『札幌・横浜・雄琴・博多 トルコ渡り鳥』['75]
監督 関本郁夫

 ちょうど一年前に観た日活ロマンポルノトルコ行進曲 夢の城に十年程先立つ本作は、同作のメロドラマに対し、いかにも東映らしい実録ドキュメントになっていて、虚実ないまぜの只ならぬインパクトがあって驚いた。標題の各地のトルコ街を訪ね歩き、トルコ嬢、ヒモ、客へのインタビュー取材を行ったと思しき音声と、トルコの名の元に繰り広げられていたサービスの現場を収録したと思しき映像を、山城新伍によるナレーションを挟みながら挿し込みつつ、列島縦断するトルコ嬢とヒモの私生活部分を役者が演じてドラマ構成にしてあるのだが、実録場面と見まがう場面が随所に現れる虚実一体感が刺激的で大いに驚かされた。

 青森県下北出身のトルコ嬢ひろみ二十歳を演じた芹明香のインパクトには、前年の㊙色情めす市場以上のものがあったように思う。

 トルコ風呂のどこに惹かれるのかという問いに対する客の回答のなかにあったスカ―ッとしててジメジメしたとこがないのが彼女らの魅力の一つかもしれませんなとの声を想起させつつ、弱気の虫に見舞われて故郷に帰っても五時間で立ち去る哀しい渡り鳥ぶりを滲ませ、ヒモを抱えたトルコ嬢の生き様を体現していて恐れ入った。津軽三味線の響きのなか下北の海風に吹かれて佇む姿が印象深い。また、ゲン担ぎの博奕好きのくせに赤口をアカクチと読んだりしている二十七歳のヒモ利夫を演じていた東龍明もなかなかのものだったように思う。

 ドキュメント部分では、泡踊りと呼ばれたマットプレイにおける様々な技を展開する実写の動きのプロ技に瞠目した。女体の各所をスポンジのごとく活用して全身を洗い上げる動きの妖しい滑らかさと非日常極まりない痴態に恐れ入りつつ、二輪車、三輪車、果てには四肢それぞれに加えてボディにもつく五輪車まで現れて呆気に取られた。店舗サービスだけではないと出張トルコの現場も映し出され、男性客だけではないと女性専用トルコにおけるローションマッサージと張り型による二人掛かりでの実演模様の紹介まであった。

 更にインタビューでは、売春防止法の施行による転業時に(本番はさせないものとして)名古屋でのトルコ風呂営業を自分が認めさせたと語るとともに、当時は、今のようなことになるとは思っていなかったと証言していた三悪追放協会会長菅原通濟やら、中ピ連の榎美沙子、トルココンサルタント垣沼健司、漫画家黒鉄ヒロシのトルコ風呂についての証言が目を惹いた。トルコ嬢の数は年々増加しているとのナレーション報告があったり、外国人と思しきトルコ嬢やハーフだと語るトルコ嬢が登場したりと、なかなか興味深いというか、各地のトルコ街の光景記録に留まらない、風俗資料的にも貴重なフィルムになっているのではないかという気がした。

 それにしても、オープニングタイトル直前に現れた、札幌での木造アパートの二階の部屋の窓枠に全裸でしゃがんで放尿の雨を降らせていた三浦ひろみで始まった本作の最後が、列車のトイレが塞がっていて後部デッキに出た三浦ひろみが走行中の車上にしゃがんで放尿するカットで終えたことに吃驚した。芹明香、凄い。実際にしていたか否かはともかく、今ではもう絶対に撮れない映画だろうなぁ。
by ヤマ

'23. 5.23. TOEI ch.録画



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