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長谷川1/700 航空母艦瑞鳳について
1999/07/12 本文記述

 空母瑞鳳は同型艦の祥鳳と共に剣崎型給油艦(潜水母艦)を改造して作られた軽空母でした。他の軽空母がほとんど実戦に参加できなかったのに対し、この瑞鳳は南太平洋・マリアナの大海戦に参加し、最後は比島沖海戦の囮艦隊の一員として米艦載機の空襲で果てました。
 戦歴は正規空母に引け劣るものではなく、しかも比島沖海戦で米軍が撮影した空中写真があまりにも有名なため、瑞鳳のキット化は以前から模型愛好者の中でも要望が強かったものの一つですが、ピットロードのレジンキット以外になく、これがインジェクション・キットとしては初めてのものになります。

 長谷川は旧フジミ製品のリメイクで金剛型戦艦4隻を担当した以外に、新規に発売したのは樅/若竹の二等駆逐艦のみ、あとは既製品に船底やエッチングパーツ・波の飾り台などを付加したものや上海ドラゴン製品の輸入代理店を務めるのみで、艦船キットの新規開発にはあまり積極的な姿勢は見られませんでした。今回の空母瑞鳳の発売に関しては要望が多かっただけに嬉しい事でしたが、いざキットを開いてみると空母の模型化に関する基本的な考え方は1974年の加賀からほとんど変わっていないように見えます。それをどう捉えるかが、このキットを作る上でのポイントになってくるのではないか、そんな気がします。

 まずは例によって評価表から。

項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍航空母艦 
名  称 瑞鳳
メーカー 長谷川
スケール 1/700
マーキング 艦底板のネームプレート、飛行甲板白線、着艦標識、対空識別標識、
甲板迷彩の一部、艦載機の日の丸、軍艦旗
モールド ★★★ 全体的に甘い上に省略や表現方法にも疑問があります。
スタイル ★★★★ 祥鳳型軽空母の特徴は出ているようです。
難 易 度 ★★ ただし、田宮の信濃と並べようと考えたら星4つ。
おすすめ度 ★★★ 決して悪い内容という訳ではないのですが…
コメント 空母の模型化に対する考え方は赤城/加賀の昔から変わっていません。
製作はそれを前提に置いた上で取り掛かる必要がありそうです。

 キットの状態は1944年10月最終時となっています。
 部品割は以下の通り。

・A部品 船体
・B部品 錨甲板〜羅針艦橋(一体部品)、飛行甲板後半部、煙突、艦尾側高角砲台座、
     21号電探、メインマスト、格納庫後端の舷外通路、ほか
・C部品 艦底板
・F部品(2枚) 無線アンテナ、艦首側高角砲台座&サポート基部、甲板の支柱、
         シールド付き3連装機銃、ほか
・W部品(2枚) WL大型艦用ディテールアップパーツに同じ
 以上瑞鳳/祥鳳共通?

・E部品 飛行甲板前半部、艦尾・舷側増設機銃座
・G部品(2枚) 噴進砲座〜噴進砲(一体)、艦首増設機銃座、飛行甲板延長分支柱
・Y部品 後期型艦載機5種類
 以上 瑞鳳のみ


 瑞鳳は1943年に新型の艦載機を搭載するため艦首側の飛行甲板を約15m延長しており、これが1942年に沈んだ祥鳳との大きな相違点の一つになっています。キットは飛行甲板を前部エレベーターの直後で2分割し、前側の甲板を差し替えることで対応しているようで、そのため1943年以前の姿を作る場合は祥鳳のキットを使う必要がありそうです。

「空母の模型化に対する考え方が加賀から変わっていない」と書きました。つまり先に発売された田宮の信濃や青島の長門が、最近の愛好者の意向をある程度汲み取った形−可能な限り細部を再現する方向で模型化されたのに対し、この長谷川の瑞鳳は機銃台や舷外通路の多くを船体と一体化し、部品数を抑えています。モールドは飛行甲板以外あまり無く、細部のキレも今一つで、樅/若竹型二等駆逐艦で見せた鋭さは影も形もありません。つまり1999年の「新しさ」をこのキットから感じることはできなかったというのが、キットの箱を開いての率直な印象でした。

 もっとも予算や採算見通しの関係で細部にあまり力が入れられず、全体型を考えられている形に留めるのが精一杯だったのかもしれません。キットの内容はそれほど詳しく見ていませんが、祥鳳型軽空母の特徴は出ているようです。模型化の事情は私には伺い知れないことですが、それでも最終時の瑞鳳には迷彩や舷外電路があり、舷窓も少なくとも水線付近のものは閉鎖されていたと考えられている事を思うと、機銃台や張り出しが別部品化されていた方が製作は容易ではないかと考えます。

 それと、もう一つの問題点は飛行甲板の白線がデカールで用意されているにもかかわらず凸モールドで彫られている事で、前部エレベーター直前の波線が深い凹モールドになっている事と合わせて、甲板のモールドを全て掘り直さない限り完全に修正する事ができません。飛行甲板の白線は作戦時期によってマーキングが異なるもので、大戦中の日本空母にどのような線が引かれていたかは断片的な情報しか無いのが実情ですが、だからといってこのような木甲板のモールドの上から白線の凸モールドまで施してしまったら、特定の時期のマーキングしか再現できなくなります。つまり国籍マークを凸モールドで入れていた1960年代の航空機モデルの感覚で、それを長谷川というメーカーが未だに行っているのはどうにも理解できないものがあります。

 厳しい文章になってしまいましたが、それでもレジンキットよりは作りやすいものである事に変わりはありませんし、モールドの問題は飛行甲板を除けば−赤城/加賀と同じように−資料と解釈次第で解決可能なものです。それだけに、取り掛かる前に充分な準備と検討が必要だと思います。


 秋に発売予定の空母祥鳳がまだ残っていますが、これで昨年末〜今年に掛けて発表されたWLの新製品は一通り出た事になります。キットに対する専門的な検討や問題提起は、これから発売される模型雑誌上で詳しく述べられる事と思いますが、特にこの瑞鳳に関しては各模型雑誌のスタンスやライターの力量が問われる場になるのではないかと、そう感じます。特にインターネット上で愛好者同士がリアルタイムでの情報交換が盛んになりつつある1999年の現在、それが更に盛んになる事はあっても減ることは考えられないだけに、雑誌メディアだけが情報を操作できる時代はもう終わりになりつつあるのではないかと思うのです。だから、読者からお金と引き替えに情報を買って頂いているにもかかわらず「問題点が指摘できない」「メーカーに不都合な事は書けない」ライターや模型雑誌は、最後には読者から見捨てられてしまうのではないかと、そんな気がします。その意味でも、今度の模型誌の記事は興味深く待っている所です。

1999/08/16 記