照国丸は私の好きな客船の一つですが、キットはどこからも出ていません。これもスクラッチビルド(全自作模型)になります。そもそもスクラッチの最初に「橿
原丸」は無理があったという反省から、キットが発売されている氷川丸に似た船を作って表現を少し考えてみようと、船の大きさも外観上の特徴も似ている「照国丸」を選んだ、というのが理由です。御師匠の衣島尚一氏がモデルアート誌1985年3月号で姉妹船の靖国丸の初心者向けのスクラッチの方法を紹介されていますが、外観が似ているといっても実際には甲板の平面ラインも船室の構造も違う船なので、氷川丸の船体をそのまま流用することはできません。私は船体の船首と船尾のみを使い(ただし平面のラインが異なるので拡幅する必要があります)、船体中央部はプラ板の直線構造として製作しました。シルエットはそれなりにつかめたと思うのですが、もう少し乾舷を高くした方が良かったかもしれません。また、商船の場合はハウス(中央部の船室)の高さを実際の図面より若干高く誇張した方が“らしく”見えるように思います。
スクラッチビルドの作り方は、別項にある橿原丸や龍田丸でも同様ですが、まず資料(1/700程度なら概略の一般配置図で充分)をもとに図面を描きます。その課程で既存のキットから流用できる部品の種類と数、細部の表現、誇張と省略のバランスなどを考えてゆきます。つまり、実際に製作に入る前に紙と頭の上で一度組み立ててゆく訳で、私の場合図面ができれば模型はもう仕上がったも同然です。また模型上で0.5mmに足りない長さとなるものは、主要構造物の長さだけを確定させその中で多少の出し入れを行ってつじつまを合わせています。この辺も単に図面を縮小コピーするだけでは細部が行き詰まってしまうので、描いて考えてみる訳です。
船の構造上の特徴の一つに、シアーとキャンバーと呼ばれるものがあります。いずれも波をかぶった時などに水はけを良くするためのもので、シアーは船体を側面から見て中央部を低く船首と船尾の両方向に向かって弓なりに甲板を高くしている構造で、現代の大型船ではあまり見られなくなりましたが太古の昔から船と名の付くものに一般的に用いられていた形です。キャンバーは甲板の中心部を高く、舷側に向かって低いかまぼこ状の断面を持った甲板の形で、これも船と名前のあるもの全てに一般的に用いられている構造です。もし船に乗る機会があれば、たとえば、横浜の氷川丸や旧日本丸、船の科学館前に係留されている宗谷など、注意して見ると気がつくと思います。
スクラッチでこれらの特徴をどう「料理」するか、ですが、私はシアーは船首と船尾の甲板を直線的に上げて船室が乗る船体中央部は直線構造とし、キャンバーは1/700では省略の範囲内と考えて無視しています。船体全部を曲線構造とすると船室の工作が極めて難しくなるためこういう工作方法を取っていますが、キャンバーはともかくシアーラインは写真に撮るとちょっと硬直的な感じで、もう少し合理的な工作や表現ができないか思案している所です(アドバイスなど頂ければ有り難く思います)。
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