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青島1/700新版 重巡洋艦高雄/愛宕について
2001/08/12 本文記述
2003/03/15 一部補足

 前作の高雄型重巡は青島が送り出した最初のWLキットでした。シェルター甲板の高さと魚雷発射管開口部のバランスが悪く、張り出しの形もはっきりしないという致命的な問題はありましたが、完全な架空艦であった鳥海を除けばアウトラインは良くまとめられていました。ただ、全体的にエッジのキレが甘かった上に、モールドや細部の表現も1970年代初期の感覚をもっても省略と甘さが否めず、よって「精密そうに見えない=出来が良くない」という誤解を多くの愛好者に強く植え付けてしまったように記憶しています。

 それから長い歳月が流れました。前作の金型は疲弊し、新版の発売が告知され、キットが手元に届きました。新版の長門型戦艦の感想でも書いたように、昔の青島はもうどこにもありません。高雄型重巡は既にピットロードからも発売されていますが、価格はもちろん内容的にも考証的にも多くの部分でそれを上回る、素晴らしい内容に仕上がっていました。
 まずは評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍重巡洋艦
名  称 高雄(愛宕)
メーカー 青島
スケール 1/700
マーキング なし(軍艦旗はステッカー)
モールド ★★★★ 全体的に良好。装備品の換装は作る人次第で。
スタイル ★★★★★ 細部に若干の問題はありますが、精悍な特徴は出ています
難 易 度 ★★ 非常に組み易いキットだと思います。説明書には要注意。
おすすめ度 ★★★★★ モールドもスタイルも水準を満たしています。
コメント 購入者の「層」が従来のキットより明確になっていないように感じます。
内容の高さに全く見合っていないお粗末な組立説明書がその「象徴」で、
製作する愛好者の側に立ったデザインや内容を強く希望します。

 部品割は以下の通り。
・船体
・部品No.1-2,4-15
 艦底板、艦首楼最上甲板、後部艦橋上部、1番煙突、ほか
・部品No16-36
 後部マスト、艦橋前面、主砲塔、魚雷発射管、2番煙突、
 単装高角砲、21号電探、ほか



・W部品(2枚)WL大型艦用ディテールアップパーツに同じ
・主砲旋回用ポリキャップ
・バラスト


 高雄は1944年秋の比島沖海戦当時、愛宕は1942年秋の第三次ソロモン海戦当時と外箱に明記されていますが、内容の違いは機銃や電探、防空指揮所の有無に留まっているため、両艦共に大戦初期の状態を設定する場合は愛宕、末期の設定であれば高雄のキットをベースにすると良いと思います。

 キットは装備品を共通のW部品に任せて、外形の再現と考証に重点を置いた内容に仕上がっていました。船体は伝統的な一体成形ですが、スライド金型の使用によって舷側の彫刻も細かく再現されています。シェルター甲板の張り出しの形状と魚雷発射管開口部のバランス、艦橋のアウトラインの捉え方、1番煙突基部の大型吸気口の形状、後部艦橋の形状など、先に発売されたピットロードの高雄型で問題になった部分の大半が、より正確な形で再現されています。各種装備品の精度や航空機作業甲板のモールドなど、ピットロードのキットが上回っている部分もありますが、価格面を考慮に入れれば、全体的には高雄型重巡の決定版と言える内容に仕上がっていると思います。

 考証に重点が置かれている、と書きましたが、細かい部分では幾つか気になる部分があります。まず、艦首側の1番主砲は測距儀付きのタイプが指示されていますが、波浪の影響で砲側照準が困難であったために、同型艦4隻のうち高雄と愛宕は開戦後にこの測距儀を取り外し、主砲塔からはみ出す部分をカットしていました。このため、高雄/愛宕共に最も艦首側に付く砲は測距儀の部品No.16の砲塔からはみ出る部分をカットする必要があります(ヤヌス・シコルスキー氏の図面では1944年秋の高雄は測距儀のカバーそのものを撤去したように描かれていますが、戦後に撮影された写真では残っているように見えます)。
 また、船体中央部の魚雷搬入口(3つある細長い開口部の真ん中の部分)の内側にパラベーンのモールドがありますが、実艦ではここには予備の魚雷が搭載されていたようです。開口しない限り目立ちませんが、こだわる方はモールドを削りランナー等で予備魚雷を作って付けるとらしくなると思います。
 それと、煙突の蒸気捨管の形は高雄のもの(ただし、厳密には最も後方の管は煙突先端からH型の排出管が突き出ていました)で、他の艦の場合は一部削ったり位置を変えたりする作業が必要になります。また、舷窓の配列も艦や時期によって多少の違いがあるようで、最終時を設定した場合は下段の全部と上段の一部を埋める必要があります。あと舷外電路のモールドも無いので、伸ばしランナー等で追加する必要があります。他にも気になる部分はありますが、シルエットを大きく損ねるものは無いようで、いずれも省略の範囲内であったり、また容易に修正が可能だろうと思います。資料がある方はピットロードの部品と交換したりエッチングなど丹念に手を加えてゆけば、素晴らしい仕上がりが期待できるはずです。



外箱の仕様
旧版よりも若干幅が長くかつ深い箱になっており、
また側面の艦名表記が倍近い大きさになっているため
それで旧版と見分ける事ができます。

 キットを見て個人的に興味深かったのは、魚雷発射管室の側壁がカタパルト支柱まで続いている事でした。両艦共に1939年の大改装直後は側壁と支柱の間に空間が有った事は多くの写真で明白ですが、少なくとも愛宕に関しては1942年の写真、摩耶も1944年の写真でこの部分が閉鎖されている事が判っています。高雄に関してははっきり判りませんが、終戦後の写真では開いたままのように見えます。もし船体が高雄/愛宕/摩耶で共通ならば、開閉の判断は多い方に合わせたのかもしれません。この部分一つ取っても、メーカーが単に市販の図面を鵜呑みにしないで、写真資料を良く検討した跡が伺えるような気がします。

 以上、キットの内容に関してはほぼ申し分ないのですが、過去にも何度も書いてきた「組立説明書の曖昧さ」に関しては一向に改善の跡がありません。塗装説明の曖昧さは相変わらずですが、それ以上に問題なのは組立説明の内容が判りにくい事に加えて明らかにミスプリントと思われる部分も少なくない事で、はっきり言ってボロボロです。これではキットの良い内容まで台無しにしかねません。別に田宮やピットロードのようなカラーガイドを示せとは言いませんが、購入する愛好者の全員が資料や工具を持っている訳ではないのですから、完成の全体図と個々の組立の過程は混乱がないようにきちんとすり合わせて欲しいものです。
 気が付いた部分を下に記しておきます。

組立説明書の注意点
・全体図
  1. 艦尾側の主砲塔2基の位置が逆に描かれています。実艦では後部マストの背後に測距儀付きの主砲(過程3の主砲塔B)、その下に測距儀無しの主砲(過程2の主砲塔A)が装備されていたので、注意が必要です。
  2. 愛宕の場合、1942年当時は装備されていなかった単装機銃の位置が記入されています。恐らく高雄の全体図からの消し忘れだと思うので、無視して良いと思います。
・高雄/愛宕 共通
  1. 過程8〜9において、左右両方に付けなければならない部品が、左舷側しか図示されていません。「反対側も同じ」と小さい文字がありますが、何が同じなのかはっきりわからないので、全体図を見ながら判断する必要があります。
  2. 魚雷発射管口を開ける場合、ナイフ等で開口する作業が必要です。
  3. 過程3で図示されている主砲塔Bは3基製作しますが、そのうち1基は部品16の砲塔からはみ出した部分をナイフ等で切り落とす必要があります。この砲塔は最も艦首側に付けます。
  4. 艦橋の両側面に付くカッターが全体図からも組立図からも抜けています。W38を甲板上に接着し、ラジアルダビットW23を舷側に付ける必要があります。これは箱絵が参考になると思います。
  5. 艦載機の指示が全くありません。手持ちの資料によれば、1942年秋の愛宕の場合は零式水上観測機(W4,5,7,10)が1機と零式三座水上偵察機(W20,22)が2機、1944年秋の高雄には零式三座水上偵察機(W20,22)が2機搭載されていたと言われていますが、資料や証言に相違があるので、こだわる方は良く調べる必要があります。
  6. 過程8において、中央の機銃台の部品番号が抜けています。間違えるような部品ではありませんが、No.53を接着します。また艦橋の60cm信号灯(W2)の台座の部品番号も抜けています。ここにはNo.49を用います。
  7. 過程8−(B)において、艦橋正面のNo.24の部品の下側の窓のうち、凸モールドで描かれている部分を0.6mmドリルで開口するよう指示されていますが、開けるのは2個だけでその位置も各艦によって異なっています。説明図の指示は正しいのですが非常に判りにくいため、下に窓の配列を記しておきます。

    高雄    愛宕  鳥海/摩耶
    ○○●  ●○○  ○●○
    (●が開けない部分)
・高雄の場合
  1. 艦尾の増設機銃2基分が、機銃座ごと取り付けの指示がありません。機銃座らしい部品は No.67に有るので、裏側の突起を削った上で全体図を参考に接着し、その上に3連装機銃(W40)を接着する必要があります。
  2. 過程8において、艦尾側の連装高角砲の左側に付く3連装機銃は、図示だけで番号が付いていません(高角砲の取付位置の上側に図示されている)。ここは両舷共にW40を接着します。そして艦橋中部の兵員待避所は左舷側はW65を接着しますが、右舷側はW66を接着します。
  3. 過程9の連装機銃の部品番号は41ではなくW41です。また艦尾側の機銃の取り付け位置は高角砲の右側ではなく、その上の機銃台になります。

長い文章ですが、もう少し。

 評価表で購入者の「層」が従来のキットより明確になっていない、と書きました。キットの内容は従来の青島のキットと比較してもある種非常にマニアックで、同型艦同士の大きな相違点であった艦橋正面の窓の配列の違いをわざわざ一部モールドしないで愛好者に開口させる事で再現させようとしたり、高雄ではキットの部品にない単装機銃の位置を示したりと、開発した側の意欲の高さは理解できます。しかし、それだけの情報と工作を作る側に提示するのであれば、細部の塗装に関する情報も同じように提示するのが「筋」ではないでしょうか?説明書での曖昧な塗装説明やラフな図解が「初心者のため」と言うのであれば、窓や魚雷発射管の開口部の選択も初心者には重い要求です。このギャップが示すように、今回の青島の高雄/愛宕に関しては、買って作る愛好者の「姿」をいったいどのレベルで想定していたのか、キットを見る限りでは今ひとつ判らなかったというのが率直な印象でした。
 それより何より、上で示したように組立説明書そのものが説明不足で誤植誤記欠字の三重苦では、初心者も何もあったものではありません。キットそのものの内容はもう他社と遜色は無いのですから、この点の改善は強く望みたいものです。


 今回発売された青島の高雄には大きな「意味」があると思います。それは、今後他のメーカーが同社とバッティングするキットを企画しても、内容的にも考証的にも完全に上回る製品をより安い価格で作れるのだという自信を、模型愛好者に明確に示した事です。つまり、それは同社の従来製品に対してモールドが精巧な「だけ」ではもう優位には立てなくなった事を意味します。より低価格で高品質な製品が出る可能性が示されれば、愛好者の購入意欲も慎重になってゆくように思うのです。

 青島には既存の製品のリメイクの噂が他にも囁かれています。例えば扶桑型戦艦や空母蒼龍・飛龍などの大型艦の希望が愛好者から強く挙がっていると聞きますが、個人的には難しい経営判断を伴ってくるだろうと考えています。扶桑型戦艦は船体以外の上部構造の多くが別部品になる事が予想され、また比島沖海戦の壮絶な最期以外に戦歴もない事から、リメイクした所で費用に見合った売り上げが望めるか否かは(あくまでも個人的な推測ですが)非常に疑問に思っています。また飛龍と蒼龍は大変有名な軍艦の一つですが、いずれも同型艦がなく一部部品替えでの別発売が見込めません。それに蒼龍に関しては信濃並に残された資料が少なく、大戦中の状態は外観すら確定していないのが実状です。モールドは最新の技術で鋭いものになったとしても、考証的には現行製品と大差がないキットしか望めません。それでは、せっかく長門型戦艦より上がってきた同社の印象に水を差しかねないように思うのです。

 だから、個人的には「いつでも良い内容でリメイクできますよ」という姿勢を愛好者や他メーカーに見せながら、慎重に採算見通しを立てて製品化を図ってゆくのが、最も現実的な選択ではないかと思います。従来の例から見て次の新作は2年後かもしれませんが、その時はまた期待を裏切らない良いキットが出る事を期待したいものです。

2001年8月12日 記

※注
 モデルグラフィックス誌2003年4月号(No.221)の特集は1/700洋上模型の今昔物語と題して、その過去と現状を綴ったものでした。初心者向けに判りやすく構成されていましたが、青島のWLに関するコラム(新生高雄型の実力を見よ!)に関しては少し疑問があります。

 青島の旧作WLはモールドが無いに等しきものでしたが、資料が皆無に近かった空母蒼龍を除けば、基本形状は当時一般的に知られていた資料に従ったもので、旧作高雄型(除鳥海)も同様でした。前部煙突の大型吸気口の形状や後部煙突背面の探照灯座や後部指揮所の処理など、現在のピットロードのキットよりも正確な部分も存在し、よって細部の表現が向上すれば他社に遜色のないキットが出てくる可能性は充分にありました。その「基本方針」はフジミ脱退後のキットにも引き継がれ、少なくとも利根型重巡はシルエットの捉え方が非常に良いキットでした。

 モールドが記事で述べられている「艦船模型の表現」に重要な要素である事は間違いないのですが、それだけが絶対条件ではありませんし、その絶対視は危険なことではないかと思います。極論すればモールドは市販パーツ等で置き換える事が可能ですが、基本型が間違っているキットの修正は容易ではありません。それにもかかわらず、「モールドが良いキット=良いキット」と捉えるのは、何もかも田宮と長谷川でやり直せと言う意見でシリーズの勢いが衰えていった70年代末と同じではないかと、そう考えます。

 記事は新版高雄型が突然変異的に出現したかのように捉えていますが、私は基本的には旧作の流れを組んだキットであるように理解しています。元々外形の捉え方が良い所に特徴があったのですから、苦手としていた小物パーツの共通化による省力化に加えて、細部の表現が向上すれば、この雑感で書いてきたように新版高雄型が出てくるのも自然な成り行きだったと。そしてそれを支えたのが記事文中で小馬鹿にしていたキャラクターや車モデルの技術の積み上げであった事を抜きに、新版高雄型の価値は語れないと思います。
2003年3月15日 補足