項 目 名 |
内 容 |
ジャンル |
近代艦船・旧日本海軍航空母艦 |
名 称 |
信濃 |
メーカー |
田宮 |
スケール |
1/700 |
マーキング |
艦名、飛行甲板白線、着艦標識、高角砲位置警告標識、艦載機の日の丸、
滑走制止装置のワイヤー部分(旗は紙製) |
モールド |
★★★★★ |
舷側の外板表現、武装、煙突配管、機銃座の支柱など、良好 |
スタイル |
評価不能 |
軽巡大井同様、内容を判断できる根拠はありません。 |
難 易 度 |
★★ |
合いは良い。支柱類の取り付けは面倒かも。 |
おすすめ度 |
★★★★ |
現時点で、空母信濃としては信頼に足りる唯一のキットです |
コメント |
左右分割式の船体や機銃座の支柱など、新しい表現は多いのですが… |
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同型艦が無いので詳しい部品割は省略しますが、部品構成は以下の通りです。
A部品 飛行甲板、機銃座、高角砲甲板など
B部品 艦橋、機銃座、高角砲甲板、艦首艦尾上甲板、エレベーター関係部品、ほか
C部品 機銃座支柱、煙突関係部品、噴進砲張り出しなど
D部品(2枚)各種武装品、アンテナ、錨、機銃座支柱、21号電探、探照灯など
E部品 船体、格納庫
Y部品(2枚、クリアーパーツ)後期型艦載機5種類
その他 艦底板、デカール、旗が印刷された紙、カラーの塗装説明紙など
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前作の大和型戦艦では、細部部品は新規開発分とWL大型艦用ディテールアップパーツの併用で成り立っていました。ところがこの信濃では艦底板と艦載機以外の全てのパーツが新規開発で、機銃の表現は同じですが、12.7cm高角砲は銃座の表現が若干変更されています。一部解放式の格納庫はそれらしく再現されており、一応キットの「売り」の一つになっています。船体は左右分割式という事もあって舷側の表現が細かくなされており、外板の継ぎ目のモールドもそれらしく表現されています。ただし大和と同じ取り付け部品はあるものの、WLの伝統だったバラストはこのキットには同封されておらず、説明書では希望者応相談とだけ書かれています。 スタイルに関しては判断できる資料が手元に無いのですが、新作大和の船体と比較すると船体前部上甲板のラインはほぼ伝えられている通り(甲板の波打った部分が大和よりも前に有って乾舷の高さも高い)で、飛行甲板や艦橋の形状も同様です。旧作信濃を作られた方はあまりの違いに目を回すかもしれませんが、これが28年間の艦艇研究と田宮の技術力の成果です。
マーキングは飛行甲板の白線に加えて滑走制止装置のワイヤー(ただし飛行甲板にモールドはあります)や着艦標識、それと高角砲の位置警告標識が入っています。高角砲の標識は空母瑞鶴の写真などで見られるもので飛行甲板の縁に描かれていたものですが、全ての航空母艦の全ての時期に描かれていた訳ではなく、白線や着艦標識と同様に信濃に描かれていた確証はないはずです。塗装説明にも言える事ですが、右舷側の全景以外に一般に公開された写真は無く、推定とは説明書のどこにも書かれていないので、作る際にはその事を承知しておく必要があると思います(なお高角砲の標識は白赤白の線となっていますが、資料や模型によっては白二本の解釈もあります)。
また、飛行甲板には凸モールドで甲板の白線の位置が記されています。初心者に間違いなく貼れるようにとの配慮だと思うのですが、上で記した通り信濃の飛行甲板にラインや各種標識が有ったかどうかは明確な資料がなく、無かったとする証言もあるほどで、このモールドを削り落とす場合は滑走制止装置や着艦装置のワイヤーの関係でかなりの困難が予想される事を考えると、もう少し考えて欲しかった所です。それに、モールドがありながら滑走制止装置のワイヤーだけをデカールとしたのも不可解で、どちらかを省略した方が良かったのではないかと思います。
他に変わった点としては、艦載機がクリヤーパーツとなっていてキャノピーの透明感が簡単に再現できることがあります。ただし後期型艦載機セットと同じものなので実際に搭載予定だった流星改は2機しかありません。この辺も気になる人は他から調達する必要があります。また、零戦の代わりに実際に離着艦を行った紫電改を載せても面白いかもしれません(これはピットロードから市販されています)。
原型木型を用いず、3D−CADデータから金型を製作したという事もこのキットの特色の一つです。そのためかどうかはわかりませんが、主な部品を仮組みした範囲では部品の合いは良く、現在考えられている空母信濃の巨体が誰でも、ほんとうに手軽に再現できるはずです。興味のある人はもちろん、無い方にも1隻組み上げて薄幸に終わった巨大空母の姿を偲んでいただけたらと思います。
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外箱の仕様
長さと幅は大和/武蔵とほぼ同じですが、
左右分割式の船体を含んだE部品の高さが約36mmあるので
その分高さが高くなっています。
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長い文章になってしまいましたが、もう少し。
今回のリメイク版信濃は、最初に書いたように「完全新作」という形になりました。現在考えられている信濃の形に近づけるためには戦艦大和の船体は使えない事と、そのためには同型艦のない6万屯の巨大空母を丸々1隻作るだけの経費が必要な事も述べた通りです。キットには艦底板と艦載機以外に流用した部品はなく、その艦載機もクリアーパーツでした。左右分割式の船体(開放式格納庫の床をビーム代わりにして強度を保つ設計も秀逸!)といい、これまでの空母のキットでは船体と一体化していたため逆三角形になっていた機銃座の支柱を別部品化したことといい、力の入れ様が尋常ではありません。おおぼけが目立った翔鶴型空母はもちろん、昨年発売した戦艦大和/武蔵よりも力が入っているのではないかと感じます。それは艦船模型愛好者の一人として嬉しいことには違いはないのですが、割り切れないものも残ります。曰く、「どうしてそこまで?」と。
採算面を考えた場合、同型艦は無いのですから開発費の回収も大和/武蔵の倍以上かかるはずで、ここまで力を入れたからといってそれが売上増につながるものでもありません。格納庫やエレベーターの開口部を単なる「へこみ」として処理できれば、大和の船体を流用して上部構造物を正確と思われる形に留めても田宮の技術力をもってすればキットの評価が致命的に下がることはなかっただろうと考えると、この方が合理的であるように思えます。
ただ、田宮は1/350のキングジョージV世級戦艦を半ば趣味で世に出した「前歴」がありますから、この信濃もメーカーの強い意志で中途半端なものを世に出したくなかったのかもしれません。それは部外者である私には伺い知れないことですが、
船体の分割方法、3D−CADによる設計(以前にもあったのかもしれませんが、大々的に宣伝したのは信濃が始めて)、機銃座の支柱の再現など、この信濃の内容は今までのWLのスタイルとはかなりかけ離れたものを感じます。だから、これは全くの個人的推測にすぎませんが、日本艦の中で後期に開発された空母隼鷹のキットの内容が多分に実験的な要素を含んでいた(格納庫の一部再現、極限まで追求されたモールド、ピンセットの部品化等)のと同じように、田宮はそういった新しい表現や開発方法の実験台としてある程度採算を度外視してこの信濃を作ったのではないか、そんな気がしてならないのです。
田宮にはこの信濃の他にも艦船の新作の噂があります。ただしそれが自社製品のリメイクか、旧フジミ製品のリメイクか、これまでWLに無かった全く新しい船なのか情報が錯綜している状態で、真偽の程もよくわかりません。噂を軽々しく書いても読む側が混乱するだけなので具体的な艦名は控えますが、聞くとどれもそれなりに根拠のある話で、どの方向に向いても話題を呼ぶのではないかと思います。その意味でも田宮の今後の動きに注目したい所です。※注
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※追伸 |
大和/武蔵/信濃の艦底板は共通で、形状も全く同一ですが、船体中央部艦尾側に記されている刻印を見ると、
31113
0997145
(C)1998 TAMIYA 1
こう記されています。上は田宮のアイテムナンバー(大和)、中の7桁の数字の意味はわかりませんが、部品のパーツグループ毎に下一桁の数字の違う番号が刻印されている事を考えると開発時の整理番号か金型の管理番号か、それに関連する意味かもしれません。最後は著作権表示ですが、大和型戦艦の艦底板の中には最後の数字が
(C)1998 TAMIYA 2
と刻印されているものが存在します(私の購入したキットは大和が2、武蔵と信濃は1でした)。つまり同じ艦底板で2個の金型が存在する事になる訳で、理由はわかりませんが、何とも不可解なことです。
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1999/07/04 記 |