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単語
ombusman, tungsten, Ångström, Celsius, ø, ski, sauna
発音
オンブズマン、タングステン、オングストレーム、セルシウス、エー、シー、サウナ
意味
オンブズマン、タングステン(元素)、オングストローム(単位)、摂氏、空集合、スキー、サウナ
文法
「解説」参照
解説
今回は日本語として使われている北欧語特集。
英語や普段教えているドイツ語だと、日本語として使われている言葉はたくさんあるのですが、北欧語はあまりありません。が、日常語の中で北欧語から入ってきたと知らずに使われている言葉がいくつかあります。特に関連がないので、思いつくままにあげていきます。

オンブズマン
 行政機関を監視する組織。わたしがスウェーデン語由来のカタカナ語として最初に認識した言葉でもあります。オンブズマンの制度がスウェーデンで始まり、90年代に日本にも導入されたようです。わたしがスウェーデン語の勉強を始めたのが2001年なので、当時は日本語としても新しい言葉だったのですね。
 スウェーデン語のombusmanは、もともと「代理人」「弁護士」を意味します。前置詞・副詞・接続詞omは、現在は「周囲に」「間に」「~について」「更に」「もし~なら」等の意味が辞書に載っていますが、omarbeta(作り直す)、ombyte(乗換)等の表現から、ドイツ語のumと同じく「変更」「交換」の意味もあるのかなと思います。bud(s)は「命令」で、有名どころではモーセの十戒(de tio Guds bud)。manは「人間」「人」なので、「代わりに命令する人」あたりの意味になりそうです。

タングステン
 金属の名前。元素番号74。
 tungstenは、重い(tung)石(sten)という意味で、スウェーデン語だと「トゥングステン」と読みます。「タングステン」は、tungstenの英語読みですね。ちなみに、元素記号Wはドイツ語のWolfram(ヴォルフラム)の頭文字です。

オングストローム(Å)
 長さの単位。化学の時間に分子や原子の大きさを表す単位として習いましたが、現在は「ナノメートル」等を使い、オングストロームはあまり使われていないようです。1Åは10−10m = 0.1ナノメートル(nm) = 100ピコメートル(pm)とのこと。
 物理学者アンデシュ・オングストレーム(Anders Ångström, 1814-1874)に由来。

摂氏(℃)
 ご存知温度の単位。水が液体である温度を100等分することを考えたスウェーデンの物理学者アンデシュ・セルシウス(Anders Celsius, 1701-1744)に由来します。「摂氏」は中国語表記「安德斯·攝爾修斯」の頭文字「攝(摂)」です。ちなみに、「華氏」は、物理学者ダニエル・ファーレンハイト(Daniel Fahrenheit, 1686-1736)が、計測できるもっとも低い温度(マイナス32度くらい)を0度、自分の体温を100度として考案したもので、やはり中国語表記の「丹尼尔·华伦海特」の頭文字「华(華)」に由来します。

空集合(∅)
 初めて知った時、「何もない」から空間(〇)が消してある(/)のかと思ったら、そうではなくて、ノルウェー語・デンマーク語のアルファベットØをもとに、フランスの数学者アンドレ・ヴェイユ(André Weil, 1906-1998/哲学者シモーヌ・ヴェイユの兄)が1939年に考案したと数学に詳しい人から教えてもらいました。今回調べた範囲では、なぜヴェイユがノルウェー語・デンマーク語のØを空集合の記号にしたのか分からなかったので、もしわかりましたら追記します。

スキー
 ノルウェー語のskiが、ドイツ語を介して日本語になった言葉。20世紀初頭にオーストリアの陸軍少佐テオドール・フォン・レルヒ(Theodor von Lerch, 1869-1945)が、日本の陸軍歩兵連隊にスキー指導をしたのが日本での本格的なスキーの始まりとされています。発音は不思議で、ドイツ語ではSkiと書いて、ノルウェー語読みの「シー」と発音します。しかし、日本ではドイツ語読みの「スキー」と発音。このあたり、レルヒが「スキー」と発音していたのか、それとも、英語などの読み方を導入したのか、気になるところです。
 ちなみに、ドイツ語では「行く」という意味の言葉が二つあり、英語のgoと同じ語源のgehenは「歩いていく」ときだけ使います。乗り物に乗るときはfahrenという動詞を使うのですが、この「乗り物」には、車や電車だけでなく、自転車、船、そしてスキーも含まれます。

サウナ
 フィンランド語。サウナ自体は日本にも昔からあるのですが、この言葉が定着したのは東京オリンピック以降だそうです。『やかまし村の子どもたち』には、「むし風呂」というのが出てきて、子どものころ「虫風呂」だと思っていたのですが、大人になってから「多分サウナじゃないかな」と思った次第。フィンランド語は全然できないのですが、他の北欧語と違って母音が多い印象です。
参考文献
参考URL
関連業績
・比留間直和オントロ・グスームの記憶(朝日新聞・ことばマガジン)
1990年代に新聞記事でよく見かけた「オングストローム」がその後使われなくなった顛末等について。単位の文字の組み方の話が面白いです。