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日本郵船 照国丸
(自作1/700)

実船について

  照国丸は姉妹船の靖国丸と共に、日本郵船が欧州航路向けに1930年に 建造した貨客船でした。船内装飾は日本風でまとめられ、外観も大きさの割に均整の取れた美しい船で、横浜〜スエズ運河経由〜ハンブルグ間を約4ヶ月で結ぶ航路に就いていました。主要要目は以下の通り。
総トン数 11,979屯
船体の長さ(垂線間長) 505フィート(約153.92m)※
船体の幅  64フィート(約19.51m)※
主機 ディーゼル2基,10,000馬力、2軸
速力 17.764ノット
乗客定員 430名
(一等121,二等68,三等249)
建造所 三菱長崎造船所
竣工 1930年5月31日
同型船 1隻(靖国丸)
       ※1フィート=0.3048m、小数点3位四捨五入で換算。 

 ところが、第二次大戦勃発直後の1939年11月21日、カサブランカからロンドンに向けて航行していた照国丸は英国東岸のハリッジ沖でドイツ軍が敷設した機雷に触れて浸水し、乗員乗客計205名は全員救助されたものの、その直後に横転沈没し生涯を終えました。姉妹船の靖国丸は海軍に徴用され特設潜水母艦として活動しましたが、1944年に戦没しています。

製作状況

 照国丸は私の好きな客船の一つですが、キットはどこからも出ていません。これもスクラッチビルド(全自作模型)になります。そもそもスクラッチの最初に「橿
原丸」は無理があったという反省から、キットが発売されている氷川丸に似た船を作って表現を少し考えてみようと、船の大きさも外観上の特徴も似ている「照国丸」を選んだ、というのが理由です。御師匠の衣島尚一氏がモデルアート誌1985年3月号で姉妹船の靖国丸の初心者向けのスクラッチの方法を紹介されていますが、外観が似ているといっても実際には甲板の平面ラインも船室の構造も違う船なので、氷川丸の船体をそのまま流用することはできません。私は船体の船首と船尾のみを使い(ただし平面のラインが異なるので拡幅する必要があります)、船体中央部はプラ板の直線構造として製作しました。シルエットはそれなりにつかめたと思うのですが、もう少し乾舷を高くした方が良かったかもしれません。また、商船の場合はハウス(中央部の船室)の高さを実際の図面より若干高く誇張した方が“らしく”見えるように思います。

 スクラッチビルドの作り方は、別項にある橿原丸や龍田丸でも同様ですが、まず資料(1/700程度なら概略の一般配置図で充分)をもとに図面を描きます。その課程で既存のキットから流用できる部品の種類と数、細部の表現、誇張と省略のバランスなどを考えてゆきます。つまり、実際に製作に入る前に紙と頭の上で一度組み立ててゆく訳で、私の場合図面ができれば模型はもう仕上がったも同然です。また模型上で0.5mmに足りない長さとなるものは、主要構造物の長さだけを確定させその中で多少の出し入れを行ってつじつまを合わせています。この辺も単に図面を縮小コピーするだけでは細部が行き詰まってしまうので、描いて考えてみる訳です。

 船の構造上の特徴の一つに、シアーとキャンバーと呼ばれるものがあります。いずれも波をかぶった時などに水はけを良くするためのもので、シアーは船体を側面から見て中央部を低く船首と船尾の両方向に向かって弓なりに甲板を高くしている構造で、現代の大型船ではあまり見られなくなりましたが太古の昔から船と名の付くものに一般的に用いられていた形です。キャンバーは甲板の中心部を高く、舷側に向かって低いかまぼこ状の断面を持った甲板の形で、これも船と名前のあるもの全てに一般的に用いられている構造です。もし船に乗る機会があれば、たとえば、横浜の氷川丸や旧日本丸、船の科学館前に係留されている宗谷など、注意して見ると気がつくと思います。

 スクラッチでこれらの特徴をどう「料理」するか、ですが、私はシアーは船首と船尾の甲板を直線的に上げて船室が乗る船体中央部は直線構造とし、キャンバーは1/700では省略の範囲内と考えて無視しています。船体全部を曲線構造とすると船室の工作が極めて難しくなるためこういう工作方法を取っていますが、キャンバーはともかくシアーラインは写真に撮るとちょっと硬直的な感じで、もう少し合理的な工作や表現ができないか思案している所です(アドバイスなど頂ければ有り難く思います)。


 船体中央部はプラ板のブロック、船室と甲板もプラ板から作っています。細部は表現を合わせるため氷川丸から使えそうな部品やモールドを全てはぎ取って付けており、またハウスの角窓を切り抜いた(写真に撮影した場合、黒塗装より見栄えが良くなると思います)以外は、窓やドアの表現も氷川丸のモールドに準じた形に留めています。またマストは真ちゅう線のハンダ付けとしています。「いかにもスクラッチで作りました」という感じを極力見せないように心がけたつもりでしたが、なかなか難しいことではあります。

 また煙突後部の一段高くなっている船室は1等ベランダもしくは喫煙室と思われ、背面は外が見渡せるベランダ形式となっています(実船はこの部分に手すりがあります)。これは構造上の特徴の一つなので、靖国丸のスクラッチの際はこの部分をクローズとしないよう注意が必要です。

 張り線や手すりなどは全て省略しています。客船の手すりは軍艦以上に重要な意味を持っていることが多いのですが、表現上のバランスが取れなくなるのでそうしています。

あとがき

 表現的には少し省略が過ぎた感じもありましたし、塗装も地味。煙突の後ろ側の構造はもっと複雑になっているなど問題も多かった模型でしたが、これで戦前の日本の商船は一通り作れるかもしれない、と思い込んだ記憶があります。