| |||||
『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』 | |||||
監督 佐井大紀 | |||||
画面に映った監督の様子からは、本作「Chapter1 history」で映し出し始めた1980年のイエスの方舟事件当時には、まだ生まれてもいなかったであろう人物だ。彼がイエスの方舟に興味を抱いた契機は何だったのか、非常に気になったが、2023年のクラブ「シオンの娘」の古賀市への移転だったのかもしれない。 '58年生まれの僕は、四十五年前のイエスの方舟騒動を同時代で目撃しており、それが例えば、中村文則の小説『教団X』<集英社>で主人公の楢崎が巡らせる思念の「これは洗脳だろうか? あの名もない教団での。性欲という人をコントロールしやすい領域を過度に助長させることで、人を洗脳しやすくしてるのだろうか?」(P272)と同じような先入観と偏見の元に、親元を離れていった娘に対する失意と憤りに駆られた家族の心情に寄り添う形を取ることで世間を煽った商業メディアによる見世物報道であって、主宰者の千石剛賢を「おっちゃん」と呼び、共同生活を営む女性たちの真情や彼らの行う聖書勉強会の活動内容などには目もくれない代物だったことを知っている。だから、今の時代に改めて採り上げるのなら、この報道問題のほうに軸足を置いた作品にしてほしかったのだが、見世物報道に抗って当の女性たちからの真摯な訴えに応えたサンデー毎日の鳥井守幸編集長の名を出して言及し、部下だった鳥越俊太郎にインタビューをしながらも、作品としての主軸はやはり今現在のイエスの方舟のほうだった。 千石剛賢亡き後も女性たちが共同生活を続けているとの報道があったことは記憶にあるけれども、いつだったかは思い出せない。死後、二十年を超える現在もなお、クラブ「シオンの娘」が健在で、十四人の女性が就業し、十二人の女性が共同生活をしているとのことで、会員数は往年の二十六名を上回る二十八名を数え、全国に百人単位の支援者というか、協力者がいるそうだ。 クラブの常連客がホステスたちについて「女を売るのではなく、人生を売ってる」と言っていたことが印象に残った。事件に翻弄されバッシングを受けた経験や聖書の勉強によって培ってきた人間性に惹かれて客として足を運び、会話を楽しんでいるクラブなのだろう。でなければ、四十年を超える営業が続けられるわけがないとつくづく思った。 すると「イエスの方舟、私も記憶にはっきりあります。これは未見です。 いつだったかドキュメントがあり、ブログに書いたような気がします。数年前か・・NNNドキュメントかな? おじさんは亡くなり、その後のドキュメントだと思います。 今も人数は少ないですが、共同生活、クラブ?で生計を立てていて、勉強会もしていました。これまで継続しているのは、信頼があるから? あのおじさんはどんな存在だった? メディアが騒ぎすぎた? 親がとりもどそうとした? 未成年はいたでしょうか? みな、大人だった気がします。人数が少ないこともまとまりがあった。他にもこんなコミュニティが、どこかにあるかもしれません。 おじさんに対する、メディア系、嫉妬もあったか(笑)」とのコメントをもらった。 同時代を生きている者にとっては、当時なかなか衝撃的な事件だったからだろうが、「おじさんに対する、…嫉妬」には苦笑した。女性からすればそんなふうに思うのかもしれないが、そういう方向であれほどの数を抱えると、なにせ同居なのだから、苦労心労のほうが多い気がしてならない。嫉妬というより凄いなということになる。 それはともかく、おっちゃん以上に存在感があるのは、再婚妻の千石まさ子さんのような気がしてならない。ちょうど十七年前の朝日新聞の記事にある共同生活を今なお維持している原動力は、彼女にあるに違いなく、それは実は、おっちゃん生前の頃からしてそうだったのではないか、という気がしてならない。上述した2014年刊行の『教団X』の松尾正太郎&芳子夫妻は、まさに「イエスの方舟」がモチーフになっているような気がした。 | |||||
by ヤマ '24.11. 4. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター | |||||
ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―
|