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La Reale de France
(エレール1/75)

実艦についての、少し長い説明

 ガレー船とは大勢の漕ぎ手の力により漕ぎ進む船で、艦首から長く突き出た衝角で敵の船の側面に体当たりして沈めたり、兵士が乗り移って戦闘力を奪って制圧するのが戦闘のスタイルでした。風を帆に受けて航行するよりもオールで漕いだ方がより機動的であるとの考え方から、主に風が一定しない地中海において古代ローマ帝国からこのような船が軍艦として用いられていました。

 その戦闘形式から艦首に突き出た衝角と前方にのみ射撃可能な大口径の固定砲を集中させ、船体側面に白兵戦用の小口径の旋回砲を並べたのが兵装上の特徴です。1571年のレパント沖海戦でキリスト教徒の連合軍がトルコのガレー艦隊を打ち破ったのを契機に、ガレー船は砲撃力がはるかに強力なガレアス船や後の戦列艦に主力艦の座を譲り次第に消え去っていきましたが、それでも地中海沿岸の主要海軍国では18世紀に至るまでガレー船を用いていたとあります。

 ラ・レアルとは、フランス海軍が所有したガレー艦隊の旗艦に付けられた称号で、17世紀中頃に活動していたとされるこの艦の場合1本のオールに7人の漕ぎ手が付き、31組+片舷1本の計427名で操作する、最大規模の艦だったといいます。艦尾の赤いテントの下が王侯貴族や士官の場所で、船体側面と特に艦尾に豪華な装飾−戦闘能力より威力を誇示する目的で−飾りたてられているのも特徴の一つです。

 漕ぎ手の大半は奴隷か囚人に戦争捕虜などで、その生活空間は漕ぎ手座とその下のベンチのわずかなスペースしかなく、しかも漕ぎ手用の便所が無かったため全ての生理的な行為はその与えられたわずかな場所で処理(つまり垂れ流し)し、しかも乾舷(喫水線からの船体の高さ)が極端に少ない独特の艦型のために海が穏やかな時でも波が甲板を洗い、強風下の航海では風下側の甲板が水面下に沈み漕ぎ手が漬かってしまうこともあったといいます。想像を絶する厳しい環境の上に戦闘となれば漕ぎ手は鎖でつながれ太鼓のリズムに合わせてオールを握ることになります。往年の名画「ベン・ハー」でチャールトン・ヘストンが奴隷として押し込められたガレー船がペルシャ軍の軍船の体当たりで沈むシーンが有りましたが、艦が致命的なダメージを受けて沈む時にも鎖につながれた漕ぎ手には脱出するチャンスが無く、海のもくずと消えるのが与えられた運命だったそうです。

 模型として見るガレー船は細長い船体に突き出したオール、艦首と艦尾の豪華な装飾が示すように大変美しい船です。しかし、その内側ではかかる凄惨な日常が同居していました。だから外側はできる限りきれいに仕上げましたが、内側−特に漕ぎ手が運命を共にせざるを得なかった漕ぎ手座の部分の「赤」はざらざらになるまでツヤを落とし、色調も暗めにして外側との落差を表したつもりです。

動機

 これは学生時代に帆船模型の習作として作ったものです。この頃は社会人 になったらいっぱい資料を買ってたくさん模型を作ろうと意気込んでいたのですが、いざ就職すると思ったほど自由な時間はなく、また趣味の方向も多少変わってしまって、完成品の数は逆にがっくりと減ってしまいました(T_T)。

キットについて

 キットはフランスの海事博物館が所蔵している17世紀中頃のガレー艦隊 の旗艦とされるモデルと文献が基になっているようです。ガレー船のキットは紀元 前の古代ローマやギリシャの軍船が過去幾つかのメーカーから出ていましたが、中世ヨーロッパのガレー船の大型キットは他になく、しかもキットの内容は物凄いもので、レベルの1/96コンスティテューションや日模の1/200戦艦大和と並び艦船模型史上最高の傑作の一つに位置付けられるものと考えています。
 非常に大きく部品総数も900個を越えたキットでしたが、部品の大半は63基の漕ぎ手座に関するもので、加えて内容も非常に優れていてほとんど手は掛かりませんでした。艦船キットで無視される事が多い船体上甲板のキャンパー(かまぼこ型の中央が高い断面形状)も再現されており、上の構造物もそれに沿って設計されています。主な工作要点と修正点は、

・喫水線以下の木目モールドが無いので、Pカッターと千枚通し等で再現。
・オールの形状を一部修正し、漕ぎ手の握り棒を真ちゅう線で追加。
・艦首の固定砲の台座部分を一部修正、制御用の各種ロープを追加。
・艦尾前の甲板のモールドを修正し、船体内部への入口と階段を追加。
・2隻有る艦載カッターの内側にモールドを追加。
・装飾の裏側に木目モールドを追加(根拠無し ^_^;)。
・大三角帆と艦尾の天幕を布で自作、マストとヤードのモールドも一部修正。
・リギング(ロープの張り方)を若干修正。
                             製作期間:約 6ヶ月

 組むこと自体は上で述べた通りそれほど難しいと感じる所はありませんで した。現代の感覚で見るとかなり特殊な船で漕ぎ手座の構造も複雑ですが、比較的少ない部品で上手に表現しています。漕ぎ手座の足台の部品など70cm近く一体モールドで抜いてあるものもありましたが、組むとすき間もなくぴたりとはまりまし た。
 他に、このキットのほぼ唯一の問題点(これはエレールの帆船キットの大半に共通する事ですが)として、金型の都合で喫水線から下の木目モールドがあり ません。加えてモールドされている喫水線を側面から見ると艦首と艦尾方向に向かっ て下がっていたため、Pカッターなどで喫水線下の木目モールドを彫ると共に、喫水線の位置を水平から艦首・艦尾両方向に向かってやや上がるように塗装しています。 

 あとは塗装に力を置いています。艦尾の装飾はキットのモールドのままですが、これをそのまま金で塗るとメリハリの無い感じになるので、茶色に近いMr.カラーの金色をベースに黄色に近いタミヤカラーのゴールドやハンブロールのゴールドなどで適当に塗り分けて陰影を付けています(経年変化で若干色調が落ちてますが)。漕ぎ手座の「赤」は兵員の戦闘意欲を失わせる、戦闘中に飛び散る血しぶきを目立たなくさせるという残酷な配慮で、当時の軍艦の内部の戦闘区画で一般的に用いられていた塗装だそうです。この全面赤の色調は上で述べた通りで、またオールを握る部分の「青」も色調を落としツヤもがさがさになるまで消しています。ただしオールの外側の白はMr.カラーのグランプリホワイトを1/4程度ツヤを落としたもので塗り分けています。

 木目の部分は、私はプラ帆船の工作上の大きなポイントだと思うのですが、Mr.カラーのウッドブラウンを下地に、その上にタミヤカラーのレッドブラウンをベースに赤の強いものや黒の強いもの、茶の深い色など6種類ほど作った色を木目モールド毎に塗り分けています。完全に乾燥したらその上から田宮のアクリルカラーの黒を溶剤で薄めたものを塗りたくってすぐに拭き取って仕上げています。艦尾の赤い天幕の下が王侯貴族や士官の場所と先に述べましたが、この内部の構造を示す資料は残っていないようです。キットでは3隅にベンチが有るだけの簡単な表現で、天幕を張るとほとんど見えなくなるのでそのままとしました。艦尾装飾のパネルの内側は木目モールドを追加し、上記の通りウッドブラウンをベースとした色で塗り分けています。これも根拠が有る訳ではありませんが、当時の戦列艦の装飾が木製で内側は地肌がむき出しになっていた構造にならったものです。艦尾前の甲板はキットではただの木目モールドですが、この部分はフランスの海事博物館所蔵の模型の写真にならい長方形のパネルの継ぎ合わせの形にモールドを修正して塗装しています。また資料によれば甲板の隅に艦内に入る階段が有ったということで、その通り修正しています。

 帆装は2枚の大三角帆と艦尾の赤い天幕を布で自作、資料に基づきミシン掛けを行って仕上げています(裁縫は全くだめですが、この程度の直線縫いなら何とか)。帆の中央部に並んでいる短いロープはリーフポイントと呼ばれるもので、強い風の際に帆が破れないように一部巻き上げてヤードに縛り付ける、その位置の目印として付けられていたものです。また、旗はいずれもキットに付属していた紙の印刷で、切り抜いて張り合わせ、木の丸棒などに巻いて風になびいた形としています。

La Reale 艦尾付近
艦尾の彫刻は当時の有名な彫刻家、ピエール・ピュジェの手によると
説明書にありますが、彫刻の個々の意味までは判りませんでした。
何らかの宗教的な意味が有ったものと思います。

あとがき

 エレールの大型帆船は70年代半ばに出たこのラ・レアルで頂点を極めたようでした。その後西独海軍の練習帆船ゴルヒ・フォック(II)が発売され、これも素晴らしい内容だったのですが、70年代末〜80年代初頭にかけて出たキットはビクトリーがまずまずの内容だった他はアメリゴ・ヴェスピッチもプロイセンも大きいだけでモールドは今三つ、そして、それ以降帆船の大型キットの発売は耳にしなくなりました(80年代の末にプロイセンの部品替えでケープ・ホーンという架空の船をでっち上げて出したことはあったけれど)。

 他のメーカーも含めて、60〜70年代に出た大型帆船キットは「うたかたの夢」だったのかもしれません。軍艦以上に高度な金型技術と膨大な部品を必要とする帆船モデルが採算に乗らないアイテムである事は容易に想像できますし、模型店から姿を消しつつあるのも現実です。それでも、またどこかから血が沸騰するような帆船のキットを期待したいものです(それ以前にこの製作ペースでは今あるストックを全部消化する前に寿命が尽きるんじゃあ… ^_^;)。