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リンドグレーン15選・8
日本語版
1.大塚勇三訳『やねの上のカールソン』(リンドグレーン作品集)(岩波書店、1965)ISBN:9784001150670
2.大塚勇三訳『やねの上のカールソンとびまわる』(岩波書店、1975)ISBN:9784001150778
3.石井登志子訳『やねの上のカールソンだいかつやく』(岩波書店、2007)ISBN:9784001150926
スウェーデン語版
1.Astrid Lindgren: Lillebror och Karlsson på taket, Stockholm (Raben och Sjögren),1955(リッレブルールとやねの上のカールソン) ISBN:9789129657722
2.Astrid Lindgren: Karlsson på taket flyger igen, Stockholm (Raben och Sjögren),1962(やねの上のカールソンが再び飛ぶ) ISBN:9789129657746
3.Astrid Lindgren: Karlsson på taket smyger igen, Stockholm (Raben och Sjögren),1968(やねの上のカールソンが再びこそこそ歩く) ISBN:9789129657760
作品紹介
 前回に引き続きタイトルに「カールソン」がついていますが、内容的なつながりはありません。スウェーデンでは長くファミリーネームの習慣が普及せず、アフターネームとして「~の息子(~son)」「~の娘(~dotter)」(父称)を使っていました。この方式では兄弟姉妹でも性別が違えば呼び方が変わりますし、両親のアフターネームもそれぞれ違います。一家全員に共通するファミリーネームは、1800年代にアメリカ移民の影響で使われ始め、1901年に法制化されますが、その際に父称をファミリーネームに転用したため、「~ソン」という名字が非常に多いです。英語の「スミス」(鍛冶屋)やドイツ語の「シュナイダー」(仕立て屋)などのように職業名を使う習慣もないため、ほとんどのファミリーネームが父称由来。その中でも「カールソン」は三番目に多く、スウェーデン人の人口の約2%にあたる22万人がカールソン姓です。30人くらいしかいないわたしの直接の知り合いにも、二人カールソンがいます。その他の姓のランキングはこちら。上位16の姓がすべて「~ソン」です。
 いきなり話が脱線しましたが、この作品の主人公は、「レヨンイイェッタ」みたいにかっこよくない、どこにでもいそうな名前の小太りなおじさんです。物語は、「ストックホルムの、まったくあたりまえの町の、まったくあたりまえの家に、スヴァンテソンという、まったくあたりまえの一家がすんでいます。」という文章で始まります。あたりまえの家の、「あたりまえの」家族のなかで、なんとなく疎外感を感じている末っ子のリッレブルール(本名はスヴァンテ。リッレブルールは「弟」という意味の愛称)のところに、ある日カールソンが現れます。カールソンは、さっきも書いたようにどこにでもいそうな名前の、特にかっこよくもないおじさんなのですが、実は「あたりまえ」では全然なく、背中にプロペラがついていて空が飛べます。

 …で、ここから『カールソン』のレビューをするはずなのですが、どうも筆が進みません。わたしは小学校低学年~中学年のころ「リンドグレーン作品集」を順に読んでいったのですが、『カールソン』で止まってしまい、ちょうどそのころ、福音館の古典童話シリーズに移行したこともあって、リンドグレーン作品集の続きに行きませんでした。その後、中学校1年生の時に河合隼雄の講演会で『はるかな国の兄弟』の存在を知ってリンドグレーン熱が再燃するまで、しばらくリンドグレーンから遠ざかることになります。2002年にリンドグレーンが亡くなった時、全作品を読み返そうと思い、今度は作品集を後ろから読んでいって、止まってしまったのも『カールソン』。今回の「本の紹介」更新は、実に八ヶ月ぶりになりますが、それは遅筆のせいだけではなくて、忙しい時期と『カールソン』が重なったからでした。
 今回改めてレビューのために読もうとして、また挫折しました。だって、カールソンがリッレブルールに対してあまりにも理不尽なんだもの。大事にしていたものを壊したり、うそをついたり、お菓子やお金をとったり…。リッレブルールはどうしてカールソンが好きなんでしょうか。ピッピもうそをつくし、大人になって読むとちょっと引くところはあるのですが、それでもピッピは、トミーやアンニカに物を過剰にあげることはあっても、二人から物をとったり、壊したりすることはないんですね(ピッピと夢中になって遊ぶうちに、服が汚れてしまったりはしますが)。そんなわけで、『カールソン』についてのレビューは諦め、各種情報のみ提示することにしました。
 
 ただ、そんな相性の悪い『カールソン』を15選に入れたのは理由があります。それは、スウェーデンやドイツで人気があること。2007年8月、ストックホルムにあるリンドグレーンのテーマパーク「ユニバッケン」を訪れた時、カールソンの劇をやっていました。劇中の歌があるのですが、スウェーデンの子どもたちはみんなそれを暗記していて、一緒に歌っていました。「ユニバッケン」の中で占めるスペースも、『ピッピ』関連に次いで多く、スウェーデンでの人気の高さがうかがえました。また、2008年7月、ウップサラ留学中に知り合ったドイツ人の友達とストックホルムに行きました。一回り年上の女性です。その友達がストックホルムで絶対に行きたかったのが、「ヴルカヌス通り12番地」。リンドグレーンが結婚して最初に住んだ場所であり、『カールソン』のリッレブルール一家の住所でもあります。曰く、「わたしはリンドグレーンを子どものころに読んで、カールソンは特に大好きだったの。スウェーデンに来ることになったので、ゆかりの地を調べて、絶対ここだけは来たかったの!」そんな友達に、わたしはカールソンは嫌いですとは言い出せず、結局最後まで話を合わせたのでした。
 日本でカールソンが好きという人はあまり見かけないのですが(もっとも、カールソンに限らず、リンドグレーンの知名度が日本では低く、「ボダイジュがかなでるとき」とか「五月の夜」が好きという人にも会ったことはないのですが)、そんなカールソンの人気の秘密を分かってみたいと、15選に入れました。今回読み返してみて、イロン・ヴィークランドの絵は、おそらく『カールソン』が一番おしゃれだな、と思いました。が、人気の秘密は、やっぱり分かりませんでした。

【関連写真】
◀リンドグレーン作品のテーマパーク「ユニバッケン」(ストックホルム)を飛んでいるカールソン。



▴カールソンのお芝居。子どもたちが夢中で見ています。


▴▸ヴルカヌス通り12番地とその周辺。リンドグレーンはここに、1931年から41年まで住んでいました。
◀この建物は全体が面白い形をしています。



▴中央に見えるアーチを裏から見た図。向こう側が高くなった道路と公園につながっています。
他の翻訳・バージョン
【実写映画】
・オッレ・ヘルボム監督『世界一のカールソン』(Världens bästa Karlsson)、脚本:アストリッド・リンドグレーン、主演:ラーシュ・セーデルダール(リッレブルール)、マッツ・ヴィクストレーム(カールソン)、制作:スヴェンスク・フィルム、1974年
・キャストなどの英語版情報はIMD
・日本語でのDVD販売は現時点ではなさそうです。
・映画の主題歌「世界一のカールソン」(Världens bästa Karlsson)は、とてもいい歌で、かつ覚えやすいです。みんなで歌いやすい歌がある、というのがスウェーデンでの人気の秘訣かも。
関連書籍
提案なし
出版社HP
日本語版 岩波書店
1.『やねの上のカールソン』http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/0/1150670.html
2.『やねの上のカールソンとびまわる』
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/8/1150770.html
3.『やねの上のカールソンだいかつやく』
書誌情報:http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/1/1150920.html
編集部による紹介:http://www.iwanami.co.jp/hensyu/jidou/j0707/115092.html

スウェーデン語版 ラーベン・オ・シェーグレン社
1.Lillebror och Karlsson på taket http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/Host/lindgren_astrid-lillebror_och_karlsson_pa_taket-kartonnage/
2.Karlsson på taket flyger igen http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/2/lindgren_astrid-karlsson_pa_taket_flyger_igen-kartonnage/
3.Karlsson på taket smyger igen http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/2/lindgren_astrid-karlsson_pa_taket_smyger_igen-kartonnage/