はじめに

世界のマリン業界は事業成功者のステータスとして、また欧米を中心としてマリン文
化愛好者により成長してきた。しかし近年、先進国の経済成長は鈍化したが、中国を
始めとした新興国の経済成長は目覚ましい。特に中国の目覚ましい経済成長により多
くの富裕層が誕生し、ステータスとしての高額プレジャーボートが多数輸入されると
共に国内のボートビルダーも急速に増えてきた。今後は先進国の経済成長が鈍化し拡
大が期待できない中では中国、韓国などの新興国に期待が持たれるのは当然である。
 一方、中国などの新興国ではメ物作りメとしてマリン文化を理解し、企画製造する
力はまだ遅れており、特に感性に関しては国民性や文化の違いもあるので世界市場向
けプレジャーボートの独自企画開発を成功させるには当分海外からの支援を得る必要
がありそうだ。中国で成功する企画やモデルが国外でも評価されるわけではないが、
中国が市場として有望であることには変わりない。                                         
そこで海外への輸出も考えたマルチクルーザーとして企画を進めることにした。  
日本ではこのクラスのデータは少ないのでヨーロッパおよびアメリカの50FT以上の
データを収集し40FTクラスのコンバーチブルタイプの主要寸法を検討した。

企画の留意点

ステータスのシンボルとしてまた安全で使い易いサイズの中型プレジャーボートとし
て40FTキャビンクルーザーを企画する。                    
●主機関は高価なポッドドライブは採用せず通常のインボードタイプとする。   
●1~2家族で数日間、船内に宿泊が可能。                   
●簡単なパーティーも可能にするゆたかな居住空間を持つ。           
●サイズは40FT程度(全長24m以内)                     
●最高速力は30?40ノット前後                        
●船価は4000?8000万円程度                           
●エンジンは300?600PS 2基                          
●外観は魅力的で飽きのこないスタイリングする。               
●老人や女性の乗船に充分配慮する。                     
●陸電装置、冷暖房設備、シャワー、ギャレー等生活空間に充分に配慮する。   
● 操船を容易にする為にバウスラスター、(アフトスラスター)を装備する。   
● 中型プレジャーボートは顧客の求める仕様を1モデルにまとめるのは困難なのでカ
 スタム仕様に応じられる3モデルを設定する。                 
タイプ1:サーフェスドライブを採用し省馬力で40KT以上の高級モデル      
タイプ2:日本向けカスタムボートとして通常のインボード仕様(35KT程度)   
タイプ3:中国国内向けカスタムボートとして速力は重視せず(30KT以下)室内は 
     中国の市場動向に合せた仕様にする。

主要寸法の検討

1. 全長、全幅(L/B)

プレジャーボートは全長が大きくなると一般的には細長い船型になるがFig1はキャビ
ンクルーザーの全長と全長/全幅の関係を実際に示しており示している。計画するマ
ルチクルーザーの全長12.20mとすると、グラフから全長/全幅(L/B)は約3.0とな
る。読み取ることができる。すなわち全幅は4.7mとなる。          
     全長L:12.2m の場合   全幅B:4.07m  と仮定する。
しかし、上記のグラフには比較的細身のヤマハSFシリーズが多数は入っており、他社 のコンセプトが近いマルチクルーザーでグラフを作成すると全長/全幅(L/B)は約 2.90となる。                                      全長L:12.2m の場合   全幅B: 4.21mと推定できる。 企画はマルチクルーザーなので全長L:12.2m の場合全幅B: 4.21mと決定する。
  2. 全深さの検討 コンバーチブルはライズドデッキが特徴で最大深さは船首付近となる。耐航性を重視 すれば出来るだけ大きい数値が望ましい。  グラフから読取ると             全長  L:12.2m の場合  全深さ D: 2.26mと決定する。    
3. 燃料タンク容量の検討 燃料タンク容量は搭載エンジンにより変化するがグラフは全長が12.20mで1250リッ ターを示している。企画は搭載エンジンが未定なので将来パワーアップの可能性も考 慮し1500リッターは必要と仮定する。                      
    4. 清水タンク容量の検討 清水タンク容量は生活用水の使用量となるがあまり容量を増やすと重量が増し速力が 低下することになる。そこで標準装備としてはグラフで示す平均量300リッターとす る。これ以上の必要水量は海水を真水に変える造水機を搭載する。     
     5. 完成重量、軽荷及び満載排水量 収集データの重量は水、油を搭載しない状態の完成重量と仮定し軽荷重量とは区別す る。また搭載エンジンにより実際の重量は増減する。全長12.2mの場合の完成重量は 約10,250kgと推定する。                            計画完成重量W: 10,250kg                          計画軽荷重量WE: 10,905kg(11,690kg)                           (燃料=415kg清水=100kg乗員=140kg            計画満載重量WF: 12,845kg(13,705kg)                           搭載重量:(燃料=1,245kg清水=300kg乗員=1,050kg)  ( )は別方法で検討後の数値
6. 搭載エンジンの検討(詳細検討後にサビツキー法で計算) 企画時の最高速力は軽荷状態で33KT以上、満載状態で30KT以上とする。      最高速力で必要なエンジンの出力は抵抗推定ソフト(サビツキー法)で検討する。  軽荷状態重量 11,690kg   満載状態重量 13,705kg        重心位置LCG LTx0=4.173(m)    重心位置LCG LTx0.347=4.236(m) 重心 VCG   1.317(m)      重心 VCG   1.366(m)     滑走面幅 b   3.736(m)     滑走面幅 b   3.736(m)     デッドライズ β  16.5。        デッドライズ β  16.5。         推力軸-重心 f  0.74(m)     推力軸-重心 f  0.740(m)     BL-推力軸角 ε 12.0。       BL-推力軸角 ε 12.0。         以上の状態で速力を計算すると     以上の状態で速力を計算すると     400PSx2 Ve=31.9KT         400PSx2 Ve=29.8KT      450PSx2 Ve=34.0KT         450PSx2 Ve=31.8 KT     500PSx2 Ve=35.6KT         500PSx2 Ve=33.8KT        開発終了時は企画時より重量は増加する傾向にあるので搭載する主機関は450? 500PSが望ましい。また40KT以上は600PSx2でサーフェスプロペラを採用する。 6. 船価の検討 船価は主機関や内装や装備のグレードで決まるので、必ずしも全長に比例するわけで はないが40FTコンバーチブルの平均値としては7000万円程度である。      
               
7. スケルトン図(参考)