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1999年私感
〜1979年と1999年の風景〜
 1999/12/26 本文記述

 例年ピットロードの最後の新製品に合わせてその年の印象を書いてきましたが、水上機母艦君川丸に関しては仮に年内に入荷しても感想を書く余裕がもうないため、今年の印象を切り離して書くことにします。

 1999年は前年に引き続き、多数の艦船キットが発売された年でした。スケールの選択肢は1/700以外ほとんどありませんでしたが、田宮が信濃を発売して大和型のリメイクを終了し、また青島の長門型戦艦や長谷川の祥鳳型空母など、98年に噂されたキットも無事世に出る事ができました。ピットロードも含めて、各社共に2000年以降も艦船キットの開発が噂されています。

 1999年のWLの動きと、それに対する愛好者や模型雑誌の反応を見るにつれ、私は20年前の1979年のことを思い出します。この年は5月の静岡見本市で約6年振りに日本艦の新作(大淀、1,2等輸送艦、氷川丸、千歳千代田)が当時の静岡4社から発表され、また一部の模型雑誌でそれに続く企画情報も発表されて愛好者の間でかなり話題になった記憶があります。しかし、この時流された企画情報はほとんどキット化に至らず、新製品も途絶え、フジミの脱退によるリメイクの開始まで長い停滞期を過ごす事になります。

 この間、御師匠様(衣島尚一氏)が一貫して述べられていた御言葉があります。「模型愛好者が精一杯メーカーを応援しなければ、新しい動きは無い」これはモデルアート1999年10月号の艦船模型特集の巻頭言でも述べられている事です。「それは歴史が証明している」という言葉を沿えて。以前は私もそう考えていたのですが、79年と99年に至る経緯を考えるにつれ、本当にそうだろうか?と疑問に感じるようになってきました。

 売上が続かずに頓挫してしまった企画が残念ながら少なくなかったことはWLの30年近い歴史が確かに証明しています。しかし、その全てが愛好者の応援が足りなかったためだとは、私には思えないのです。「商品開発の方針が行き当たりばったりで、艦船模型をどうしたいのか明確な意志を示せなかったメーカーの姿勢」や「製品化されるかどうかもわからない企画情報をあたかも新製品が出るが如く垂れ流しにした模型雑誌の報道」には本当に責任はなかったのでしょうか?

 1980年代、WLの需要があれほど冷え込んでしまった原因の一つには、1979年の日本艦一時再開の際に垂れ流しにされた企画情報がほとんど実を結ばなかった事に対する愛好者の失望が大きかったためではないかと、私は考えています。1999年現在の新作キットの発売といわゆる「出戻り組」愛好者の呼び戻しも、愛好者の努力よりもその力の全く及ばない次元で起こった、メーカー同士の内部分裂が元で1992年より始まったリメイクによる新製品の市場投入の影響の方が、はるかに大きかったのではないでしょうか?その分析やメーカーの姿勢に対する問題提起、垂れ流しにした企画情報が潰れた事に対する報道の責任といったことがらを全てうやむやにして、「買わないと続かない」と愛好者の側にばかり負担を強いる論調では、また80年代のように需要が冷え込んでしまうのではないかと非常に危惧しています(商業誌に書けない問題だという事は承知していますが)。

 そして1990年代の最後に再び、一部の模型雑誌は20年前と同じように「企画情報をあたかも新製品が出るが如く垂れ流しに」しています。現在はほぼ情報通りに新製品が出ていますが、もし開発が頓挫してしまったら、愛好者に与えるダメージは当時よりもはるかに大きい−あるいは取り返しのつかないものになってしまう危惧を私は抱いています。インターネットで噂も情報も全て発売される事が前提のように受け取っている、WLの歴史を知らない若い(?)愛好者の姿を見るにつれ。
 もし、この駄文を読んでいる模型雑誌の関係者があれば、艦船の新製品の情報は慎重に扱って欲しい、仮に愛好者の購買意欲を促進する目的であっても、企画段階の具体的な艦名をあたかも新製品として出るが如き報道は避けて欲しいと、痛切に願います。


 79年当時は静岡4社以外に艦船で競合する可能性はほとんど無かったのに対し、99年現在はピットロードや多くの内外レジンキットメーカーが艦船模型に参入し、WLのアイテムと直接競合するものも現れています。その決定的な違いから、80年代のように急に企画が潰れる事は少ないのではないかと私は見ています(あくまでも個人的推測です)。2000年以降の日本の艦船模型は、恐らく1/700中心である事はもう動かないと思いますが、その中では既存の有名艦のリメイクと、作り易さと細部の再現性と価格に折り合いをつけたキットの開発(例えば長谷川の祥鳳級空母やフジミの一連の米国現用艦など)、ピットロードに代表される高品質・高価格のキットなどで地道に愛好者をつなぎ留めてゆく方向に向かってゆくのだろうと考えます。

 ただ、外国艦を出したり、自衛艦を出したり、旧日本海軍艦艇を出したりと「艦船模型をどの方向に持ってゆきたいのか明確な意志をメーカーが愛好者に示せない」、つまり「行き当たりばったり」な商品開発では、その場その場では興味を持った愛好者を喜ばせることはできても、後が続かなければ結局は失望してしまいます。ピットロードの感想で何度も書いてきた事ですし、最近の田宮の動きにも感じることですが、なぜいまこのキットを世に出す必然性があるのか、このキットでどんな愛好者を取り込んで艦船模型を盛り上げてゆくのかといった明確なメッセージなり戦略が無ければ、どんなに優秀な内容であっても限られた愛好者の中だけに留まってしまうように思えてならないのです。

 最初の方で御師匠様の言葉は疑問だと述べましたが、青島の長門型戦艦のようにメーカーの熱意が感じられるものには最大限の敬意を払い、置かれている現状や疑問に感じることにはNOを突きつけるといった、愛好者側の「明確な意志表示」も大事な事だと考えます。送り出す側と作る側が馴れ合いにならずに良い意味での緊張関係を持って、その結果2000年以降も血液が逆流しそうな凄いキットが一つでも世に出ることを望みたいものです。

1999/12/26 記