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2000-2001年私感
〜ピットロードは何処へ行く?〜
2001年12月24日 本文記述

 先日発売された「1/700洋上模型ハンドブック2002」のあとがきで、御師匠様(衣島尚一氏)はこう結んでおりました。

>WLシリーズの初期製品の多くは新金型に移行し、
>ピットロードは一方の雄として揺るぎない地位を築き、
>新しい息吹はそこここに芽生えつつある。


 しかし、ここ数年の動向を見るにつれ、ピットロードの「地位」は少しずつ揺らぎ始めているように私は感じています。艦船模型を引っ張っているのに製品開発に一貫した戦略がなくその未来にも明確な指針を示せないでいる事は、折りに触れ何度も書いてきました。そして、2000-2001年に発売された高雄型重巡に対する開発経緯とその位置付けを思うに、何が最も重要なのかというメーカーの基本姿勢すら見失いつつあるのではないかと、強い危機感を感じています。

 そもそもピットロードが艦船模型の愛好者から高い支持を得てきたのは、WLが積極的に展開できなかった外国艦・現用艦の開発や、現在の水準から大きく見劣りするWL製品のリメイクを肩代わりしてきた面にありました。価格は総じて高いものでしたが、より正確で精巧なキットは価格差を補って余りあるものでした。ところが、WL陣営がフジミ脱退後の一部ラインナップの穴埋めから初期製品のリメイクに方針転換し青島や長谷川の製品内容が劇的に向上するにつれて、ピットロードのキットは「優れた内容で価格差を補う」という優位性がぐらつき始めます。

 その「転換点」は、1999年に発売された青島の長門型戦艦にあったように思います。内容も価格も圧倒的に素晴らしいピットロードのハイモールドに対して、青島は従来の戦艦キットから突出しない価格で、考証とシルエットの再現に注意を払ったキットを出してきました。ピットロードの担当者は当時「我社の製品がより優れている」と旧掲示板上で主張し、それは正しかったのですが、結局のところ市場での競争力を維持する事はもうできませんでした。

 この頃ピットロードの高雄型重巡の企画は既に発表されていましたが、開発は一時停止状態でした。当時まだ青島のリメイクは発表されていませんでしたが、金型が疲弊しているのは誰の目にも明らかでしたし、長門型戦艦の内容から競合になった場合に青島がどこにポイントを置いて製品開発するか推測する事もそれほど困難ではなかったはずです。しかし、ピットロードの高雄型はさほど重要とも思えない(競合の可能性が限りなく少なかった)重雷装艦のために開発が一時止まり、再開後も構成パーツの見直し等で発売予定はズルズル延び、ようやく発売されたキットも考証や表現の多くで不満が残る内容に留まってしまいました。青島がリメイクする可能性も、長門の教訓からそれに対抗するにはどこに重点を置くべきなのかという「問題意識」も持たないまま漫然と開発を行い、従来通りの感覚で高価格のキットを発売したようにしか、私には思えないのです。

 高雄型重巡に関してかつてピットロードがやってきた「小回りの利く対応」を、今や青島が説明書を強化した限定版の発売などで積極的に仕掛け、対するピットロードは得意のエッチングパーツ付きの高付加価値製品の市場投入すらままならない(自ら告知した発売日すら守れなかった)のが2001年末の現状です。何が最も重要であるか、何に対して信頼を寄せるのか、それが見極められないほど今の愛好者は盲目ではないはずです。高雄型で現れてきた問題−製品の市場投入のタイミング、十二分に予測された競合に対する見通しの甘さ、製品開発に於ける仕様変更の妥当性と合理性への疑問、愛好者への「約束」であるはずの発売日が全く守られないずさんなスケジュール管理…会社が置かれている立場が少しずつ変わりつつあるのに、意識は従来のまま変わろうとしない−それはいつか愛好者の信頼をも消し去ってしまうのではないかと。

 だから、通信の場でピットロードと静岡3社との関係に関して色々な憶測を聞きますが、仮にピットロードの立場が今後苦しいものになったとしても、私は他社が積極的にバッティングを仕掛けた事が原因になるとは思いません。要はバッティングしようがしまいが、完璧な考証と内容で発売予定日にキットを送り出せば良いだけの事であって、多くの愛好者がピットロードに求めていたものはそこにあったと思うのです。ひるがえってここ数年のキットの内容を思うと、神川丸型特設水上機母艦に於ける信じられない設計ミスや高雄型重巡の不十分な考証など、愛好者の期待に充分に応じられないものは少なくなかったのではないでしょうか?それらは、いずれも艦船模型が中心であるメーカーの「自覚」があれば充分に回避可能なことだったはずです。

 モデルグラフィックス誌2002年1月号で、田宮模型の社長が1/32零戦52型の開発の過程で、一旦仕上がった試作品の不備を直感的に見抜いて設計者を交代させて全てをやり直させたというエピソードが紹介されています。こういう引き合いを出すと「田宮のような規模の大きい企業とピットロードでは同じ真似はできない」という反発があるかもしれませんが、要は基本設計の段階や木型の試作の段階でも不備を直感的にでも資料を検討してでも見抜く人材なり体制が充分ではないのではないかと、特に高雄型の考証に関しては図面や写真と突き合わせてみれば不備が比較的容易に見抜けるレベルだっただけに、一層その思いが強いのです。それはピットロードというメーカーの未来を思うに「次にどんな船が売れるか?」と考えるよりもはるかに重要な問題だと私は考えます。

 これらのことがらは高雄型に限定した一過性のもので、次にまた素晴らしい内容のキットを発売すれば全て帳消しになるかもしれません。しかし、新製品に絶対的な優位性がなくなりつつある現状から、会社が置かれている立場が攻めから守りに転換しつつあるのではないかという事と、それにどう対応してゆくかは、メーカーの行方に直結する事柄のはずです。それにもかかわらず、Webの旧掲示板に於いて安易に企画案を募ったあげくにルールを守らないと愛好者を批判したり、海外サイトにまで宣伝して大々的に行われたインターネットの投票が実は製品開発に於いて重要な要素ではないと表明したりと、醜態としか言い様のない言動をメーカーサイドが繰り返した点一つ取っても、どれほど問題意識を持っているのかすら疑問に思えてならないのです。

 ピットロードが艦船模型に果たしてきた役割はあまりにも大きく、そして今後も艦船模型の未来を占う上で重要な位置を占めなければならないはずです。そのためにも、原点に立ち帰って製品の品質にこだわりを見せる事と、危機感を持って製品開発に当たって欲しいと、強く願う次第です。
2001年12月24日 記