『コルドラへの道』(They Came to Cordura)['59]
『騎兵隊』(The Horse Soldiers)['59]
監督 ロバート・ロッセン
監督 ジョン・フォード

 先に観た『コルドラへの道』は、僕が一歳の時分の作品だ。前口上とも言うべきものをオープニングクレジットでスクロールしていくという実にオールドファッションスタイルのなかで、邦題の暗示している作品主題を明かしていたが、それを踏まえても尚且つ何とも不得要領な筋立てだった。

 1916年の騎兵隊を舞台にした物語だから、ジャンル的には西部劇ともなりそうだが、どちらかと言えば、軍隊ものの色合いが濃いように思う。戦意高揚には英雄仕立てが欠かせぬというのは、我が国の先の戦争での肉弾三勇士を想起するまでもなく軍国主義の常道なのだろうが、そのための叙勲受章者探しの密命を負ったソーン少佐(ゲイリー・クーパー)が、やたらと銃を振りかざしながら一発も撃たず、密命のはずのものをばらしまくることに然したる狙いも窺えないというヘンな映画だ。訳あり女牧場主ギアリー(リタ・ヘイワース)がソーン少佐を庇って身を挺した翌朝、彼に告げる恥ずかしい人生だわとの台詞は、なかなか意味深長なのだが、彼女がそこまでソーンに肩入れするようになることにも取って付けたような感じがあった。

 courage【勇気】と cowardice【臆病】を問う旅がコルドラへの道なのだというオープニングクレジットでの解題が示していたものは、確かに言葉として台詞にも現れはしたが、ソーンが自身の負い目をてこに任務遂行に執着する姿にも、反発しながらも付き従う兵士たちにも、具体的に窺えるところは何もなかったように思う。ただ祭り上げられる“英雄”なるものがろくでもない代物であることだけは明白で、英霊などにおいてもそうであるように、当の人物の如何などとは別のところで作り上げ、軍国主義を盛り立てようとする思惑でしかないことは明確に描かれていたように思う。ソーン少佐が孤軍奮闘して掌の皮をぼろぼろにしながらトロッコを漕いでいた姿の象徴する重たい徒労感こそが彼らの負っていたもので、そこには、勇気も臆病もなかったような気がしてならない。

 すると、ロッセンが '50年代のハリウッドでの赤狩り旋風による転向組だと教えてくれた方から未見ですが、そうした観点からも興味はありますねとのコメントを貰った。実に味わい深い名作だったハスラーしか彼の作品を観ていないが、俄然、興味が湧いてきた。


 一日おいて観た『騎兵隊』は、まるで誂えた放映だったかのような同年作であることの妙味に感心した。流石はNHKBSのプレミアムシネマだ。あまりに有名な楽曲が耳に馴染んでいたが、初めて観たように思う。こちらは同じく騎兵隊ものでも南北戦争[1861-1865]時代だから、ちょうど半世紀先立つ騎兵隊になるわけだ。だが、奇しくも本作でも『コルドラへの道』と同じく、兵士の尻の腫物の膿を出す場面が現われ、荒くれ男が悲鳴をあげていた。鞍に跨って行軍することの多い騎兵隊の職業病だったのかもしれない。

 軍隊における英雄とは何かを描くコルドラへの道に代わって、本作で描かれていたのは、南軍の兵站拠点を潰す隠密作戦を命じられたマーロー大佐(ジョン・ウェイン)が率いるニュートン駅への道だった。騎馬戦闘場面も銃撃戦も登場しなかった『コルドラへの道』と違って、流石フォード作品だけに、駅での戦闘場面に見映えがしたような気がする。敵味方を越えて窺える“士官たるものの矜持”にクラシカルな味があったように思うが、彼らが任に就いている戦争そのものは、非常に愚かで無惨なものであることが、『コルドラへの道』の湛えていた観念性とは対極的な形で描き出されていた気がする。

 前半は、情報漏洩を懸念した大佐によって隠密作戦の行軍に同行させられる南部の女農園主ハンナ(コンスタンス・タワーズ)が観察する、エリートで誇り高き軍医ケンドール少佐(ウィリアム・ホールデン)と、士官学校出ではなく鉄道会社の保線係から軍隊に入隊して叩き上げで昇進したマーロー大佐の人物像を描き出すロードムービーだったわけだが、少々退屈した。面白かったのは、尻の腫物だけではなくて旅に同行する女主人という設えもが通じていた点で、まさにカップリング作品の妙味だと感じた。僕は、女牧場主を演じていたリタ・ヘイワースよりも、女農園主のコンスタンス・タワーズのほうに惹かれた。

 果敢に脱走を図る気丈さと、生死が問われる場では敵味方を越えて献身的に看護に努める姿に計算高さも偏見もないところが好い。下唇に紅を厚めに引くルージュスタイルが些か野暮ったく映ったが、'50年代当時の流行だったのだろうか。
by ヤマ

'24. 5. 2. NHKBSプレミアムシネマ録画
'24. 5. 4. NHKBSプレミアムシネマ録画



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