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青島1/700新版 戦艦長門/陸奥について
1999/07/12 本文記述

 戦艦長門と陸奥は世界で最初に40cm主砲を搭載した戦艦であり、連合艦隊旗艦を長く務め、日本海軍の象徴として戦前の日本国民に最も親しまれた軍艦だったといいます。先の大戦では陸奥は不幸な爆発事故で果てましたが、長門はマリアナやレイテの大海戦に参加し、終戦まで稼働状態で生き残った唯一の日本戦艦でした。

 しかし、模型の世界では大和型戦艦の陰に隠れる形であまりキットには恵まれず、日模1/500と青島1/700、そしてピットロードの1/700ハイモールドしか入手できないのが現状でした。日模は論外として、青島のWLは基本形はそれほど悪くなかったものの鑑賞に耐える内容に仕上げるにはかなりの資料と工作量を必要とし、ピットロードのハイモールドは青島の問題点を解決した傑作でしたが、価格が非常に高価で万人向けとは言い難いものでした。

 田宮の大和の感想で述べたように、対ピットロードという観点に立てば青島が長門型戦艦を、同社の艦船模型としては異常とも思える熱意でリメイクしたこと自体は別に不思議だとは思いません。選択肢としては高雄型重巡という線も考えられましたが、将来の可能性より現実に競合が起きている最も単価の高い−ラインナップの「顔」である−製品を作り直す商品化の判断は、私は正解だと考えます。キットの内容はピットロードのハイモールドに遜色がないものですし。もちろん、それほど高度な判断ではなく、単に田宮が大和型戦艦を作り直したから青島は長門型でバランスを取っただけかもしれませんが。



外箱の仕様

箱絵の構図が旧版も新版もほぼ同じなので
特にビニールパックや通販等でキットの中身が見られない場合、
旧版と間違えないように気をつけて下さい。

新版2400円/旧版1700円の価格の違いと、
外側から見分けるポイントとしては、
戦艦陸奥のローマ字が青色である事(旧版茶色)
シリーズNo.が長門115番、陸奥116番(旧版102/101番)
定価表示が2400(旧版1700)などがあります。

 前口上が長くなりました。まずは評価表から。

項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍戦艦 
名  称 長門(陸奥)
メーカー 青島
スケール 1/700
マーキング なし(軍艦旗はステッカー)
モールド ★★★★ 全体的に良好。
スタイル ★★★★ 一部省略もありますが、長門/陸奥の特徴は良く出ています
難 易 度 ★★★ ただし、塗装説明は相変わらず曖昧です。
おすすめ度 ★★★★★ 昔の青島はもう、どこにもありません。
旧作に不満があった人も、上手く作れなかった人も、ぜひ。
コメント 田宮の信濃同様、メーカーの熱意が伝わる好キットだと思います。

 キットの状態は長門・陸奥共に1941年頃の状態となっています。
 部品割は以下の通り。


・船体
・艦底板
・A部品 艦首最上甲板、艦橋基部甲板、煙突、探照灯台、機銃台、ほか
・B部品 N・M部品以外の艦橋、後部艦橋基部、航空機作業甲板、17m水雷艇、ほか
・C部品(2枚) 主砲塔、副砲、測距儀、パラペーン、副錨、ほか
・W部品(2枚) WL大型艦用ディテールアップパーツに同じ
・主砲旋回用ポリキャップ
・バラスト
・ステッカー
 以上長門/陸奥共通

・N部品(長門)
・M部品(陸奥)
     艦橋基部、副砲予備指揮所、主砲測的所、防空指揮所、
     戦闘艦橋甲板、後部艦橋上部、塵捨管など
 以上 長門/陸奥差し替え



 「昔の青島はどこにもない」と書きました。キットのモールドのキレなど、同社のキット「らしさ」を感じられる部分もありますが、特に船体と甲板の再現力が桁違いに向上していて、旧作とは全く比較になりません。日本戦艦独特の積み上げ式の艦橋も中心と後方の4本のマストを立ててから甲板と各作戦室の部品を積んでゆく実艦に準じたもので、甲板の背面のサポート類もそれらしくモールドされています。旧作で大きな問題とされたクレーンの動力室や1番砲塔の位置もこの新作ではクリアしています。加えて青島が苦手としている細部部品もWLディテールアップパーツからの流用で格段に印象が良くなっています。「全体型はまあまあだが、細部が無い」とWL発足当時から同社の組立キットについて回った先入観を一変させるに充分な力作で、戦前の連合艦隊旗艦の勇姿が手軽に再現できるはずです。

 WLは2隻以上同型艦が発売された場合、慣例的に各キットの設定年代をずらしていた事が多かったのですが、この新版長門/陸奥では共に1941年の設定となっています。キットの概要が判明した際、模型愛好者の中からは長門が1944年の設定では無かった事に不満の声が少なくなかったと聞きますが、そもそも青島にそのような器用な要求をする事自体が間違いであって、旧作の陸奥の特徴が長門と入り交じった上に1944年仮想状態というとんでもない内容だった事を思えば、武装が少ない大戦前の状態に合わせて可能な限り同型艦の相違を再現するという考え方は、同社の表現力を冷静に考えれば私は正解だったのではないかと考えます。

 その相違点の再現は主に前後の艦橋に集中していて、艦橋基部の高角砲ブルワークや副砲予備指揮所の窓の形状、後部艦橋の構造の違いなどがそれらしく再現されています。また艦橋以外にも、船体外舷に付く塵捨管を別部品にして取り付け位置の違いを指示したり、陸奥の下段最前列の副砲の撤去跡を完全に埋める部品が入っていたり(部品No.M-4,5)と、大きな部分は押さえているようです。
 ただ、これも主な相違点である艦首のフェアリーダーは表現そのものが省略されている他、航空機作業甲板も長門の形状で、陸奥を作る場合はレールの一部などモールドを修正する必要があるようです。また後部マストの形状はかなり省略されているので、気になるようなら真鍮線で作り直すとより感じが良くなると思います。それと舷外電路のモールドも無い設定なので、大戦直前以降の両艦を作る場合は伸ばしランナー等で追加する必要があります。

 塗装説明の曖昧さは相変わらずで細部の塗装指示は全くありません。WL発足の昔から指摘されている事ですが、資料の少ない初心者のためにも、もう少し改善を望みたいものです。

 他に気が付いた事として、これはワタ艦Webの掲示板でも指摘されたことですが、不要部品の中に21号電探+電探室?(B-11)と2,3番主砲塔の増設機銃座らしき部品(C-6)があります。21号電探は陸奥の最終時にも装備されていたと考えられていますが、船体を見る限り1944年以降の機銃を増設した長門を再現する意図は最初から無かったと考えられるため、どちらもサービスパーツだろうと思います。そのまま使うことは難しい部品ですが、今までの青島のキットにはあまり無かったもので、ここからも力の入れ様が感じられます。
 以上述べた通り細部には幾つか手を入れる必要があり、また1944年以降の長門を再現するには更に若干の修正が要りますが、内容的には大変優れたキットです。「青島なんて…」と思われている方にぜひ手に取って見ていただけたらと思います。


 この長門型戦艦の内容と、その発売のアナウンスが有った1998年冬に一部の模型雑誌で開発予定として具体的な艦名が報じられたこともあり、青島の次の新作を期待されている方も多いと聞きます。しかし、フジミ脱退後の製品開発の流れを追うと、

利根型重巡    1993年
秋月型駆逐艦   1995年
むらさめ級護衛艦 1997年
長門型戦艦    1999年

 このように「2年に1形式」のペースで発売している事実と、1999年現在青島の商品の主力が車とバイクとキャラクターモデルである現実を考えると、仮に模型愛好者の間で囁かれている噂通りに企画が進んでいるとしても、それが今秋や来年に新製品が出てくる可能性は極めて少ないだろうと考えています。いずれにせよ、愛好者が1/700の艦船モデルにより正確な考証と精密なモールドを要求する限り、70年代のような新製品ラッシュはもう望めないのですから、2年に1隻のペースででも万人に満足のゆくキットが出れば、模型愛好者は支持してくれると思います。その意味でも青島の次の企画は気長に見てゆきたいと考えています。
1999/07/12 記