『丘の上の本屋さん』(Il Diritto Alla Felicita)['21]
監督・脚本 クラウディオ・ロッシ・マッシミ

 いい映画だ。市井の教養人として「幸せになる権利」を理想的に全うしたように映る古書店主リベロ(レモ・ジローネ)の佇まいと物言いが実に味わい深く、小品ならではの心地好さが沁み渡ってくるような映画だった。

 自由を意味する名を持つ古書店主が、西アフリカのブルキナファソからの移民で本を買えない貧しい少年エシエンに、読後感想を引き換えに日々無償で貸し与える本が、ミッキーマウスやピノキオの漫画から始まり、『イソップ物語』『星の王子様』『白い牙』『白鯨』『シュバイツァー伝記』『アンクル・トムの小屋』『ロビンソン・クルーソー』『ドン・キホーテ』などと進んできて、最後に返却を要しない贈与として渡された小冊子が何なのか興味津々だったが、君には、ずっと大切になる本だ、持ってなさいと託されたのが1948年発行の世界人権宣言だったことに痺れた。

 リベロ爺さんが少年に留意を促した第二条の第一項はすべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。となっている。作り手の意図は、欧州で近年激化してきた移民排斥運動に対して向けられたものであることが明らかだ。

 昨今は、人権という言葉に対して矢鱈と反応して揶揄と冷笑を浴びせる輩がネットを徘徊しているのを厭な気分で目にすることが多くなっているだけに、取り分け沁みてきた。彼らは、リベロ爺さんの挙げた本のうち、果たして何冊を読んだことがあるだろうなどと思わずにいられなかった。

 古書店を訪れる客の顔触れが非常に個性的で面白く、彼らそれぞれに対するリベロ爺さんの向き合い方に味があって素敵だ。読書と年季で培ってきた知性とユーモアへの憧憬を誘ってくれるような映画だと思った。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
https://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/23100401/
by ヤマ

'23. 8.11. あたご劇場



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