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Amerigo Vespucci
(エレール1/150)

実艦について

 アメリゴ・ベスピッチは兵員育成を目的とするイタリア海軍の練習帆船で、1931年(昭和6年)に竣工しました。他国の練習帆船とは異なり19世紀の戦列艦を模したといわれる独特の艦型が最大の特徴で、艦尾回廊(艦尾の張り出し)は今の船には見られないものです。第二次大戦後もイタリア海軍に所属して各国の帆船パレードなどにも数多く参加しました。
 主要要目は以下の通り。
長さ 全長/101.0m(船体長/82.0m)
最大幅 15.5m
排水量 4,100屯
帆装形式 3本マスト フルリグド・シップ型
補助機関 ディーゼル電動式1800馬力、1軸
乗員 453名※
(士官24、下士官34、兵員205、士官候補生150、他40)
進水 1930年3月12日
竣工 1931年2月22日
姉妹艦 1隻(クリストフォロ・コロンボ (CRISTOFORO COLOMBO))
※OTHER SCHAUFFLEN著"DIE LETZTEN GROSSEN SEGELSCHIFFE"
(VERLAG SELIUS KLASING & Co. 1970)の記述に依る。


 姉妹艦のクリストフォロ・コロンボは第二次大戦後に賠償として旧ソ連に引き渡 され、ドゥナイ(DUNAY)と改名され練習帆船として活動しましたが、1972年に解体されたと聞きます。アメリゴ・ヴェスピッチとは主要要目も艦型も若干異なり、同型艦ではありません。

動機

 そもそもこの船の製作は最終目的ではなく、80年代初頭にエレールが1/150で出したプロイセン号の下準備として作ろうとしたものです。帆装形式が同じだった上に、たまたまイタリア製の木製帆船模型用の図面と詳細な解説書を入手し甲板上のピン配置(Belaying points diagram )や装備品の構造や配置がわかったこともあって作ろうと決めたものです。パミール号の工作放棄の反省から、実艦の写真が載っていた本や雑誌やカレンダー・ポスターなど片っ端から集めて充分な下準備を踏んだ上に、改めて1/150の帆船のノウハウを得るため、あまりプラにはこだわらず金属材料の効果、部品の流用、構造物の自作、細部の表現法など当時考えついたありとあらゆる方法と材料を試しながら作っていきました。
 ところがこのキット、お世辞にも出来が良くなく、部品で使えたのは船体と甲板とマストの一部と艦載艇・カッターの外側だけという有様、甲板上の部品の9割方が自作か他キットからの流用という散々な内容で、大変しんどい模型でした。細部の詰め方や工作のノウハウでは良いトレーニングにはなりましたが、結局この1隻で精魂尽き果ててしまい、当初の目的だったプロイセン号の方は出来が全く良くなかったこともあって今も押入の中で眠っています。

キットについて

 エレールのキットは1964年の改装より前の状態を示しているようです。模型は1976年7月にニューヨークで行われた米建国200周年記念国際帆船パレード・観艦式に参加した時の状態としています。
 仏エレール社の大型帆船は繊細なモールドに特徴がありました。ところがこれは他のキットを基準にして考えるとほとんどの部品が使用不能、加えて資料と突き合わせたら疑問点が続出、結局甲板のレイアウトからリギングプラン(ロープの展開)まで根こそぎ作り直すハメになってしまいました。修正はキットのほぼ全てに及びましたが、主な部分は以下の通りです。

1.船体
艦首の装飾のモールドがオーバー気味だったので若干修正。
艦尾回廊を鉄道模型用の各種メッシュとプラ材より作り直し。
舷窓は透明アクリル棒を差し込み外側を削り出し船体と面一となるよう作成。
2.甲板配置と部品。
模型用の図面と航空写真などを基に甲板の諸部品配置図を作成。
エレール1/150のパミール、ゴルヒフォック、今井の(旧)日本丸より
流用可能な部品は型を取って複製し流用。
前後の艦橋、メインマスト後ろの船室、艦首の機関砲、手すり、舷梯、コンパス台、煙突左右の大型ランチなどいずれも形状不良のため自作。
その他、各種艦載カッターもそれらしく修正。
3.リギングプラン。
19〜20世紀の3本マストシップ型帆船の標準的なリギング(ロープ展開)をもとに実艦写真で判明できる部分を加えて展開図を作成。
バウスプリットと各マストのトップは強度を考え金属で作り直し。
キットには滑車が1個も入っていなかったので、約500個程度自作。
                            製作期間 実質2年7ヶ月
 船体は左右分割式で甲板を上から押し込む形式を取っています。モールドの関係で艦尾回廊に接する部分の側面が別パーツになっていましたが、甲板との合いがあまり良くなかったので、接着後裏側からポリパテを盛って補強してあります。また船体中央部に角材を2本付けて幅を広げると共に補強しています。
 
                                       

 前後の艦橋は透明パーツで窓の部分を除いて塗装するよう指示されていましたが、後部艦橋は1964年の改装前の状態で、前面が張り出した形になっていません。また前部艦橋もモールドが今三つだったので、いずれも木製帆船用の図面と写真を元に図面を書き、プラ板を切り貼りして作っています。前部艦橋の前の部分は天井がガラスになっていて、落下物を防止するために上にネットが張られています。
 煙突の両側にある内火艇とランチは、キットでは奥側に見えている内火艇に「似たような」形のものが2隻分入っています。1964年の改装前に撮影された航空写真ではその通り2隻搭載されているのでこれは誤りではないのですが、一応模型の状態とした1976年7月には手前に内火ランチが搭載されていたので、部品の底の部分だけを使い白く見えている部分は型を作ってエンビ板のヒートプレスで仕上げています。また内火艇もあまりモールドが良くなかったのでこれも部品は底の部分だけを使い、上部は全て作り直しています。

 後部艦橋で、模型はシャッターを下ろした状態にしてごまかした(^_^;)のです
が、実艦ではこの中に手動の舵輪があります。帆走(風の力だけで航海すること)する時に帆の状態を見ながら舵を取る必要があるため、手動の舵輪は全ての帆を見渡せる場所に付いているのが普通ですが、この艦の場合は帆の状態を上まで見通すことが難しい後部艦橋の中にあります。実際この艦がどのようにして帆走するのかはわかりませんが、普通舵輪の前に有るコンパスが後部艦橋の上にあることや、その周囲にスピーカーや投光器らしきものが装備されていることから見ても、実際の操艦指揮は後部艦橋の上で行い、伝声管やスピーカーなどで艦橋の中の舵輪に指示を与えているのではないかと思いますが、その場合でもミズンマスト(いちばん艦尾寄りのマスト)の帆の状態をどうやって把握しているのか疑問が残ります。


 マスト・ヤードの工作とロープの展開は、キットの指示は省略が激しい上に滑車が一つも入ってなく、加えて参考にした木製帆船用の図面にも疑問点が出るような状態だったため、まず同じ帆装形式を持つ標準的な帆船のリギングプランをもとに実艦の写真判定とピン配置図から推定のリギングプランを書き出し、それを元に甲板上のアイボルト(黒色の輪)の位置と役割、トップやマストに必要な滑車やアイボルトの位置と数を割り出し、あとは木製帆船と同じ要領でロープの展開を行っています。複雑そうに見えますが、1本のマスト・1本のヤード・1枚の帆に付く基本的なロープは全部で10種類ほどしかなく、その基本原理を頭の中に入れておけばあとは帆が何枚増えようが、マストが何本増えようが、その繰り返しになります。

 滑車は田宮模型が工作用に市販している2mm径のプラ丸棒をスライスし、レザーソーで溝を入れ、0.4mmのドリルで穴を開け、真ちゅう線を加工した金具を付けて仕上げています。1本のマストに約150個、全体で500個ほど必要になりましたが、工作用の治具(=型)を作りそれに沿って量産したので、それほど面倒な作業ではありませんでした。時間はやたらとかかりましたが(^_^;)

あとがき

 手動舵輪の位置以外にも、この帆船は資料を読んでも実際に組んでも理屈に合わないものが多くて首をひねる事も少なくありませんでした。たとえばメインマストを前方へ支えるメインステイがクレーンポストの上に引っ掛けて下方に折れ曲がるようにして固定していたり(あの位置にクレーンがある限り他に方法はないのかもしれませんが、強度的に問題はないのだろうか?)、メインのロワーヤードを操作するブレースをミズンマストのトップから滑車を付けたロープでたぐり寄せるようにして艦尾のピンレールに導いていたり(模型上では直接艦尾に導いてもカッターの操作にはさほど支障はないように見えますが)など…

 あと、これは実際に組み上げてから気がついたのですが、この船は写真で見るほど大きなものではなく、旧日本丸と比べても船体長は8m近く短く、幅は3mほどしか広くありません。甲板は1層多いのですが、それで定員は旧日本丸より250名以上多いそうですから、居住性は言われているほど良くはないのかもしれません(定員を550名としている資料も多いのですが、この船にそれだけの人間が乗船できるとは模型を作る限りではとても思えないのです。要目の根拠となっている資料は私の持っている中で乗員の内訳を示した唯一の本です)。

主要参考資料

・「AMERIGO VESPUCCI LA NAVE E IL MODELLO」FRANCO GAY著/出版社不明
 (伊国製の木製帆船模型用の図面集+解説書のセット)
・「ENCICLOPEDIA di NAVI e modelli di navi 3」Vincenzo LUSCI刊
 (伊国の模型雑誌の1979年版合本。実艦の詳細な解説記事が収録)

・「MASTING AND RIGGING THE CLIPPER SHIP AND OCEAN CARRIER」
・「SAILING SHIP RIGS AND RIGGING」
・「SAIL TRAINING AND CADET SHIPS」
  いずれも HAROLD A.UNDERHILL著/BROWN,SON AND FERGUSON社刊

・「帆船ガイドブック」今井科学監修/海文堂刊
・「帆船模型」保育社カラーブックスNo.573 東康生・竹内久著/保育社刊
・「帆船模型製作テクニック」海文堂刊

  その他、実艦の写真が掲載されていた本、雑誌、カレンダー、ポスターなど。