連載-ボートデザイナーの仕事(第5回)


 
■2章(新時代のマリン事業)続き
2-3-3 プレジャーボートの解説                       
 日本のプレジャーボートビルダ−としてはヤマハ発動機(株)が最大の規模と歴史
を誇っている。現在のマリン市場の基礎を作ったのはヤマハの功績であるが最近は事
業が好調とは言えないようだ。事業創成期は優秀な社員により急成長するが、企業が
成熟期を迎えるとどうしても保守的になる傾向があるようだ。しかしヤマハマリン事
業は多くのノウハウを持っているのも事実である。ヤマハが新たな市場を創り出す企
画力と開発力および営業力は今でも日本のマリン文化を支えている。日本でプレ
ジャーボートが売れる要素は、ボート自体の性能や居住性が重要であるが、整備性、
操縦性が良いことも重要である。また日本の海象に合った耐航性を有しているか、更
に日本独特の免許制度に合致しているかなど多くの要素が加わった結果として、良く
売れるボートなのである。ボートビルダーは、最も売れそうなサイズや仕様を、いわ
ゆる戦略商品として開発している。プレジャーボートの企画が経営的に成功するには
ライバル艇も多いので、企画やデザインが充分な競争力を持つことが重要である。し
かし近年は、その戦略商品の位置づけが微妙に変化し、低成長時代と環境を重視する
商品作りが必要となりつつある。そこで過去及び現在日本で売れている戦略商品群を
分析し、今後新しく開発されるべき商品の方向性を探ってみる。         

パワーボート商品群の解説                          
●入門艇、ランナバウト、スキーボート                    
 マリンレジャーと言えばまず釣りやスポーツ走行(水上スキー他)に関心を持ち、
更に小型船舶を所有したくなる。これらを全て満たす訳ではないが小型の入門艇があ
れば魅力的であり、日本では1970年代に小型の入門艇が多数開発された。    
13〜15FTクラス                              
日本では、初めて免許を取った人が乗るのに適当なサイズ。水上スキーやウェーク
ボードの牽引ボートとして使うとやはり物足りなさが残るが、マリンスポーツに関心
のある初心者向けである。  価格体系 100〜150万円            
       

17〜20FT入門艇	
いつの時代もプレジャーボートの入門艇は一定の需要が見込めるので各社商品の種類
も多いがサイズとしては17〜20FTである。以前はヤマハパスポートシリーズが入門
艇の代表であったが最近はSRV-17、20がその代表と言える。今後も遊びの機能やア
クセサリーが追加されて商品魅力を増す開発が続けられるだろう。トレーラー牽引免
許が緩和されれば更に普及する可能性は高い。価格体系  150〜200万円    
      

17FTクラスランナバウト                          
17FTサイズは3〜4人で遊ぶのにバランスがとれた性能とスペースがあり、初心者に
も取り扱いが容易なボートである。最近はバウデッキにバスフィッシング機能を追加
したり、ウエークボード牽引機能を追加したりするモデルが増えている。トレーラブ
ルに適したサイズでもある。   価格体系 150〜250万円          
       

19〜20FTクラスランナバウト                       
17FTクラスの上級クラスであるが、大馬力船外機により優れた走行性が特徴である。
水上スキーマニアなどの需要は強いが、戦略商品にはなりにくい。またこのクラスは
輸入艇の種類も多く、日本で新たに開発するメリットは小さい。         
          価格体系 250〜350万円                
       

21〜23FTクラスランナバウト                       
19FTクラスの上級艇であるが、日本人の体格からは19FTで充分で、どちらかという
と欧米人向きであるが、ランナバウトの最高級艇として日本でも一部の顧客には人気
がある。輸入艇の方が価格品質的にも充実している。              
          価格体系 450〜650万円                
       

17〜20FTクラス	スキーボート                        
米国では水上スキー人口も多くスキーボートの種類や生産数も日本とは比較にならぬ
くらい多い。今後もこれは変わらないと考えられているがFISH-IN-SKIと呼ばれる釣
り機能を付加したモデルが急速に伸びている。                 
       

●フィッシャーマン                             
17〜22FTクラス                              
初心者がボート遊びを始めるのに最も適当なサイズである。しかも価格的に手頃なの
で、1970年代から一時期は最も売れ行きの良いボートであった。最近はユーザーも経
済的に豊かになり、ユーザー志向がやや大型に移行する傾向となっているが機能的に
は、初心者が2〜3人で釣りを行うのに最も通したボートである。今後も戦略商品とし
て復活する可能性も高いと考えられる。 価格体系 100〜150万円       
       

22〜24FTクラス                             
1980年代のヤマハF−22を皮切りに、低価格でボリューム感があり、沖合での釣りに
も安心感があり、釣り機能重視がユーザーに高く評価される代表的なクラスである。
17FTクラスから乗り換えるユーザーも多いが、近年このクラスのユーザーは高級志向
になり、また遊びが家族単位に変わる傾向が強まり居住性を重視し、またサイズも多
少大きくなって23〜24FTクラスが主流になっている。このクラスは今後とも戦略商
品であり続けると思われる。   価格体系 200〜350万円         
       

24〜26FTクラス                              
このクラスは22FTクラスからの乗り換えユーザーが多く、釣り機能の充実が狙いで
あったが、最近はキャビンの居住性が重視され、ファミリー志向がより強まった。販
売価格は20FTクラスのキャビンクルーザーと同等であるが、デッキスペースも広く使
い勝手の良いので、遊び慣れた20FTクラスのキャビンクルーザーから乗り換えるユー
ザーも多い。  価格体系 400〜600万円                 
       

26〜28FTクラス                              
このクラスになると釣り機能の充実と居住性重視の好みがはっきりしている。最近は
ディーゼルエンジンの性能が向上し、釣りをより重視する顧客は船内機仕様の漁船風
なフィッシャーマンを好み、居住性やクルージングを好む顧客はマルチクルーザーな
どの上級艇も増えると予想される。       価格体系 600〜2000万円  
       

●フィッシングクルーザー、マルチクルーザー                 
26〜28FTクラス                              
26〜28FTクラスのフィッシングクルーザーは釣り重視のユーザー向けのボートで、
釣り機能に徹しており日本では漁船の流れを汲み、ディーゼルインボード艇が多い。
またこのクラスは過去に物品税や総トン数5トン未満の制約内で全長8m前後にまとめ
られていたが現在はその制約がなくなり、免許制度ものでこのサイズがこれまでのよ
うな競争力を持つかは疑問である。                      
一方、オフショアトローリング向けの本格的な幅広フィッシングクルーザーを求める
顧客も多い。このクラスは釣り重視のユーザーには取扱いも手頃なマルチクルーザー
として今後も人気が続くと思われる。   価格体系 800〜2000万円      
  

30〜33FTクラス                              
このクラスは総トン数5トン未満で漁船の船型を採用したフィッシングクルーザーと
して存在してきたが、免許制度や登録制度の変更などで、今後は無理のない設計でま
とめることができるので新たな戦略商品となるかもしれない。
              価格体系 1500〜2500万円           
       

35FT以上                                  
日本では釣り愛好者が多いので欧米のキャビンクルーザーより釣り機能を重視し室内
も豪華なマルチクルーザーが多く、60FTクラスになると船価格は数億円になる。  
       

●スポーツフィッシャーマン                         
スポーツフィッシャーマンは比較的大馬力の主機を装備し、釣り機能、居住性、高速
性能を重視し、本格的なオフショアフィッシングを目的とするクルーザーである。一
時期、日本ではマルチクルーザーから分かれて釣り重視のスポーツフィッシングク
ルーザーが開発されたがバブル崩壊以降はより釣りを重視したフィッシングクルー
ザーとマルチクルーザーへ2極化する傾向がはっきりした。米国ではハイパワーで高性
能な大型オフショワスポーツフィッシャーマンは健在である。          
    価格体系 5000万円以上                      
       

●キャビンクルーザー                            
キャビンクルーザー家族でデイクルージングを楽しむ目的で狭小デザインに徹し居住
性を重視したボートであるがあまり小型では成立図、最少でも19FTくらいは必要であ
る。                                    
19〜21FTクラス                             
17FTクラスの入門艇からの乗り換えとして人気があり、ヤマハCCR-19は今でも全国
で稼働しているのを見ることができる。新たなデザインで開発すればこのサイズが戦
略商品になる可能性もある。                        
       

22〜23FTクラス                              
日本ではこのクラスのキャビンクルーザーの成功例は少ない。この背景には22FTクラ
スのフィッシングボートと、26FTクラスのキャビンクルーザーが戦略商品として成功
しているので、常にこれらの商品と比較されるので、価格とサイズのバランスが悪い
商品になっていたと予想される。ただ、輸入艇には魅力あるボートが多い。   
       

24〜28FTクラス                              
このクラスは最も日本的な商品である。釣りもある程度可能でキャビンクルーザーと
してまとまりが良く、居住空間も比較的広くとれるサイズである。しかしバブル期を
境にサイズの割に割高感のある価格が災いし販売隻数は低下し一時期の勢いはない。
しかし、釣りも可能なマルチクルーザーとして無理のない設計で生まれ変わる可能性
もある。     価格体系 1200〜2000万円               
       

28〜32FTクラス                              
このサイズになると安心感のある走行性能、耐波性、居住性など、本来は最も使い易
いクラスである。景気好調時はステータスボートとしてかなりの需要があった。しか
し5トン未満の免許制限がなくなったので、再び脚光を浴びる可能性もある。
      価格体系 2000〜3000万円                  
       

33〜36FTクラス                              
日本のキャビンクルーザーの市場規模は小さく量産効果も小さいので質感の高い輸入
艇が国内でも優勢である。しかし、日本では内装のオーダーメイド化(カスタム化)
を受け入れるセミカスタムボートにすれば、需要の拡大を期待できる。      
       価格体系 3000〜4000万円                 
       

38〜45FTクラス                             
35FT以上のクラスはセミカスタム化が適しており、内装は豪華で居住性の良さがより
求められる。またこのクラスになるとアフトキャビン仕様もバリエーションとして追
加した方がよい。       価格体系 4000〜6000万円          
       

45〜50FTクラス                              
このクラスは総トン数20トン、一級免許で乗れる最大クラスである。日本ではカスタ
ムポートしての事業が望ましい。また日本では純粋なキャビンクルーザーではなく釣
り機能を重視したマルチクルーザーの需要が強い。               
  価格体系 6000万円〜1億円以上                   
       

50〜60FTクラス                              
過去、物品税と小型船舶の枠内で無理な設計のクルーザーも多かったが免許制度が変
わり24m未満まで操縦できるよう緩和され他。総トン数20GTを超えてJG検査となる
が、無理な設計をする必要もなくなり、顧客のニーズに応える本格的なカスタムボー
トとして日本のステータスボートとして存在しつつある。50FT以上のキャビンクルー
ザーは特にモーターヨットと呼ばれる場合もある。               
     価格体系 1億円〜2億円                     
       

60FT以上80FT未満                             
日本でも小型船舶の定義が80FT(24m)となり、今後一部のリッチマンのステータス
ボートとしてまた事業用として存在して行くであろう。現在は輸入艇がほとんどであ
るが国産艇の誕生も実現が期待されている。		価格体系 数億円        
        

●メガヨット                                
日本では80FT以上のプレジャーヨットはほとんど存在しないが、諸外国のセレブ階級
ではメガヨットも多数所有しているようだ。普通、120FT以上のキャビンクルーザー
はメガヨットと呼ばれるが、中には300FTに達するようなプレジャーヨットも存在す
る。                                    
       

●バスボート                                
15〜19FTクラス                              
日本ではバスフィシングの歴史が浅いが、米国などはゲームフィシングが普及してい
る。日本でも1980年以降バスボートは急速に普及したが、最近は遊びが多様化し、水
上スキーなども可能な多目的バスボートの方がより普及する可能性が高いと考えられ
る。           	価格体系 150〜250万円            
       

●ジェットボート                              
15〜20FTクラス                             
PWCはプレジャーボート需要の大きなシェアを占めておりPWCが入門艇となっている
と言うこともできる。PWCのユーザーが高年齢化すると遊びの形態が変化し、通常
ボート形式のジェットボートに関心を持っても不思議ではない。ウォータージェット
の走行性能はPWCに通じるし操縦特性もジェットドライブ独特のフィーリングが好ま
れている。またプロペラ推進より安全性も高いので更に普及する可能性は高いが、環
境問題で2サイクルエンジンが4サイクル化されるとエンジン重量増加による全体バラ
ンス改善が必要となり、またウォータージェットユニットの改善も更に求められるで
あろう。         価格体系  200〜250万円            
       

●ハウスボート                               
プレジャーボートの楽しみはマリンスポーツが強調されるが、ボートで船上生活を楽
しむハウスボートの存在は今後注目されている。                
15〜23FTクラス                             
キャビンクルーザーもハウスボートの一種と言えるが、スタイリングより居住性を重
視したのがハウスボートと言うこともできる。次の写真は筆者が設計した17FTと
23FTのハウスボート(多目的ボート)である。                
      

50FT以上の大型ハウスボート                         
米国の湖や河川では家族で長期休暇を過ごすことができる大型のハウスボートも多数
存在する。                                 
       

●レジャー客向けの業務艇                          
日本は個人所有のプレジャーボートはあまり普及していないが、営業用のレジャー船
は多数存在する。                              
屋形船                                   
日本では歴史のある屋形舟も業務用レジャー船と言える。東京、大阪や各地の湖、河
川、水路で活躍する屋形船は採算を考慮し収容数の多い大型艇が多い。しかし、筆者
が設計した10m“屋形舟”は江戸文化を意識し少人数のグループ客に特化したユニー
クな業務艇である。                            
       

観光船や周遊船                               
屋形船と同様に子供や家族連れをターゲットにした観光船や周遊船も多数運航されて
いる。特に子供が興味を持つテーマパークでの周遊船も期待されている。     
       

遊漁船                                   
日本で最も多いレジャー人口は釣りと言われているが、これを支えるのが遊漁船であ
る。釣りを重視し漁船のスタイルを踏襲した遊漁船が多いが今後は家族連れを意識し
たスタイリッシュな遊漁船もニーズが有りそうだ。               
             

●新しいアイデアの業務艇                          
オフィスボート                               
筆者が企画中のオフィスボートはボートを設計事務所や営業所として使うアイデアで
ある。都会の一等地は高い賃貸料なのでマリーナや水辺に移動事務所を設ければユ
ニークな存在になる可能性もあると考えている。               
      

2-3-4 事業企画(開発艇の選択)                     
 マリン事業の採算を考えると利益率の高い舟艇や量販が期待できる艇種を開発すべ
きだ。しかも開発計画と量産計画がうまく効率的に稼動しなければ利益を上げること
はできない。開発艇種の選択で優先すべきは事業リスクをできるだけ避ける意味で採
算性が高く確実に顧客の評価を得られるボートからスタートさせるのが望ましい。事
業リスクを考えると注文生産のカスタムボートが良さそうだが、事業実績のないボー
トビルダーが最初から受注するのは難しい。大型艇開発はリスクが大きいが、景気が
回復基調になると高額商品は比較的早く市場が回復するので小型艇とうまく組み合せ
る良い。マリン事業では営業力が重要で、大型艇の有力な顧客は既存のボートビル
ダーと何らかの接点を持っている場合が多く、営業担当者は有力な顧客の購入(買い
換え)時期を良く知っている。プレジャーボートの事業化では優秀な営業担当者や
ディーラが商品企画に参加することが重要である。本書では具体的な商品企画して次
の艇種を例として選択したが、実際はしっかりしたマーケットリサーチで決定した方
が良いのは当然である。ここではあくまで開発計画を検討する為に仮定したのであ
り、実際の事業で決める開発艇種の選定は単純ではない。            

初年度(量産効果と利益率の大きな商品を優先)                
●FISHERMAN CUDDY 	F-25 O/B                  
●CABIN CRUISER	 CCR-27、CCR-32、CCR-53              

2年度                                   
●FISHERMAN CUDDY 	F-25 I/O                  
●FISHERMAN HARDTOP F-25HT O/B、I/O                 
●DECKBOAT	  DB-25 O/B、I/O                 
●CENTER CONSOLE	   CC-25 O/B、I/O                
●CABIN CRUISER	   CCR-38                     

3年度                                   
●FISHERMAN CUDDY 	F-21 O/B、I/O               
●DECKBOAT	   DB-21 O/B、I/O                 
●FISHERMAN HARDTOP  F-21HT O/B、I/O                
●FISHERMAN CUDDY    F-23 O/B、I/O                 
●FISHERMAN HARDTOP  F-23HT O/B、I/O                
●CENTER CONSOLE	   CC-23 O/B、I/O                
●DECKBOAT	   DB-23 O/B、I/O                

4年度                                    
●FISHERMAN CUDDY    F-19 O/B、I/O                 
●DECKBOAT	      DB-19 O/B、I/O              
●CENTER CONSOLE	 CC-19 O/B、I/O CC-21 O/B、I/O         
●FISHING CRUISER	 FC-32                  

2-4 開発計画                               
 量産プレジャーボートのニューモデルは毎年秋に発表される。艇種や開発スタッフ
の規模にもよるが商品のモデルチェンジサイクルは3年〜5年で、企画から試作までは
半年から1年半で開発作業を完了する。最も重要なことは開発投資に見合う事業である
かを判断することである。本稿では本格的なマリン事業参入を仮定し、初年度の開発
艇は戦略的に価値の有る4艇種とし、量産数が期待できるフィッシャーマンと販売価格
が比較的高く利益率も大きなキャビンクルーザーを選択している。次年度以降も競争
力のあるボートを順次追加開発する期待させる事業展開が重要である。      

2-4-1 開発費の見積り                           
 開発には設計費、型費、試作費その他多くの経費を要する。その詳細は本稿では特
に述べないが、マリン事業へ参入する場合、全くゼロから資本を準備しスタートする
ことは珍しく、ある程度資本力のある企業の一部門として事業化を考える場合が多い
ようだ。この場合、親企業の事業戦略がはっきりしていてもこれに対応する営業戦略
や開発戦略に見合う人材を確保するのは難しい。本書では開発に必要な項目やプロセ
スをできるだけ判り易く解説するが実績ではないのであくまでも参考である。表-2は
事業開始から4年目までの開発計画を示しているが初年度はともかく2年目以降は修正
が加えられるのは当然である。賃率(円/時間)は企業により異なるし、材料費は毎年
変化する。設計工数や現場の開発工数はあくまで筆者の経験値である。実際に事業化
を行なう場合の材料費や開発工数はその時点で詳細に検討するのは当然である。  
       


2-4-2 開発作業をサポートするシステム                   
 効率的な開発作業は各部門で蓄積された情報を活用できるシステムを作ることが重
要である。これらのシステムは事業の経過と共に蓄積される部分も多々あるが他社か
ら利用できる情報も取り入れることで開発時間と費用を低減できる。       
以下、開発作業をサポートするシステム(部門)の例である。          
企画部門                                  
● 市場調査  ●商品企画                          
営業部門                                  
●営業情報の配布 ●マーケッティングニュースの配布             
総務部門                                  
●人事管理 ●提案シート(新商品提案、コストダウン提案など)        
技術部門                                  
●設計標準	●標準部品リスト ●パソコン管理  ●標準部品カタログ      
資材部門                                  
●標準部品、専用部品講入価格リスト(3ケ月に一度配布) ●見積資料の取りまとめ
生産管理部門                                
●作業工程表 ●スタンダードタイム ●日程管理               
生産技術部門                                
●生産議術基準 ●型費見積基準 ●成形仕様書 ●木取り要領書 ●治具、テンプ
レート                                   
品質管理部門                                
●品質管理基準 ●JCI受験作業の標準化                   
フィールドサービス部門                           
●顧客リスト ●搭載エンジンの取付けマニュアル ●取扱説明書 ●整備要領書
 注)それぞれの情報は技術部へ伝えられるシステムが作られている。       

2-4-3 開発大日程                             
 開発をタイムスケジュール通りに進めるにはしっかりした開発大日程が重要であ
る。責任と時間および資金の管理が重要なことは当然であるがこの大日程を確実に実
現しようとする組織力が事業を成功させる原動力である。図-85は大企業が作成する
プレジャーボート開発大日程の例である。開発するボートが小さければもっと開発期
間も短く日程表も簡単になるのは当然である。                
       

2-5 造船所計画                              
2-5-1 造船所選択上の留意点	                        
 造船所(ボートビルダー)をどのように経営するかは極めて重要である。新規に造
船所を建設する場合は許認可手続きに時間がかかるので委託生産が可能な造船所を探
す方が良いかもしれない。ここでは造船所を建設するのに必要と考えられる留意点を
リストアップするにとどめる。                        
●日本で新たに建設される工場は、労働環境への配慮が重視されるので、安全と衛生
 については特に留意する必要がある。FRPの積層とサンディングは作業環境が悪い
 ので、船体や上部構造などの大きなFRP構造物の積層工程と部品類を取付ける艤装
 工程とは作業区画を分けるべきである。                   
●完成艇のストック置き場は販売計画に合わせるべきでボート販売や引き渡しが本格
 化する初春まで完成艇をストックすることになる。              
●小型艇の完成検査は工場内のプールで行い、またエンジンセットなどの作業も実施
 できる設備も設ける。                           
●安全に関係する管理区画を設ける。(FRP樹脂、燃料、高圧空気、変電設備)  
●工場内は季節による、作業能率の低下を防ぐ為、空調には特に注意を払い、スポッ
 トクーリング、スポット暖房の設備を充実させる。              
●工場の近くには、試運転ができる水面を確保し、近くにはマイルポストを設ける。
●品質管理が重要な部品の外注はなるべく避け、内作を充実させるべきである。  
●購入品に対しては適切な品質管理基準を適用する。              
●人件費圧縮としてパートタイマーを多用する場合は作業管理と品質管理が重要。 
●輸入艤装品は種類も多いので、資材部門は設計部門と共に艤装品を手配する。  
●現業部門には外注者やパートタイマーを監督する特に優秀なリーダー(フォアマ
 ン)確保する。                              
●インテリア、建具職人、家具職人は、近年人材不足ぎみなので人員確保は重要であ
 る。                                   
●小型艇の生産では、積層から艤装まで行う多能工によるチームを編成する。   
●開発艇試作では、技術教育現場として生産現場から毎年人事ローテーションとして
 数名を選び、その任にあたる。(アフターサービス部門の支援人材)      

2-5-2 設備費見積                             
 正式な検討ではないが、設備費の概略を知る目的で検討項目をリストアップした。
見積もりは2000年前後であくまでも参考値である。            
(1) 工場全体                             
(2) 木工部門                             
(3) 金属加工部門                           
(4)  資材部門                              
(5) ソフトウェア部門                         
(6)  製造部門                              
(7)  実験部門                             
(8)  試作部門                              
(9)  製造部事務所                           
(10)技術部事務所                           
(11)営業部事務所                           
(12)企画部事務所                           

(1)工場全体                                
表-3は工場全体に必要な設備の見積りであるが社屋、変電設備、コンプレッサー設
備、敷地舗装、ドックスロープ、消防設備、トイレ設備は含まない。またFRP工場と
しての室内温度管理設備も含まない。                    
     

(2)木工部門                                
表-4は木工部門で木型や室内木工の加工に必要な設備である。実際は木工部材の塗装
を行う場合もあるがここでは必要工具は見積もりに含まれていない。      
     

(3)金属加工部門                                              
表-5は主に内作部品の製作や大型艇の金属部品の製作でどうしても現場合わせが必要
な艤装品の製作に必要な金属加工工具の見積である。              
      

(4) 資材部門                                 
表-6は倉庫管理に必要な設備であるが、各種艤装品の適正在庫管理とするには発注管
理と生産管理と関連が大きい。                        
      

(5)インテリア部門                             
表-7は量産艇のカスタム艇の内装部品を試作するために必要な最少の設備であるが、
実際は外注のインテリアメーカーに依頼する場合が多いので現場で不具合が発生した
場合の手直し作業しか行なわない。                     
      

(6)  製造部門                               
表-8はFRP量産艇の製造に必要な設備であるが、最近は製品の品質管理や作業員の安
全管理および環境管理が厳しくなったので設備費は増大する傾向にある。    
     

(7)  実験部門	                               
表-9は完成したボートの試運転や開発関連作業に必要な実験部門の設備であるが
フォークリフトや伴走艇は見積額に含んでいない。               
     

(8)  試作部門	                               
表-10は開発艇を試作する部門の設備であるが、事業が本格化するまでは製造部門内
に設置する。                               
     

(9)  製造部事務所                             
表-11は製造に関連する従業員の詰所でもあるが、昼食などの厨房設備は見積に含ま
ない。                                  
      

(10)  技術部事務所                            
表-12は設計、生産技術部門の設備費である。製造現場と直結するCADシステムの費
用は見積に含まない。                           
     

(11)(12)  企画、営業部事務所		                     
表-13は企画、営業部門の設備費である。企画や営業部門は製造現場と分離し、営業
活動に有利な都会に事務所を設ける場合も多い。                
       


2-5-3 造船所の検討                            
 販売に合わせた生産設備が理想だが、実際は生産にも山谷があり、販売実績も不確
実なので増産要求への対応も考慮した造船生産能力を検討してみる。       
●就労時間 8時間/日、40時間/週、1900時間/年間             
●中型艇(全長10M前後)の場合は、FRP積層能力から考えると、1隻/週が最大であ
 る。                                    
●小型艇は、積層型の使用が2回/日使用可能で、残業を行うと3回/日も可能可能で
 はあるが、型管理上は2回/日が最大と考えるべきである。ただ、PWCのように加
 熱硬化を考慮すれば生産能力は飛躍的に増大する。	事業初期段階では販売実績が
 予想通りとはいかない可能性もあり、工場が十分に稼働しない可能性もあるので余
 裕のある計画が良い。