『プロヴァンスの休日』(Avis De Mistral)['14]
監督・脚本 ローズ・ボッシュ

 フランス映画なのに、パリからプロヴァンス地方のアビニョンに向かう列車に乗せて♪サウンド・オブ・サイレンス♪から始まったので驚いていたら、次なる曲は、マンゴ・ジェリーの♪イン・ザ・サマー・タイム♪となったので、さらに吃驚。僕自身はウッドストック・エイジには、ほんの少しだけ遅れていて、1970年にはまだ十二歳だったけれども、十八歳の夏には早稲田松竹で『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』も観ているから、ほぼ同時代だ。

 オリーブ農家のポール(ジャン・レノ)が品評会の金賞を二十年掛かりで射止めたのが2013年だったことからすれば、かつてのヒッピー仲間がフランス人ながらウッドストックで知り合った間柄だと言ったりしていたから、四十三年経つわけだ。当時、もし二十三歳なら六十六歳となるわけで、映画はちょうど十年前の作品だけれども、彼らは今の僕と同い年だ。

 ボブ・ディランの♪天国への扉♪も、ショッキング・ブルーの♪ヴィーナス♪も,ディープ・パープルの♪ハイウェイ・スター♪も、バイク仲間が久しぶりの再会に咽びながら歌っていたボブ・ディランの♪フォーエバーヤング♪も、それだけで響いてくるものがあった。

 おまけにポールの妻で、三人の孫から慕われていたイレーヌを演じていたのが髪結いの亭主ハモンハモンのアンナ・ガリエナで、かつて自由恋愛の“愛の女神”として男たちを魅了していたことの延長にある、実に魅力的で貫禄のある愛すべき老年女性を体現していたものだから、すっかり気に入ってしまった。彼女の聾唖の幼い孫息子テオ(ルーカス・ペリシエ)がまた実に愛らしかった。ハイティーンの孫娘レア(クロエ・ジャネット)の危うさもなかなか好かった。

 そういった点からも、我々世代には特に響いてくるところのある作品だったように思う。政治の季節たる五月革命ではフランスが世界の若者を引っ張り、自由恋愛のヒッピー文化ではアメリカが世界を引っ張った時代が呼び起こされていた。孫息子のSNSへの投稿によって訪ねて来ていた往年のバイク仲間がなかなか素敵で、納屋の奥に仕舞ってあったバイクを孫娘のために取り出してくるのがいい。

 フランスの成人年齢十八歳からすれば、十七歳で家出をした娘エミリー(ラファエル・アゴゲ)の長男アドリアン(ユーゴ・デシウ)が成人していて、妹のレアが未成年だった三人兄妹弟の父親は同じ人物のようだったから、テオの歳からすれば、娘の離婚は比較的最近だろうし、となれば、アドリアンが祖父ポールに言っていた十七年前のしこりというのは何だろうという気もしたが、細部はいいかなという気にさせてくれる作品だったようにも思う。
by ヤマ

'24.10. 4. BSプレミアムシネマ録画



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