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ピットロード1/700 重巡洋艦高雄について
 2001年1月22日 本文記述

 高雄型は先に建造された妙高の改良型として、日本海軍が建造した2形式目の条約型巡洋艦でした。船体に比して巨大な艦橋が最大の特徴で、先の大戦では妙高型と共に常に最前線に立って活動しました。同型艦のうち3隻は1944年の比島沖海戦で戦没し、高雄のみが中破状態で終戦を迎えました。

 巨大な艦橋と精悍なスタイルから、高雄型重巡は戦前より国民に親しまれた軍艦の一つでした。模型の世界でも過去多くのメーカーからキットが発売されましたが、内容的に古過ぎる日模は論外とすれば、2000年末現在では青島の1/700WLが入手容易な唯一のスケールモデルでした。これは基本形はしっかりしたものでしたが、シェルター甲板付近の表現に修正不可能な問題があり、またモールドも無いに等しいものでした。加えて同型艦の鳥海は大改装工事を受けないまま戦没したためにシルエットが他の3艦とは大きく異なるのですが、キットは船体を共通化したために全くの「仮想艦」になってしまっていました。そのため早くからリニューアルが求められていたキットの一つでしたが、ピットロードが発売をアナウンスして以来、大きな期待が愛好者から寄せられていました。しかし、ようやく発売になったキットの内容は、残念ながら多くの部分で不満が残りました。

 前口上が長くなりました。まずは評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍重巡洋艦
名  称 高雄
メーカー ピットロード
スケール 1/700
マーキング 艦名、日章旗、軍艦旗、艦名(以上軽巡大井用デカール流用)
艦載機用各種マーキング(装備セットIII用デカール流用)
モールド ★★★★ 主砲塔を始め一部モールドが過剰気味に感じます。
スタイル ★★★ 艦橋回り、シェルター甲板、船体バルジ、ほか。
難 易 度 ★★★ ただし、全ての問題点の修正は困難です。
おすすめ度 ★★★ 価格と内容のバランスをどう考えるか、ですが…
コメント 価格が高い割に問題点が多い。全部品新規開発の効果も疑問です。

 キットは1942年の第一段作戦後の状態を示していますが、武装パーツの中に単装高角砲も必要分入っているため、これを交換する事によって大改装後の状態(1939-42年)も再現することができます。部品割は以下の通り。

・A部品 船体(右舷、左舷)
・B部品 上甲板(艦首、艦尾)、煙突、2〜4番主砲ターレット、ほか
・C部品 シェルター甲板、航空機甲板、煙突部機銃台、後部マスト、ほか
・D部品 艦橋構造物一式、前部マスト
・E部品(2枚)主砲、魚雷発射管、高角砲、ほか(日本海軍装備セットVIに同じ)
・F部品(2枚)艦載機、機銃、艦載艇、ほか(日本海軍装備セットVIIに同じ)

 青島のキットはモールドが皆無に等しい、と書きました。ピットロードのこのキットはモールド面では大きく改善されています。ところが、船体のバルジの形状、シェルター甲板の張り出し部分の形状と魚雷発射管開口部のバランス、艦橋のアウトラインの捉え方、1番煙突基部の大型吸気口の形状、煙突機銃台後部の探照灯台の形状、後部艦橋の形状と、肝心の主要構造物の多くで基本的な形状や表現に関する問題点が目立ちます。しかも、その幾つかは青島のキットでは正確に表現されていたものです。

 個人的に最も残念だったのは、青島の最大の問題点であったシェルター甲板の張り出し部分の表現不足と魚雷発射管開口部のバランスの悪さが、このキットでも完全にクリアされていない事でした。実艦写真をお持ちの方は比較していただければ理解できると思いますが、船体と甲板の張り出しの境界線がはっきりせず、特に艦橋基部付近と魚雷発射管開口部より後ろ側の張り出しは、上側面図から無理矢理ラインをつないだような形になっています。加えて開口部の下側に実艦には無い凸モールドのラインが入っているためにいっそう曖昧な印象を与えているようです。これは張り出しの下側を削り込めばある程度修正する事はできますが、完全なクリアは難しいようです。

 その他の問題点に関しては、恐らく模型雑誌で修正点が取り上げられると思いますし、私自身あまり述べたくはありません。ただ、このキットに関してはキットの内容を鵜呑みにするのではなく、個々の部品に関して仮組みしながら資料と突き合わせて慎重に考える必要があると思います。

船体形状の比較
上:ピットロード「高雄」
下:長谷川製作所「妙高」

艦前半部のみの比較ですが、
艦首やバルジの形状の違いに注意。
また本文では述べていませんが、
高雄のアンカーレセス(錨収納部)は位置も形状も異なるので
気になる方は埋めた上で削り直す必要があります。

なお、実艦では妙高型と高雄型の船体形状は同一です。

 このキットの価格は 3,200円です。ほぼ同時に発売された長谷川の妙高型がほとんど2隻買えてしまいます。しかしながら、内容は2倍どころか、「外形の正確な表現」という、最も肝心な部分で大きく遅れを取ってしまいました。確かに装備品のモールドは素晴らしいものです。しかし、いくらモールドが良くても、外形を捉えきれず、他社の倍近い価格では、買って作るにはかなり辛いものがあります。極論すれば、装備品はエッチングパーツや別売のパーツセットなどで良いと感じたものと取り替える事ができます。しかし、船体や艦橋の外形の表現不足は、不満があっても他と取り替えることはできないのです。

 それと、今回の高雄型では全ての部品が新規開発となりました。そのうち装備品関係のE、Fパーツは別売にもなりましたが、私自身はこの開発方法にも疑問があります。多少の形状の違いには目をつぶってでも既存のパーツセットIで流用可能なものは全て流用させて、残った部品だけを新規開発するような開発の合理化は考えられなかったのだろうかと。その余力で船体や主要構造物の考証と外形のより正確な仕上げに回した方が、トータルで見た場合もう少し良い内容になって価格も下げられたのではないかと思うのです。

 その装備品に関しても、艦載機と艦載艇や機銃をまとめたF部品はまだ応用が利きますが、主砲や魚雷発射管をまとめたE部品に関しては、測距儀や魚雷発射管の形式の違いなどから、高雄型以外にはほとんど応用が利かないものです。ピットロードが次にどの方向に動くかはわかりませんが、仮に古鷹・青葉型、最上型、利根型とどの重巡を作る事になっても、装備品の新規開発は必要になり、価格は上がり、中途半端なパーツセットが増える事になります。これではあまりにも不合理です。

 これは仮定の問題になりますが、青島が長谷川の妙高と同じ設計思想で、もし装備品を共通パーツにまかせて外形の考証と捉え方に重点を置いたリニューアルキットを 1,800円で発売するような事になれば、この価格と内容ではとても競争できないと危惧しています。その可能性を考えた場合、キットの開発に当たっては細部に凝ったりランナーユニットの数を宣伝する以前に、もっと力を入れるべき部分があったように思います。
2001年1月22日 記