエンジン技術を流    用すれば新しいハイブリッドボートを生み出すことは可能。           ●推進動力に大電力を使用するハイブリッドエンジンは居住性にも電力を積極的    に使用できるので新たな商品性を生み出す可能性がある。         
                                    新しいコンセプトのプレジャ?ボート                        ●ハイブリッドボートのメリットは豊富な電力と電気モーターの出力特性による    走行性能の改善。                              ●静粛性に優れた電気モーターで推進することで居住性がさらに優れたプレ    ジャーボートが生まれる可能性もある。
                                    免許が不要な小型電動ボートの企画                      
                                    免許不要、検査不要の小型ボートA 1  (パワーアシストスポーツボート)       ●免許不要、船体検査が不要である。                      ●動力は太陽電池による電力と人力を組合わせたパワーアシスト方式。       ●最高速力は軽快さを感じる自転車並みの速度。(20?25km/h)         ●離水と最高速力を出す場合のみパワーアシストを使用する。巡航は電池のみで    走行する。                                 ●使用目的はレジャーや競技など。                  
                                    免許不要、検査不要の小型ボートA 2  (パワーアシストスポーツボート)       ●メ再生可能エネルギーメとモ人力エネルギーモの組合せと無免許、検査不要な    小型ボートは魅力的である。                         ●免許不要、船体検査が不要である。                      ●動力は太陽電池による電力と人力を組合わせたパワーアシスト方式とする。    ●最高速力は軽快さを感じる自転車並みの速度。(20?25km/h)         ●水中翼船方式では離水と最高速力を出す場合のみパワーアシストを使用する。    巡航はソーラーパネルと電池のみで走行する。                 ●使用目的はレジャーなど。                      
免許不要、検査不要の小型ボートA 3  (レンタル電動ボート)        ●動力は太陽電池による電力と人力を組合わせたる方式。             ●最高速力は早足程度の速度。(5?8km/hまたは4kt程度)            ●使用目的は観光地でのレジャーなど。                     ●日本の湖河川で使用する釣り舟やペダルボートは数千隻の市場がある。      ●必要な技術開発は信頼性の高く、低価格推進ユニットの開発。       

                                    7 ハウステンボス向けメ環境に優しい船メについて                 ハウステンボスは環境に配慮した施設で、今まで20隻以上のキャナルクルーザーを  運航してきた。現在、キャナルクルーザーの1隻を電気推進船に改造し商業運行も開  始したが、残りのキャナルクルーザーを最小限で改造したハイブリッド化の考えも  ある。また園内のペダルボートを無免許で操船できる電気推進ボートの実用化も期  待されている。                                電気推進船の狙いと利点および課題                       ●水を汚さない(湾内に何も排出しない)                    ●環境や居住性に配慮(振動、騒音、煙霧)                   ●化石燃料節約の最も有効な方法                        ●再生エネルギーや陸電からの効率的な充電技術の開発が必要         
                                   7-1 ハウステンボスキャナルクルーザーの電気推進化               試験船としてキャナルクルーザーのディーゼル推進機関を交流電動モーターに換装  し、鉛バッテリーに蓄電した電力を使用する電気推進船に改造した。バッテリーへ  の充電は夜間の商業電源の他に、船に装備するソーラーパネル(太陽光発電)も利  用する。電気推進船は環境対策の他に低振動低騒音などの居住性の向上も期待でき  る。                                      電気推進化の狙いおよび利点                           ●航行する水域の環境保全(汚水および排煙禁止)                ●居住性の改善(振動騒音の現象)                       ●運航費の削減(省エネ)                           ●充電技術の確率                           
                                    太陽電池、モーター出力とバッテリー容量の検討                  太陽光パネル(ソーラーパネル)                         ●試験船の屋根は約37平方メートルあり、発電量40W/Hのソーラーパネル70枚    (合計約3KW)が搭載可能である。                   モーター出力                                  ●ベースとなるキャナルクルーザーの推進はディーゼルエンジン24P(17.5KW)    x2基なので試験船も同等の電気モーター(18.5KW)を搭載することにした。  バッテリー容量                                ●要求される航続性能は70%出力(12KWx2)で4時間程度とすると必要なバッ    テリー容量(発電容量)は、24KW x 4h =48KWhとなる。            ●ソーラーパネルの発電量は平均するとカタログ値の60%と推定されるので充電    可能な日照時間を約10時間とすれば1日で3KWx0.6x10=18KWHとなる。     ●1運航日分をソーラー発電だけで賄うには約3日必要である。           ●不足する電力は夜間に陸電から充電する。(こちらがメイン)       



        7-2 キャナルクルーザーのハイブリット実用化                      ●従来はキャナルクルーザーは推進用ディーゼルエンジン(24PS-18KW)2基と室内用    エアコンの動力として20KWディーゼル発電機を1基装備。           ●試験艇で推進性能を確認した結果、施設内水路を約3KTで巡航するのであれば    推進動力は約3?5KWの電力で充分。(離接岸で一時的に大きな出力が必要だ    としても5KWを大きく超えることはない。)                  ●居住性を損なわない範囲でエアコン用発電機から推進用の動力(5KW)を賄う    ことができれば最小限のコストでハイブリッド電気推進化は短時間で実現可能。     エアコンは起動時に大きな電力を必要とするが20KW発電機の半分以上の電力    は電気推進に使用できる。(従来船で電力使用を調査確認する)      
                                     実用化電気推進船を目指すタイプA                         ●推進軸系は主機を価格が安い直流モーターに交換し、エアコン用発電機の交流    電力をインバーターで直流に変換してモーターへ電力を供給するタイプ。     ●交流発電機の出力変動に対応するためとバックアップ電源として最小限のバッ    テリーも搭載し、夜間電力からの充電も考慮する。(オプションとしてソー    ラーパネルと夜間電力による充電を考慮)              
                                     実用化電気推進船を目指すタイプB                         ●試験艇と同じく交流モーターを使用するがモーター出力は必要な最小レベル    (18KW→5KW程度)へ低下させる。                      ●マリンギヤは廃止し、後進はモーター自体を逆転させる。            ●動力源を発電機から得ることはタイプAと同じである。(オプションとしてソー    ラーパネルと夜間電力による充電を考慮。)              
                                     実用化電気推進船を目指すタイプC                         ●現在の推進装置に直流モーターを追加しセミハイブリッド化する。        ●直流モーターとディーゼルエンジンの出力伝達は電磁クラッチで切換える。     制御等はタイプAと同じ。                           ●改造個所は比較的少ないが重量は増加する。長時間走行が可能となる。  
                                   8. 大学におけるメ環境に優しい船モ の試験                   2006年度 委託研究                             「環境に優しいクリーンエナジーシップの研究、開発」をテーマに沖新船舶工業    (株)が長崎県の補助金事業として長崎総合科学大学は受託研究として共同試験    を行った。                                試験の目的                                   ●プレジャーボートを改造した試験船はソーラーパネルから得た電力で走行。    ●ソーラーパネルの発電特性を知る。(天候や時間の経過による変化)       ●汚損防止の光触媒を塗布したソーラーパネルと対策なしの場合の発電特性を確    認する。                                  ●ディープサイクル鉛バッテリーの充放電特性を確認する。            ●速力試験を実施し電動船外機の性能を確認する。               試 験                                      ●船首に約1.34KW(1.8PS)電動船外機を2基装備。               ●出力40W/枚のソーラーパネルを12枚(合計480W)を装備し発電量を計測。   ●電動船外機の推進効率を解析するために試験船を曳航し抵抗を計測。      8-1 電気設備                               (1)発電:ソ-ラーパネル12V-40Wを12枚(480W)            (2)充電: 24V-240Wを2系統でディープサイクルバッテリー12V-105AH4個に充電   (3)太陽光コントローラー:太陽電池システムコントローラーとして24V仕様を2セット      (4)計器類:アナログ電流計、電圧計を4セット                 (5)計測装置:全体の電気系統を記録するロガー(20チャンネル)       (6)配電ターミナル:複雑な配線をまとめた配電盤              (7) GPS:速力や航跡を表示し記録できる衛星航法装置            (8)電動船外機:電動船外機(24V-1340W)2基              
                                    8-2 試験船配線図                            
                                    8-3 船体抵抗計測試験                             抵抗と必要馬力に関するデータを得る目的で試験艇を別のモーターボートで曳航   し抵抗を計測した。速力はハンディGPS航法装置を使用し抵抗はバネ計りを使用   した。                                 
                                    8-4 分力試験                                 ●曳航試験で得られた船体抵抗に対応する電動船外機の所用動力を求めるため    に分力試験を実施した。                           ●電動船外機の出力を40、60、80、100%の出力で走行させ試験時の電流と電    圧は自動計測記録器(ロガ?)のデータからを使用。              ●速力は曳航試験と同様にハンディGPSを使用した。            
                                    8-6 プロペラ推進効率                             ●電動船外機(ミンコタ)のプロペラは微速で効率が高く、速力が増加すると極    端に推進効率が低下。                            ●普通のプロペラは速力の増加すると推進効率は増加するが、電動船外機(ミン    コタ)のプロペラはピッチが浅いので潮流の影響を受けやすい。         ●普通のプロペラはバスボートが微速で移動することを前提にしていると考えら    れる。                                   ●実用艇では使用目的に合わせてプロペラ設計を行なうことが必要である。 
                                    8-7 充電試験(実船に搭載した状態)                      試験艇に搭載したソーラーパネルの晴天、曇天、雨天時の発電状態を計測した。   ソーラーパネルは半分を光触媒を塗り比較を行なったが発電能力にはほとんど差   はないことを確認した。                        
                                    8-8 放電試験                                  放電試験はバッテリーがフル充電状態の状態から80%出力で全力走行できる時間   を計測した。                              
                                    9  電気艤装品の試験(個人として継続中)                    ●電気推進船のコストダウンを図るには、市販の電装品を流用することが必要。   ●市販の電装品は、性能、機能、整備性、耐久性を実際に使用して確認。      ●使用環境を考慮し電装品はできるだけ船舶(ヨット)に搭載して試験を実施。
                                    9-1 充電試験(ソーラーパネル単独試験)                    ●40Wのソーラーパネルを使用し天候の変化による発電量を調査。         結果:最高動作点で作動していない。                      課題:最適動作点追尾装置が必要。                     *最適動作点について                              ●適正な負荷を掛けて、出力が最大となる最適動作点で動作させることが理想。   (最大出力点の電圧は開放電圧の80%程度)                   ●パネルの表面温度、照度によって最適な動作点は変化する。           結果:市販の最適動作点追尾装置(トラッカー)MPPTの基本性能は普通のコント      ローラーと性能差がなかった。                   
                                    9-2 電動船外機とバッテリー容量の性能試験                   ●ドイツ製電動船外機(トーキード800W仕様)を使用する。  ●スロットル(出力制御装置)リモコン仕様に改造する必要あり。  ●他のガソリン船外機よりプロペラ効率が優れていることを確認する。  ●バッテリー保護回路を確認する。(急激に出力が低下する点)  ●予備試験は出力約65%で係留状態で実施、走行試験は出力約100%で航行し   自動停止するまで実施。  ●出力操作を容易にするためにリモコンを改造。              
                                      リモコンスロットルの改造                            ●船外機から数メートル離れた位置でも操作ができる。              ●6極6芯モデム用モジュール5m延長ケーブルを流用した。            ●実用化には船舶に使用できるリモコンを開発することが必要。      
                                    9-3 電動船外機とバッテリー容量の確認試験                  ●ディープサイクルバッテリーの放電使用限界を調べる。             ●予備試験は65%出力で係留状態で実施、走行試験は100%出力で航行し電動船外   機が自動停止するまで実施。                         結果:●電動船外機は電流と電圧を調整し出力を一定に調整する機能あり。        ●電動船外機は試験開始から3時間半で停止。(バッテリー容量が低下する      と自動停止することを確認)                      課題:●バッテリー出力の限界点を精密に計測する。                  ●係留試験ではエアドローが発生。                  
                                  9-4 充電器の試験、その他の電気艤装品の試験                  ●電気推進船のコストダウンを図るために、市販の電装品を多用する方が良い。   (機能と耐久性の確認が必要)                        その他の電気艤装品の試験                            ●バッテリー残量計。(低価格で高精度。電気自動車用が可能性あり)       ●太陽光発電コントローラー、スイッチ、電流、電圧計              ●市販の電装品は、性能、機能、整備性、耐久試験で確認。            ●使用環境を考慮し電装品はできるだけ船舶(ヨット)に搭載して試験     (例)市販充電器の試験                        
                                   10  おわりに(環境にやさしい船の将来展望)                 10-1 一般的な環境技術開発                           ● メ環境に優しい技術開発メは低コストが重要。                 ●地球環境保全は技術先進国だけではなく開発途上国との共存が必要。       ●地球環境意識を啓発するモデル地域(仮称エコトピア)を提案          ●メ再生可能エネルギーモの開発で最も重要な課題は蓄積技術である。       ● 今後のエネルギー経済は化石燃料に依存から脱却しし電力供給も大規模集中か    ら小規模で局地的なものへと変化する可能性が高い。            10-2 船舶における環境技術開発                         ●実用化は再生エネルギーや化石燃料と組合わせたメハイブリット化モが有望。   ●低抵抗のマルチハル船型を開発が必要。風力も積極的に利用するセールシステ    ムの設計。                                 ●桟橋には効率のよい充電ステーションを設置し、効率の良いマネージメントシ    ステム(電源制御回路)が必要                        ●実用化の可能性が高い船舶を優先する。(年間使用時間が少なく、係留時間が    長いプレジャーボート、湾内観光船、パトロールボート、近距離連絡船。)