『映画○月○日、区長になる女。』
監督 ペヤンヌマキ

 杉並区は、僕が成人した年に住んでいた行政区で、うちにはナカバヤシの白一色の表紙に金文字で「成人記念 1979 (杉並区章)杉並区」と刻印されたフエルアルバムがあり、その年に旅した欧州旅行の写真を編纂してある。今川や桃井に住み、西荻窪駅や荻窪駅を通学の起点にしていた若かりし頃の懐かしい街だから、映画を観ていて今現在のかの地を訪ねてみたくなったりした。

 兎と亀ならぬ猫と亀を映し出して始まった本作は、区長選挙というマラソンを駆け抜けたランナーズハイがよく捉えられた映画だったように思う。2022年7月11日に杉並初の女性区長となった岸本聡子の当選以上に、議会での彼女の不利な状況を打開すべく、支援女性たちが次々と区議会選挙に打って出て十二人もの現職区議を落選させて十五人の新人議員が誕生し、女性区議が過半数を占めるに至ったという次なる動きのほうに感銘を受けた。しかも、岸本陣営で活動し女性区長誕生に貢献していたメンバーだった小池めぐみが日本共産党、古参メンバーから政策立案で岸本以上の信認も得ていたてらだはるかが立憲民主党、欧州で学び活動してきた岸本の提唱していた「ミュニシパリズム(地域主権主義)」をにしていたブランシャー明日香が緑の党グリーンズジャパンと、会派が様々なところも好い。

 草の根市民グループが落下傘候補で呼び寄せた人物が自民党県議団の推す候補を破り首長に就いた事例としては、1991年に当地の県知事になった橋本大二郎のときの選挙を想起せずにいられなかったが、あのときも大きな力を発揮していたのは女性有権者だった覚えがある。そして彼の場合、その後の県議会の議員構成をドラスティックに変えるには至らずに、既存政党からの支持を取り付ける対応に腐心したような記憶がある。

 それでも、当時、初の戦後生まれかつ全国最年少の知事として全国から注目され、従前とは異なる県政展開を見せて、いわゆる改革派知事として名を馳せたものだ。それからすれば、今回の杉並区の動きのほうが遥かに興味深いところだ。

 それにしても、2022年の杉並区での事件をドキュメントしながら、映画製作公開がなぜ2024年にまで遅れたのだろう。
by ヤマ

'24. 9.29. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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