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長谷川1/700新版 重巡洋艦妙高/那智について
 2001/01/14 本文記述

 妙高型は1923年に締結されたワシントン軍縮条約の枠内で建造された、日本海軍最初の「条約型巡洋艦」でした。高い性能と精悍な外観は内外に強い印象を与え、また先の大戦ではどの艦も開戦から大戦末期まで常に最前線に立って活動し、妙高のみが中破状態で終戦を迎えました。

 前作の重巡妙高は長谷川が送り出した最初のWLキットでした。旧日本海軍艦艇の中では資料が比較的残っている艦で、キットには大きな考証ミスは無かったものの、細部の表現には見劣りする部分が多く、また基本形が同じである高雄級重巡と並べても同じ船体には見えないという問題もあり、鑑賞に堪える内容に仕上げるにはかなりの腕と工作量を必要としました。長谷川には修正が極めて困難なキットが他にも存在するためリメイクの必然性には疑問もありますが、キットそのものは2000年末の「いま」を反映した内容に仕上がっていました。
 まずは評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍重巡洋艦
名  称 妙高(那智)
メーカー 長谷川
スケール 1/700
マーキング 艦名、軍艦旗、艦載機の日の丸、フロートの各種マーク、
艦底板の名前
モールド ★★★★ 全般的に良好(W部品の換装は作る人次第)
スタイル ★★★★ 妙高に限れば星5つ。大きな問題はないようです。
難 易 度 ★★ ただし、妙高以外は部品共用による修正が要ります。
おすすめ度 ★★★★★ 価格に見合った力作です。実艦に興味のある方はぜひ。
コメント 価格と内容の釣り合いが高いレベルで取れているキットと思います。

 部品割は以下の通り。キットは両艦共に第二次改装後(1941年頃)と最終時(1944-45年頃)のどちらかの年代を選択して作る事ができます。

・A部品 上甲板+シェルター甲板(一体化)、右舷側船体
・B部品 艦底板、左舷側船体、船体補強用のビーム
・C部品 マスト、高角砲台座、煙突、前後部艦橋構造物、主砲測距儀、ほか
・D部品(2枚)主砲塔(4艦共通形式)、2・4番主砲台座、魚雷発射管、ほか
・W部品(2枚)WL大型艦用ディテールアップパーツに同じ
以上 妙高/那智 共通

・E部品(2枚)主砲塔(妙高/羽黒共通形式)
・K部品 艦橋上部、測距儀、方位盤
以上 妙高のみ

・F部品 主砲塔(那智独自形式)、後部トップマスト、防空指揮所上部
・J部品 上部見張所、艦橋頂部、デリックブーム、三脚マスト頂部
以上 那智のみ

 長谷川に関しては、前作の祥鳳型空母が必ずしも現在を反映した内容になっていなかったことや、船体形状が同一であるピットロードの高雄型重巡がほぼ同時に発売される事などから、かなり不安を感じていました。しかし、いざキットを開いてみると、同型艦の細かい識別の違いが若干再現されていない事や武装装備品が共通パーツである事を除けば、外形も細部も良く再現されています。特に船体の表現と再現力は素晴らしく、当初の予想とは全く逆に、ピットロードの高雄の船体の方が並べて考え込む結果になってしまいました(これは別に感想を書きます)。



外箱の仕様

船体が左右分割である事や
主要構造物を納めたC部品が長いことから、
戦艦や空母に用いる大きな箱が使われています。
それで、箱のサイズの違いで旧版と見分ける事ができます。

 キットを見る限り基本的には「妙高」がベースで、他の3隻は大きな相違点である主砲塔や艦橋上部、後部マスト上部やデリックブームなどを差し替えて対応しているようです。1992-93 年に掛けて発売された金剛型戦艦が部品割が非常に細かかった割に相違点の再現が中途半端だった事を思えば、良く考えて設計しているようです。しかしながら、モールドされている舷外電路は妙高以外は3艦とも装備位置が違いますし、舷窓の配列も艦や時期によって多少の違いがあります(最終時を設定した場合は4艦とも下段の全部と上段の一部を埋める必要があります)。

 また、これも大きな相違点である煙突周辺の蒸気捨管の配列も妙高のもので、他の3艦を作る場合は一部削ったり加えたりする作業が必要になります。2・4番主砲上の空中線用支柱に関しては部品は一切ありません。それと、最終状態では魚雷発射管(D9)のうち艦尾側の2基は撤去されていたようですが、説明が抜けています。他にも細かいレベルで気になる部分はありますが、いずれも省略の範囲内であったりまた容易に修正が可能なことだと思います。

 内容に関しては、船体や艦橋の基本形、主要構造物の形状と配置、いずれも致命的な問題はないようです。4艦毎の作り分けを考えた場合は上で述べた通り細かいレベルでの問題が存在しますし、モールドのキレや共通のW部品の内容など不満な部分も無い訳ではありませんが、何よりも青島の利根型重巡と同じ1,800円という「価格」を考えれば、その枠の中で精一杯作ったという印象を受けます。ですから、4艦の相違点やムクになっている各種架台、装備品の換装などあとは愛好者の手を入れ方次第でより良い仕上がりが期待できると思います。

 ただし、組立説明書の内容は第二次改装後と最終状態を併記した、非常にわかりにくい印象を受けます。上から下に読んでゆく1枚物の説明書はWL発足当時からのスタイルですが、田宮の大和型のように塗装や組立の注意を別紙にして開いたスペースを組立説明に当てるなど、スタイルやレイアウトには一考の余地があるようです。

 これは後で述べるピットロードの高雄型重巡とも係わってくる事ですが、私自身は多少の違いには目をつぶってでも共通可能な装備品は極力共通部品にまかせて、船体や主要構造物の形状や配置の再現に力を入れるという、最近の青島やこの長谷川の設計思想の方が合理的ではないかと考えます。細部に対する考え方は人によって違いますし、装備品はピットロードのパーツセットやエッチング等で代用が容易に可能です。そして、その選択も作る人次第ですから、メーカーは一定水準の部品を提供できればそれで良いと考えます。逆にいくら細部や装備品に凝っても船体の基本形に問題があったり結果として価格が上昇するようでは、作る側の負担が高くなるように思うのです。


 長谷川は祥鳳型空母・妙高型と続いた事もあり、この後の新規開発に関しては現時点では白紙状態であるようです。個人的にはシルエットに問題が多い古鷹・青葉型重巡のリメイクで、最初の日本艦の発売当時は何故か販促テーマにならなかった「ガダルカナル攻防戦」の日本側主要艦をリメイクで揃えられれば、また新しい方向が見えてくるように思います。

 2001年1月14日 記