中納言行平
             古今集

立ちわかれいなばの山の峰に生ふる
       まつとしきかばいま帰り来む

いま別れて因幡の国へ行くけれど、因幡の山に生えている「松」のように、あなたが「待つ」と聞いたならば、すぐにも帰ってきましょう。

三条右大臣
           後撰集

名にしおはば逢坂山のさねかずら
       人に知られで来るよしもがな

逢うという名の逢坂山、さ寝に通じるさねかずらを操る様に、他人に知られないで、あなたのもとへ来る方法はないものかなあ。

藤原実方朝臣
          後拾遺集

かくとだにえやはいぶきのさしも草
        さしもしらじなもゆる思ひを

このように、あなたを思いしたっていることさえ、言うこともできないのですから、まして、伊吹山のさしも草のように燃え焦がれているこの胸の思いは、よもやご存じではないでしょうね。

小式部内侍
           金葉集

大江山いくのゝ道のとほければ
        まだふみもみず天の橋立

大江山を越えてゆく生野の道は遙かに遠いので、まだ天の橋立の地は踏んでも居ませんし、母からの手紙も見ては居ません。

源俊頼朝臣
           千載集

憂かりける人をはつせの山おろしよ
       はげしかれとは祈らぬものを

わたしに冷淡であった人の心がこちらへ傾きますようにと初瀬観音にお祈りはしたけれど、山嵐よ、そなたのようにますます激しくなれとは祈らなかったのになぁ。