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リンドグレーン15選・3
日本語版
1.大塚勇三訳『やかまし村の子どもたち』(岩波書店、1965) ISBN:9784001150646
2.大塚勇三訳『やかまし村の春・夏・秋・冬』(岩波書店、1965) ISBN:9784001150654
3.大塚勇三訳『やかまし村はいつもにぎやか』(岩波書店、1965) ISBN:9784001150662
上記「リンドグレーン作品集」のシリーズは現在品切れですが、岩波少年文庫版が入手可能です。
スウェーデン語版
1.Astrid Lindgren: Alla vi barn i Bullerbyn, Stockholm (Raben och Sjögren),1947(わたしたちみんなやかまし村の子ども) ISBN: 9789129657548
2.Astrid Lindgren: Mera om oss barn i Bullerbyn, Stockholm (Raben och Sjögren),1949(やかまし村のわたしたち子どもについてもっとたくさん) ISBN:9789129657562
3.Astrid Lindgren: Bara roligt i Bullerbyn, Stockholm (Raben och Sjögren),1952(やかまし村はただただ楽しい) ISBN:9789129657586
作品紹介
 初めてリンドグレーンを読む方にお勧めの作品。『長くつしたのピッピ』は、わたしは好きなのですが、かなりインモラルでもあり、好き嫌いが分かれます。大人になって読むとちょっと引いてしまう描写も正直あります。『やかまし村』シリーズは、まったく毛色が違うので『ピッピ』でリンドグレーンを敬遠してしまった方にもぜひ読んでほしいです。
 1907年生まれの作者の幼少期をもとに書かれたこの作品の舞台は、家が3軒しかない「やかまし村」。「中屋敷」には主人公のリーサと兄のラッセとボッセ、隣の「北屋敷」にはブリッタとアンナの姉妹、もう片方の隣の「南屋敷」には、オッレという少年と年の離れた妹のケルスティン(『やかまし村の春・夏・秋・冬』で誕生)が住んでいます。それぞれの両親は健在ですが、祖父母世代はブリッタとアンナの父方の祖父のみ、その他、それぞれの屋敷に作男と女中がいます。同じく自分自身(と親友)の幼少期をモデルにした作品として、マディケンとリサベットの姉妹を描いた『川のほとりのおもしろ荘』『おもしろ荘の子どもたち』があります。
 『やかまし村』シリーズは、『ピッピ』の次、小学校2年の時に読みました。やかまし村の子どもたちは、かなり遠い隣村の学校に通っていて、その間も6人でおしゃべりしたり、いろいろな遊びをしたりします。わたしも通学時間が長かったので、頭の中でやかまし村の子どもたちと会話をしながら通学路の坂を上ったのを覚えています。『ピッピ』が日常を変えてくれる可能性を信じさせてくれる作品であったのに対して、『やかまし村』は、楽しい学校・仲の良い友だちというものは、自分の周囲にはなくても世界のどこかにはあることを信じさせてくれる作品であり、その意味でやはり救いであったように思います。
 『やかまし村』シリーズの優れた点は、子どもたちの個性が非常に豊かなことです。「優等生」とか「見栄っ張り」とか「ガキ大将」といったようにステレオタイプ化できる人物は一人もいず、ブリッタは本を読むのが好きで頭も良かったり、アンナはお芝居のようにものを言ったり、ボッセはぼんやりしているけどとても親切だったりという性格が、ちょっとしたセリフやしぐさから伝わってきます。だから彼らは、幼少期の「わたしの友だち」にもなれるわけですね。色々な本を読みましたが、人物と会話できた本は『やかまし村』だけ。『ピッピ』の人物はある意味ステレオタイプ的なので、『やかまし村』シリーズは、『ピッピ』のようなインパクトにこそ欠けるものの、極めてレベルの高い文学作品でもあります。
 『やかまし村』シリーズは、楽しい毎日の暮らしを書いた作品です。『ピッピ』のように明確な始まりと終わりはありませんが、注意深く読むとそこかしこに「終わり」のにおいがちりばめられています。目が見えない80歳のおじいさんがやかまし村を去る時が近いのはなんとなく予想ができますし、女の子三人は、みんなでやかまし村に住み続けられるように、男の子三人と結婚する計画を立てているのですが、おそらくそうはならず、学校を終えたら、子どもたちは離散することになるでしょう。この作品に書かれているのは、「ずっと続く日常」ではなく、「ずっと続くようで、しかし確実に終わる日常」です。その意味で、物語が、主人公リーサが自分の部屋を手に入れる話であることは印象的です。それまで兄弟と相部屋だったリーサは、7歳の誕生日に自分の部屋をプレゼントされます。それは、北屋敷のブリッタとアンナの部屋の向かいにあたります。家族・きょうだいから離れて「女の子コミュニティ」を作るところで始まる『やかまし村』は、リーサが小さい村のコミュニティにいる最後の時期を描いた作品でもあります。
 リンドグレーンの作品の多くは、スウェーデンで実写映画化されています。『やかまし村』シリーズは、現在ハリウッドで活躍するラッセ・ハルストレーム監督(『ギルバート・グレイプ』『ショコラ』『Hachi 約束の犬』など)がスウェーデン時代に監督をしていて、1986年の映画ですが、映像や音楽のおしゃれさがリンドグレーン映画の中でも群を抜いています。子どもたちも原作の挿絵とそっくりで、特にラッセは、「どこで本物のラッセを見つけて来たの?」というくらいぴったり。話の順番が原作とは違っていて、第1作『やかまし村の子どもたち』は夏休みの話、第2作『やかまし村の春・夏・秋・冬』は、秋・冬・春のお話(つまりほとんど冬)です。(※順番が変わっているため、映画と小説は同じタイトルでも違う話が入っている場合があります)
 農村の日常を描くというのは、マリー・ハムスンなどにより、北欧文学史では多くなされていることなので、リンドグレーンを研究するとしたらこのあたりから始めようかなと思っています。アウトサイダーを研究してきた観点からは、唯一の悪人である靴屋のスネルさんの人物分析がしてみたいです。

【関連写真】

▴リンドグレーン作品のテーマパーク「ユニバッケン」(6月の丘)は、「おもしろ荘」シリーズの舞台となった丘の名前。マディケンは看板娘です。
他の翻訳・バージョン
【絵本】
・山内清子訳『やかましむらのこどものひ』(偕成社、1983)
三部作には入っていない、ケルスティン(こちらの訳ではシャスティン)を中心にしたお話です。

【映画】
「やかまし村ギフトボックス」(角川書店、2013)
映画『やかまし村の子どもたち』、映画『やかまし村の春・夏・秋・冬』、ドラマ『リンドグレーンのクリスマス』が収録されています。
関連書籍
・アストリッド・リンドグレーン『おもしろ荘の子どもたち』石井登志子訳、岩波少年文庫、2010
・アストリッド・リンドグレーン『川のほとりのおもしろ荘』石井登志子訳、岩波少年文庫、2011
全体としては面白いのですが、マディケンの口癖「ざまあみろ」がものすごく嫌で実は2回くらいしか読んでいません。原作も読んでいないですし、その口癖でお母さんに注意されたりしているので、もともときれいな言葉ではないのでしょうが、もう少しどうにかした訳はなかったのかな。

・マリー・ハムズン『小さい牛追い』(改版)石井桃子訳、岩波少年文庫、2005
・マリー・ハムズン『牛追いの冬』(改版)石井桃子訳、岩波少年文庫、2005
出版社HP
日本語版 岩波書店
1.https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/6/1150640.html
2.https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/4/1150650.html
3.https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/2/1150660.html
スウェーデン語版 ラーベン・オ・シェーグレン社
1.http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/Host/lindgren_astrid-alla_vi_barn_i_bullerbyn-kartonnage/
2.http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/2/lindgren_astrid-mera_om_oss_barn_i_bullerbyn-kartonnage/
3.http://www.rabensjogren.se/bocker/Utgiven/2003/2/lindgren_astrid-bara_roligt_i_bullerbyn-kartonnage/