連載-ボートデザイナーの仕事(第3回)


 
■1章(続き)
1-2 船体形状に関する基礎知識                       
●舟艇の抵抗                                
高速とは絶対的な速度が高い状態と理論的に高速な状態である場合がある。舟艇の場
合、判りやすく理解する例としては滑走状態であるかどうかでも判断できるが、船舶
工学としての判断基準としては速長比やフルード数により判断できる。速長比やフ
ルード数の解説は後述するとして、まずは船体抵抗にはどのような種類があるかを解
説する。舟艇がある速度で走行する際、その進行を阻止する力が生じるがそれを走行
抵抗という。これらの全抵抗を分離して考えると主に水抵抗と空気抵抗に分けられ、
さらに水抵抗は造渦抵抗や摩擦抵抗および付加物抵抗に分けることができる。厳密に
は付加物抵抗や空気抵抗も水抵抗と同様に渦抵抗や摩擦抵抗に分けられるが全抵抗に
比べるとその割合は比較的小さいので一括して取り扱う場合が多い。排水量型船舶の
抵抗は低速では摩擦抵抗が大部分であるが速度が増すに連れて造波抵抗が飛躍的に増
大する。波は船首と船尾で造られ、その波長は船の幅と速度に比例し、低速では波長
が船の長さに比べて小さいので船体は水平に近い状態であるが、速度が増すにつれて
波長は大きくなり、船首は波の山に船尾は山の谷に沈み込む形となり船体は縦傾斜
(トリム)を持つことになる。さらに速度が増すと造波抵抗はますます増大し、ある
限界点に達すると船型によっては船体抵抗成分に大きな変化が発生する。すなわちこ
れが抵抗の山の頂点で、滑走艇では船底に動的な揚力を生じて船体重量の一部を支え
て滑走状態(プレーニング)に入り造波抵抗は急速に減少する。この領域を超えると
速度も急速に増大し、さらに揚力も増して水面近くまで浮上し滑走状態になる。この
抵抗のピークをハンプと言い、滑走型舟艇ではこのハンプを超えに必要な出力のエン
ジンを装備せねばならない。この抵抗を解説したのが図-1である。
 
注)このグラフは定性的な傾向を示しており実際の舟艇では船型、重量、走行トリム
により抵抗特性は変化する。                         
●フルード数と速長比                            
舟艇の長さと速度の関係を無次元化係数として表わしたのがフルード数(V/√gL)や
速長比(V/√L)である。理論的に解析する場合はフルード数を使用する場合が多い
ようである。    

ここで舟艇のサイズと速力の関係をフルード数で比較してみる。         
ここで使用するフルード数はV/√gL= で表す。        

例1 全長7m、速力24ノット                        
   V/√gL=24x1.852÷3.6(m/s)/√9.81x7(m)=1.490
例2 全長20m、速力40ノット                        
   V/√gL=40x1.852÷3.6(m/s)/√9.81x20(m)=1.469          
例1と例2はフルード数で比較すると絶対的な速力は大きく違うが、理論的な速度領域
は同等であることを意味する。                        
 さて船型を決める場合に排水量型と滑走型どちらが良いかを判断する基準として
は、その舟艇のフルード数がどの程度であるかを知ると判り易い。滑走型船型を採用
する場合、巡航速力がハンプ直後だと少し出力を絞るとハンプ速度以下となり抵抗が
急増するので巡航速力はハンプ付近を十分に乗り越えた速度で計画すべきである。こ
のハンプ領域はフルード数では0.3〜0.5である。低速な舟艇は、浮力により船体重量
を支える方が抵抗は少なく、高速舟艇は動的な揚力で重量を支えて、できるだけ水面
に乗り上げて滑走する方が抵抗は少ないと言える。これらの中間領域では艇体重量の
半分は浮力で半分は揚力で艇体を支えるような状態である。このような状態の舟艇は
半滑走型、あるいは半排水量型と呼ばれる。フルード数と船型および走行姿勢を図-2に示
す。                                    
        
●フルード数による船型の分類                       
1)排水量型(DISPLACEMENT TYPE)                     
排水量型船型では喫水線下の断面積カーブは滑らかに変化し、走行中に船体で掻き分
けられた水は船尾では元の位置にスムーズに戻るような形状である。低速な船舶はこ
のような排水量型船型が多い。図のようなセ-リングクルーザーは典型的な例である。
       
2)半排水量型(SEMI-DISPLACEMENT TYPE)
半排水量型船型では停船時の断面積カーブが船尾でゼロに戻らずトランサム面が水に
浸っている状態である。速度が上がるとトランサム後部は水の慣性で空洞ができ、流
れは整流されて、トランサム部の抵抗は船尾が伸びている場合の摩擦抵抗より少なく
なる。この船型の特徴は、滑走面のバトックラインが船尾の近くで直線に近くなって
おり、十分な速度では船尾が引き込まれることはなく、排水量型のように船首が高く
上がる(トリムが付く)ことはない。図は遊漁船の例である。          
       
3)滑走型(PLANING  TYPE)                         
滑走型船型は停船時に断面積カーブが船尾に近づくほど大きくなり、浮力の分布が船
尾に集中し、滑走に入り易い船型を採用している。               
        
●船底の形状による船型の分類と特徴                     
舟艇の船型を船底の形状で分類するとモノハルとマルチハルに分類でき、それぞれを
排水量型と滑走型に分類することもできる。それぞれの船底形状は抵抗や波さばき、
安定性などの特性を重視しており一長一短があるので優劣を判断することは難しい。
ここでは、多くの舟艇に使用されている代表的な船型について解説する。    
(A)モノハル                               
(A-1)排水量型                                
 手漕ぎボートやセールボートに代表される船型である。(詳細な説明は略)	  
(A-2)滑走型                                 
 滑走船型はハードチャイン艇で総称される。舟艇は走行性能と船体の空間利用との
 兼ね合いが 重要である。特に狭小空間の有効利用が重要なプレジャーボートでは
 総合的に評価が高いV型 船型が主流となっている。V型船型は外洋の波浪中でも比
 較的耐航性が良いが、V角度が大き く軽量な舟艇では水線面がチャイン以下の場
 合、停船時の横安定が若干弱い。しかし、横傾斜 が約10度以上になるとチャイン
 が水面に接し大きな復元力を持つと共に走行時には幅広のチ ャインが大きな横安
 定を生みだす特徴がある。典型的なV船型は15°〜25°の深いV角度と 数本のス
 トライプを持つが舟艇のサイズや使用目的により船底形状は多少違いがある。V型船
 型の具体的な例としては1)コーンケーブV	2)コンベックスV 3)ディープVが
 代表的である。                              
 1)コーンケーブV船型はV角度が大きくとれるので中波での衝撃を小さくするクッ
  ション効果により乗り心地を良いと言われている。             
 2)コンベックスV船型は摩擦抵抗が少なく高速向きと言える。        
 3)ディープV船型は船底が比較的フラットでV角度が20°を超え旋回の際、船体は
  外側船底が押し上げられ内側に大きく傾斜するがキール部分は横滑りを防ぐ。 
  あまり、タイトな旋回をする場合はキール部分を丸くしたりして適当に横滑りを
  させて調整する。                           

V型船型は滑走時に優れた横安定                       船底に取り付けられたストライプは走行状態で多少の揚力を発生し横安定を増加させ る。特にチャインが水面と接しないような高速ではストライプがチャインの代わりに 横安定を保っている。またストライプが多くなるとストライプ下からの水圧を分散さ せるのでローリングを柔らかくする効果もある。またストライプ役割はスプレーをう まくさばくのも目的である。                                   V型船型はスプレーをかぶりにくい                        V船型は速度が増すと船体は浮き上がり船底で生じたスプレーは横へすり抜けて甲板上 に水をほんどかぶらない。しかしストライプの数や位置により波さばきに少し差がで る。                                             V型船型は滑走に入り易い                            V角度が大きく、軽量な船型はチャインのほとんどが水面上にあるので水面下の形状は 細長い形状となりチャインに当たる水の抵抗が小さいので滑走に入り易い。排水量が 大きい場合はチャインの半分以上が水面と接することになり造波抵抗も摩擦抵抗も大 きくなり滑走に入り難くなるので適度な軽量化が重要である。                  (V船型のくせ)V船型は多くの長所もあるが欠点もある。             横落ちすると衝撃大                              波のある水面を走行中、スロットルやステアリング操作が適当でないとジャンプし、 船体が傾斜したまま着水する場合がある。この時は船底に大きな衝撃を受けることが ある。                                            浅い角度での波切りは注意                           波とほぼ平行に走行し、波の頂上に乗り上げると船体は大きくローリングする。さら に、高速で旋回操作なども加わると、このローリングは大きくなるのでできるだけ波 に対する角度を大きく取るような操船を行うことが望ましい。                   プロペラトルクによる横傾斜                          高出力シングルエンジンの場合、波をジャンプするとプロペラだけが水中に残りプロ ペラトルクで船体が傾斜したまま着水することがある。修正するには高度な操縦テク ニックが必要である。                                    横風の影響                                  走行時、強い横風を受けると横滑りを防ぐ為に当て舵をおこなうが結果的に風上側に 傾斜する。防止するには船尾にタブを備えて修正するがタブの角度が大き過ぎると抵 抗も増え後部の揚力が増し船首が下がり過ぎる場合もあるので注意が必要である。         (B) マルチハル                                (B-1) 排水量型                                カタマラン型、トリマラン型、ウェーブピアサー型やSWATH型に代表される船型で、 浮力により船体重量を支えており、船首に当る波浪の衝撃を減少させている。一方、 排水量型船体は造波抵抗を減らす為に、極端に細長い船体になっている。この船型の 特徴は波浪の影響を少なくすることができるが、小型舟艇では船体空間の利用が困難 であるほか建造コストが高いなどの面で不利な面も多く、実用化されているのは比較 的に中、大型船が多い。                                   (B-2) 滑走型                                 カタマラン型やトリマラン型などで代表され、浮力と揚力の関係はモノハルと同じ考 え方である。これらのカタマランやトリマランの船体断面は次に示す通りである。マ ルチハルの特徴としては横安定が優れており、特に小型で超高速のレースボートでは 船底の空気層がエアクション効果を生み出し中程度の波に対しては柔らかな乗り心地 を生み出すことである。また、滑走状態に入ると双胴で船体重量を支えるので横安定 が強く、大馬力エンジンを装備することも可能である。舟艇の大きさにもよるが高速 では双胴間の空気で揚力が発生し、抵抗を大幅に減らすことができるので内水面で使 用するレーシングボートの多くがこの船型を採用している。実用的なマルチハルボー トは横安定の良さと甲板面積の広さを釣船に応用し実用化した例も多くなってきた。         マルチハル船型の特徴をまとめると次のとおりである。              <カタマラン船型>                              乗り心地が良い                                船体中央下部の空気が高速になるとエアクッション効果を持つと共に、両側に分かれ たハルはモノハルと比較すると波の衝撃が小さく乗り心地が良い。                 旋回がタイト                                 マルチハル船型は旋回中横傾斜することもなく、両側のハルは水面に食い込み横滑り を妨げるので旋回半径は小さい。また横風に対しても横滑りが少ないので直進安定性 は良い。                                           優れた横安定                                 両側に船体を有するので強い横安定を発揮する。高速艇ではV型船型では滑走面が細長 くなり横安定が不足するが双胴船は横安定が強いので大馬力エンジンを搭載できるの でより高速に適した船型と言える。                              造波抵抗が小さい                               双胴の細身のハルは造波抵抗が小さいので荷重の小さな状態では滑走に入り易いが、 重荷重では重心バランスに敏感で後部の浮力が小さい場合は滑走に入り難い場合もあ る。                                             甲板使用面積が広い                              モノハルに比べて重心も低く、横安定も良く、両側のハルは前後に長く配置されるの で甲板面積を有効に広く使用可能である。実際に量産プレジャーボートで実用化され ている。                                          旋回は外傾斜                                 旋回中、モノハルとは異なり外傾斜することが多く、横Gも強く残り、乗員は外側へ強 く荷重を受けるので急旋回は好ましくない。旋回中の乗員は強い横Gを受けるので注意 が必要である。                                        重心変化の影響が大きい                            船体が細長いので後部浮力が小さいので重心の変化に若干敏感である。向かい風で船 体下部のエアクッション効果により水抵抗が減少し高速力が得られる。特にレース用 のフォーミュラカタマランなどが顕著である。                          <トリマラン船型>                              トリマラン船型はモノハルとカタマランの長所を併せ持ったのがトリマラン船型であ る。カタマラン船型の特徴は次の通りである。 乗り心地が良い あまり大きくない波浪中では船体中央下部のV船型が波の衝撃を吸収するが、それ以上 の波でジャンプした場合は、衝撃はやや大きくなる。                       旋回がタイト カタマラン船型と似て旋回中両側のハルは水面に食い込み横滑りを妨げるので旋回半 径は小さい。直進性も良い。                                 優れた横安定                                 カタマランとV型船型の長所を持ち停泊時および走行時共に優れた横安定を有する。         造波抵抗が小さい                               カタマランとV型船型の長所を持ち、細身のハルは造波抵抗が小さいので荷重の小さな 状態では滑走に入り易いが、重荷重では後部の浮力が小さいので若干滑走に入り難い がカタマランほどではない。                                  ●ボートの航走状態(挙動)                          舟艇は走行中さまざまな挙動があることを理解しておく必要がある。特に船舶の予備 知識が乏しい一般人に販売する量産プレジャーボートではできるだけ操船が容易な ボートとして開発することが求められ試作艇を製作し欠点があれば改修されるのが普 通である。次ページにその挙動を解説する。                          1-3 抵抗及び推進                              ●推力と速度は反比例する                           プロペラは、速度がゼロで最大推力を発揮し、速度が上がるに従って推力は減ってく る。一方、抵抗は速度が増すと急上昇し、ハンプを超えて滑走(プレーニング)に入 ると一旦抵抗は減少し、その後は再び増加する。最高速力は抵抗カーブと推力カーブ が交差するところで得られる。                                 ●プロペラの選択                               プロペラ特性は直径(ダイヤ)とピッチがおおいに関係がある。プロペラを設計する 場合はプロペラの回転数すなわちエンジンの減速比やプロペラの展開面積比及び翼型 の検討も重要である。大型大馬力の舟艇ではオリジナルのプロペラを設定するが、ほ とんどの小型舟艇ではあらかじめ用意された各種プロペラを選択するのが普通であ る。プロペラ選択ではエンジンが最大馬力を発生する回転数に合わせることが重要で あり、ほとんどはプロペラダイヤとピッチの関係で決定する。特別な高速艇や加速を 重視する舟艇では翼型や展開面積比も充分に考慮する必要がある。 加速を重視する場合はできるだけ直径を大きくしピッチを小さくする。 最高速度を重視する場合はピッチを大きくする。小型のドライブ船ではメーカーで用 意している各種のプロペラの中からボートの特性に合う直径とピッチを持つものを選 択するのが普通である。                                   1-4 速度チャートの使用し速力を推定                     ●速力の推定                                 舟艇の基本設計では予定する搭載エンジンで最高速力の推定は大変重要である。速力 推定は、エンジン出力と速力の関係を示す実績値をチャートにして推定すると便利で ある。このチャートは横軸に速度の係数を、縦軸に馬力の係数を目盛り、チャート内 の曲線はある幅を持つが、これは舟艇が速度を出しやすい船型であるかどうかを示し ており、その要素としては船体の長さと幅の比(L/B)および重心位置(LCG/LT)など でかなり変化する。造船所は独自のデータ(特に自社の実績値)でチャートを作り使 用している場合が多く公開されることはほとんどない。次で説明するチャートは雑誌 等で公表されている舟艇のカタログ値を集計して作成した参考チャートである。 以下に速力推定の手順を例として示す。 まず計画するボートの長さ、重量及び馬力を仮定                 L:  長さ L=13.0m                           △:  重量 W=18.0(トン)                       BHP: 馬力 1300BHP                                    次に BHP/△を求める。 BHP/△=1300/18.0≒72.2 BHP/△の値を次に示すチャート上にプロットし V/√gLの値を読み取るとV/√gL=1.3〜1.5となる。(計算には平均値のV/√gL=1.4 を使用する) 読み取ったV/√gLから最高速力を推定する。 V=1.4x√gL=1.4√9.8x13 =15.8(m/s) =30.7(KT)                                         ●速度チャートの有効活用。 上記のチャートで求める最高速力はかなりの幅を持った値となっており実用的ではな い。実用的なチャートでは船型の要素や長さ方向の重心位置、全長/全幅など様々な要 素を加えもう少し精度を高くしたチャートで検討すべきである。しかしこれらの チャートも、企画開発初期のエンジン出力決定や船体重量、搭載重量と速力性能の関 係などの基本設計ではかなり役立つ手法である。                 1-5 船体構造及び安全性 ◆船体材料 舟艇の船体材料としてはFRPが主流であるが、軽合金、アルミや木造の場合もある。 FRPは成型が容易で重量当りの強度は鉄の2.5倍以上もある優れた素材であるが、弾性 率が小さく剛性がやや劣るなどの弱点もある。しかし修理が簡単で仕上げが美しく比 較的安価に製造できる利点によりプレジャーボートのほとんどがFRP製といっても過 言ではない。しかし最近は廃棄処分の方法やリサイクルが困難であることから日本で はFRPボートの普及に陰りが見えており、これらの問題解決が求められている。しか しこれらの問題がある程度解決できればコストが安く耐用年数の長いFRPは今後も充 分使用される材料である。                                   ●船体構造 FRPやアルミ材料を使用するプレジャーボートは船体構造に曲面を多用し、面の剛性 を高めると共に、集中して加わる力を面全体に分散吸収させる設計となっている。ま た必要に応じて骨となる部材を取り付けて面を補強し剛性を高めている。舟艇は高速 を出す為に軽量化は重要であり、航空機や乗用車と同様に外板に全体の強度を持たせ るモノコック構造も多く採用されている。また軽量化と同時に強度が必要な部分には 複合材(サンドイッチ構造)も多用されている。                         ●スキン構造 ボートに加わる力を外板全体で支える構造をスキン構造と言い、小型艇で採用される 場合が多い。この構造は部材が少なくて済むので製造原価が安く特に人件費(工数) を減らしたい水上オートバイ、手漕ぎボート小型ヨットのような小型ボートで多く採 用されている。                                        ●ロンジ構造 ロンジ構造は船底面の縦方向に強固な補強材を入れて強化した構造で、主に中大型艇 に採用されている。縦方向の補強材はエンジン搭載を考慮し船尾から船首まで伸びて いる。FRP艇ではこれら補強部材としてベニア合板や樹脂発泡材が多く、FRPで積層し 補強して縦方向フレーム材(ロンジ)として使用している。                    ●船体強度テスト 滑走艇が波浪中を高速で航走すると、船底に加わる水圧は極めて大きく速力の増加と 共に加速度的に増大する。また波間をジャンプし着水すると船底が受ける加速度は20 〜30G以上の強い衝撃力が加わり、船底に加わる水圧は2〜4kg/Cにも達するので、 強度を確認し安全性を高める必要がある。新規に開発する量産ボートでは型式承認を 受ける必要があり、試作ボートを使用し強度テストを行うが官庁の規格では2.5mの高 さから落下試験を行うか、それ以外に一定の波浪中で長時間耐久テストを実施し強度 を確認することになっている。                                 ●浮力体(フローテーション) 舟艇の安全性を高める為に、沈没しないよう浮力体を装備する場合がある。全長6m未 満の舟艇では浮力体が装着され、沈没しないように設計されている。船底が破損した 状態の浮力の確認は実際に沈テストを行い確認する。浮力体はガソリンやオイルに侵 されにくい材料を使用するが、通常は硬質ウレタンの発泡材を使用し、コストの厳し い安価なボートではビニール等でカバーしたスチロフォームを使用する。浮力体の使 用量はボートの大きさにより異なるが、ボート本体、エンジン、乗員および備品を合 計した全重量を水面に浮かべられる量とする。浮力体を装備したボートが沈没を免れ て浮かんだ状態を評価する場合、2状態が考えられる。ミニマムフローテーションはど うにか沈没を免れた状態を言い、レベルフローテーションは水平に浮かんで水没した 状態を言う。当然、レベルフローテーションの方が安全性は高いが、水没時の安定や 浮力体をどの程度にするかまだ確立されていない。                       1-6 関連法規 海事関係の法規は複雑であり一般人がすべての内容を理解することは困難である。以 下は舟艇を業務とする者にとって最小限の知識として理解しておくべき関係法規を解 説したものである。 1. 船舶検査関係(船舶安全法) 船舶安全法は日本の船舶が通常の航海で出会う気象、海象で安全に航海できる能力を 有し、搭載している人命、財産の安全を確保できる船体構造、設備を有しているかを 検査することを定めた法律である。                               2. 免許関係(船舶職員法) 船舶職員法は船舶の操縦資格(小型船舶操縦士免許等)について定めてあり、船舶を 安全に航行させるに必要な技量を有する者を、船舶職員として資格を定めて、船舶の 安全航行を確保する法律である。                                3. 船舶登録関係 船舶の登録に関する法規は登録全体に関する船舶法、 登録する船舶の総トン数に関する法律および漁船の登録を定めた漁船法がある。           4. 海上衝突予防法 海上衝突予防法は、海上において船舶の衝突を予防する目的で、国際的に統一した海 上の交通ルールを定めた法であり、特に船灯や音響信号の技術的な設定基準や航法に ついて定めている。                              ●総トン数について 総トン数により海事法令の適用が異なり、航行区域も制限される。船舶の総トン数計 算は複雑で一般には理解が困難な場合が多い。 総トン数の計算は、使用する寸法の取り方に知識が必要で、実際の寸法の取り方の説 明は省略する。                                       総トン数の計算例 閉囲場所の合計容積@  19.340立方メートル 除外場所の合計容積A  12.800立方メートル 合計容積(V)=     32.140立方メートル 係数K1=(0.2+0.02log10V)= 0.2301 t(国際総トン数)K1*V= 7.3 トン 係数K2=(0.6+t/10000)*[1+(30-t)/180]=0.6765 総トン数=K2*t=     4.9トン