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日本語版
大塚勇三訳『親指こぞうニルス・カールソン』(岩波書店、1974) ISBN:9784001150766
スウェーデン語版
Astrid Lindgren: Nils Karlsson-Pyssling, Stockholm (Raben och Sjögren),1949(小人ニルス・カールソン) ISBN: 9789129657661
作品紹介
 1949年刊行。日常の中にたちあらわれる不思議な時間を描いた9作品が収録された短編集で、普通の子どもの普通の生活を扱っているだけに、幼少期に最もわくわくした本の一つでした。「五月の夜」はすでにご紹介したので、ここではそれ以外の作品を好きな順番にご紹介します。

「だいすきなおねえさま」
 子どものころは怖くて好きではなかったけど、読み返すたびに好きになっていく作品。7歳の少女バルブロが「ほかだれにもおしえなかった、わたしの秘密」を語ります。バルブロには、生まれてすぐに「ぽんぽんかけてって、畑のずっとむこうにある、大きなバラのしげみのかげに隠れ」た双子の妹イルヴァ=リーがいます。両親と生まれたばかりの弟との暮らしの中でなんとなく疎外感を味わっているバルブロは、毎日のように、「サリコンのばらのしげみ」の穴から、地下で暮らすお妃のイルヴァ=リーに会いに行きます。バルブロのことを名前ではなく「だいすきなおねえさま」と呼ぶ妹は、父が母を、母が弟を好きなのに対して、「わたしだけがすき」で、その世界にはバルブロが地上世界で欲しがっていた犬がいます。バルブロはそこでウサギの世話をし、イルヴァ=リーと一緒に馬に乗って遠出をします。
 原題はAllrakäraste Syster。「愛すべき」という意味の形容詞の最上級kärastに、最上級を強調する「すべての」allraがついています。ちなみに、systerは英語のsisterと同じく姉と妹両方の可能性があります。

「親指こぞうニルス・カールソン」
 両親が共働きの未就学児ベルティルは、日中いつもひとりぼっちで退屈しています(という設定から、1949年当時のスウェーデンの福祉の状況が何となく分かります)。ある日ベッドの下からニルス・カールソン(通称ニッセ)という小人が出てきます。ベッドの下の古釘に触って「キレビッペン」と唱えると、自分も小人になってニッセと遊べることが分かったベルティルは、食べるものも、家具もないニッセに、台所の残り物や、亡くなった姉の人形の家具や服をニッセにあげ、退屈な日々は一転、楽しくなります。
 初めて読んだ小学生のころ、古釘に触って「キレビッペン」は自分でもやってみました。残念ながらわたしは小人にはなれませんでしたが、それほどにリアリティのある作品。両親がそのままにしていた姉の遺品を小人にあげる場面は、昔も今もうーん、と思います。

「ペーテルとペトラ」
 グスタフ・ヴァーサ小学校の1年生のクラスに、ペーテルとペトラという双子の小人がやってきます。ドアの一番近くにいて、ドアを開けてあげた少年グンナルは二人と仲良くなり、ある日、ヴァーサ公園にある二人の家を見つけます。小学校の先生がいい人で、小人サイズの机といす、洋服かけを特注するところが何だかうらやましかったです。
 舞台となったグスタフ・ヴァーサ小学校とヴァーサ公園は実在し、リンドグレーンが住んでいた家のすぐそばにあります。

「おもしろカッコウ」
 グンナルとグニッラは、病気で4週間も寝ていますが、その病気はひどくなく、元気に騒いではお母さんの手を煩わせます(1か月以上寝ていなくてはならないのに自覚症状は全くない病気って何でしょう?)。「おかあさん、いま、なん時?」に耐えられなくなかった両親は、二人にカッコウ時計をプレゼントします。「こういうカッコウ時計はスイスでできるのさ」というお父さんの台詞で「スイス=カッコウ時計」という図式が強烈にできあがり、初めてスイスに行った時に何はさておきカッコウ時計を買うきっかけとなった作品。ちなみに、わたしがスイスで購入したカッコウ時計は、20年たった今も研究室で元気に時を知らせています。
 カッコウがちょっと毒舌ですが、ちゃんと目と耳を向けていれば「春の夕べに、妖精たちがヒュムレ公園でダンスしてるのも見られるし、こんなクリスマス前には、旧市街にある仕事場で、小人たちが働いている音もきこえる」が印象的。

「ミラベル」
 「おもしろカッコウ」とどっちが好きかかなり悩んだ作品。コンセプトがよく似ています。田舎の一軒家に住む少女ブリッタ=カイサは、一人で留守番をしているとき、門を開けてあげたおじいさんからお駄賃に種をもらいます。その種を植えてみたら、ずっと欲しかったお人形がはえてきて、しかもそのお人形ミラベルは生きていた…というお話。ミラベルがいる日々が終わらない=ハッピーエンドがすばらしく、展開もドキドキさせるものです。

「うすあかりの国」
 『ミオよ、わたしのミオ』や『はるかな国の兄弟』につながっていく重要な作品。足が悪く寝たきりの「ぼく」ヨーランは、昼の間中ベッドに寝て、「本を読むか、絵をかくか、組み立ておもちゃを組み立てたりしています」(という描写からも、1949年当時のスウェーデンの福祉のあり方が垣間見えます)。夕方になり、部屋をうすあかりのままにしておくと、空を飛ぶ小さな紳士リリョンクヴァストさんがやってきて、「ぼく」を「うすあかりの国」に連れて行ってくれます。そこには、美味しいお菓子があり、電車やバスを運転することができ、今はもうこの世にいない昔の人が暮らしています。
 学校で「ぼく」に親切にしてくれた女の子が「もうながいこと、うすあかりの国にきている」場面が印象に残ります。人名も地名も具体的に書かれる同作で、この子だけ固有名詞も呼称もありません。

「遊びたがらないお姫さま」
 豪華なおもちゃをたくさん持っているのに、遊びたがらない、遊び方を知らないお姫様リーセロッタのところに、ある時貧しい少女マーヤが迷い込んできます。ろくろで引いて顔もクレヨンで描いたみすぼらしいお人形ピュッタンをすっかり気に入ったリーセロッタは、初めて遊びの楽しさを知ります。
 昔は結構好きだったのですが、読み返すたびリーセロッタが持っていた高級な人形人形の扱いにいたたまれなくなる作品ということで、この順位に。

「森のなかに、どろぼうはいない」
 少年ペーテルは、お母さんが子どものころ使っていた人形ミンミの家に入り込み、森の中に住む40人の泥棒のボス・フィオリートと戦います。ミンミが性格悪すぎ、身勝手すぎで、作品集の中で昔も今も好きじゃない唯一の作品。

つまらない毎日(さびしかったり、退屈だったり)を送っている子どもの心踊る瞬間をとらえた作品群ですね。一緒に遊べる子どもが近くにいないという設定のためか、一人っ子率が高いです。ことで第1回でご紹介した「五月の夜」は、主人公がもともと幸せという点でちょっと浮いています。9作品すべて並べて気が付いたのは、スウェーデンには名前のヴァリエーションが少ないのに、グンナル以外一人も名前がかぶっていないことでした。順位はかなり甲乙つけがたく、ランキング形式にはしない方がよかったかも。基本的に長篇が好きなわたしですが、その中で珍しく何度も読んでいる短編です。

【関連写真】ストックホルムのテグネル公園にあるリンドグレーン像は、この短編のいくつかをモチーフにしています。
◀テグネル公園のリンドグレーン像。向かって右にヨーランとリリョンクヴァストさん、左にペーテルとペトラ。



▴テグネル公園にひっそりとたたずむリンドグレーン像。ちなみに、ここは『はるかな国の兄弟』の関連書籍として紹介した『ミオよ、わたしのミオ』のボッセがはるかな国に向かった場所でもあります。

▴肩に『うすあかりの国』の引用。「リリョンクヴァストさんは、«うすあかりの民»のひとりで、«うすあかりの国»にすんでいます。この国は、また、«ないない国»ともよばれています。」下の方に、銅像製作者Majalisa Alexandersonの署名があります。

▴このあたりは『だいすきなおねえさま』特集です。馬の上の引用は「早くかえってきてね、だいすきなおねえさま。」一番下にはバルブロがイルヴァ=リーの名前を繰り返す場面が再現され、「イルヴァ=リーは、サリコンのバラの下に住んでいる」と書かれています。

◮テグネル公園、ヴァーサ公園とグスタフ・ヴァーサ小学校は、リンドグレーンの家から半径300mくらいの距離にあります。
他の翻訳・バージョン
【絵本】 短編のいくつかが絵本として刊行されています。
『ペーテルとペトラ』
・大塚勇三訳『ペーテルとペトラ』(クリスティーナ・ディーグマン絵、岩波書店、2007)
『ミラベル』
・山室静訳『おにんぎょうのミラベル』(くろだただきみ絵、文研出版、1979)
・武井典子訳『ふしぎなおにんぎょうミラベル』(ピア・リンデンバウム絵、偕成社、2005)
『うすあかりの国』
・石井登志子訳『夕あかりの国』(マリット・テルンクヴィスト絵、徳間書店、1999)

【映画】
『親指こぞうニルス・カールソン』(アスミック・エース、1994、日本語吹き替え版・VHS):監督:スタファン・ゲスタム、出演:オスカー・レフクビスト、ヨナタン・リンドフ、脚本:スタファン・ゲスタム、公開:1990年
『リンドグレーン作品集Vol.3 ペーテルとペトラ』(ビデオメーカー、2005):監督:アニエッタ・エレース・ヤールマン、出演:ジョシュア・ペットソンク、カーレ・ソーレン、エバ・ソーヤ・ベルグレン、公開:1989
関連書籍
今回は紹介する作品数が多かったので、ここは空欄で。
出版社HP
日本語版 岩波書店
・ハードカバーhttp://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/X/1150760.html
スウェーデン語版 ラーベン・オ・シェーグレン社
http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/Host/lindgren_astrid-nils_karlsson-pyssling-kartonnage/