『ラストマイル』
監督 塚原あゆ子

 思いのほか面白かった。えらく豪勢な配役だなと驚いたが、エンドロールを観ていると、二本のテレビドラマとのタイアップ作品らしかった。最後に、心の問題は一人で抱え込まないようにという趣旨の文言がクレジットされたが、確かに本末転倒をしている何処か病んだような人々ばかりが登場していた気がする。現代社会の反映なのだろう。

 リフレインによって随分強調されていたカスタマー・セントリック(customer centric)のおためごかしは、カスタマーを国民にしたり子供にしたり貴方にしたりで、卑近なところで実によく見かけるものではあるけれども、客に喜んで貰えることを本当に甲斐にしていると思しき配送員の佐野親子(火野正平&宇野祥平)を配してあるところがいい。

 満島ひかりならではの人物造形に感じられる舟渡エレナが目を惹いたが、アメリカ本社の経営トップから事情を明かされぬままに送り込まれた彼女が、ドライで有能な成果主義者から、会社利益の追求からは背任行為に当たるような反旗を翻すに至る変貌を遂げる過程が充分には描けておらず、役者の力頼りになっている気がしなくもなかった。もっとも目標達成至上主義者という観点からは、変えたのは目標だけであって、何ら変わることのない有能極まりない舟渡エレナだったとも言えるような気がする。

 とはいえ、佐野亘(宇野祥平)がぼやいていたように、100個も配達して2千円の@20円なのだ。それが160億円になるという規模の経済などというものを“市場主義”の名のもとに野放図に競争に駆り立てると、社会的に損なわれるものが大きすぎるというのが僕のかねてからの思いだ。儲け・便利・効率を最優先にすることの代償を描いていた気がする。かんばん方式で名を馳せたトヨタの生産方式がもたらしたような歪みの極大化が現出されているように感じた。当然ながら、ことはアマゾンに限った話ではない。

 それにしても、正社員9名で一日7~800人の派遣社員を使って業務に駆り立てるシステムの危うさ脆さに恐れ入った。映画的な誇張があるにしても、物流問題の核心を突いているのだろう。わずか@20円が160億円になるというのは、当然ながら損害のほうだけではない。かつての日本型資本主義の時代にはなかった役員の高額報酬や投資家と称するマネーゲーマーの懐を桁違いに潤わせることで招いている歪みや荒み、そして三十年来の日本企業の活力減退の要因の大きな一つだという気がしてならない。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
https://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/24092701/
by ヤマ

'24. 9.30. TOHOシネマズ3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>