『30年後の同窓会』(Last Flag Flying)['17]
監督 リチャード・リンクレイター

 愛妻を亡くして程なしに今度はイラク派兵されていた息子を亡くしたばかりの、ベトナム戦争従軍歴があるばかりか、海兵隊に屈託を抱えている元衛生兵のドクことラリー・シェパード(スティーヴ・カレル)が、単純に戦友とも言い難い海兵隊仲間のサルことサルヴァドーレ・ニーランド(ブライアン・クランストン)と、殴り屋の異名をとっていたリチャード・ミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)を三十年ぶりに訪ねて、息子の遺体引き取りの旅に付き合うことを求めたことから繰り広げられる2003年12月の話だ。

 ロードムービーに相応しく、旅を続けるなかで変化してくる関係性や胸中が見どころだ。僕が最も気に入ったのは、軍隊当時は最も不良兵士だったと思しきミューラーが今や牧師になって説教を垂れていることに唖然としていたサルが、昔ながらのちょっかいを掛け続けているうちに、ミューラー牧師が昔の言葉遣いをし始めたことに大喜びし、ミューラーが戻った!と叫ぶ場面だった。軍人墓地への埋葬を望まないドクの要求により、遺体の移送を認めざるを得なくなったウィリッツ大佐(ユル・ヴァスケス)が部下のワシントン(J・クイントン・ジョンソン)に同行を命じた際に、サルには気をつけろと言っていたのは、そういうことであり、ミューラー牧師もそれを恐れてドクの依頼を最初は断っていた節が窺えたように思う。

 ドクが頑なまでに拘っていた軍隊の真実隠蔽体質というのは、息子のラリーJr(サミュエル・デイビス)と親友だったというワシントンからサルが訊き出していた息子の死に関する真実のみならず、自身が服役を負わされた事件に関しても引き摺っていたものだったような気がする。何事につけ明け透けで取り繕ったところのないサルに触発されていくなかで、各自が心中に抱えている未決の真実に向き合うことになる道中が味わい深い。

 海兵隊が望む軍服での息子の埋葬を拒んでいたドクが平服スーツでなく礼装軍服での埋葬を受け入れるようになるうえでの大きな出来事は、やはりベトナム戦線でのハイタワーの戦死にまつわる事の顛末を母親に伝えようとして果たせなかったことだったように思う。

 ドクは自身の服役に関してサルにもミューラーにも貸しなどないと思っていたようだが、そんなドクの態度にサルは借りを感じるようになっていたのだろう。もはや「サルのバー&グリル」は名ばかりで酒しか出さなくなっていた店をドクとの共同経営でグリルを復活させて始めたいと持ち掛けていた場面が好い。そして、自身の拘りから危うく息子の遺言どおりの埋葬を逃しかけていたものが「三十年後の同窓会」とも言うべき道中によって、からくも願い通りの埋葬を果たせていたことに感無量のドクの姿が沁みてきた。

 ドク一家の満たされていた家庭生活をワシントンから伝聞していたサルが、ミューラーの生き方を激変させた彼の愛妻ルース(ディアーナ・リード=フォスター)との出会いについて列車のなかで訊ね、自分にはそういう伴侶との出会いがなかった負い目を紛らわせるかのように、ミューラーに向かって彼の妻を茶化してベイビィ・ルースと揶揄ったことに対して、杖を振り上げて憤慨したミューラーを観て、普段はまるでジョークなど口にしない生真面目ドクが僕のクリスマスを知っているか? ドク・ホリディ!と言ったことに二人が大笑いし始めた場面も気に入っている。

 リンクレイター監督の作品は、八年前に観た6才のボクが、大人になるまで。['14]と四年前に観た恋人までの距離(ディスタンス)['95]しか観ていないが、宿題のままになっている『ビフォア・サンセット』['04]と『ビフォア・ミッドナイト』['13]をやおら観てみたくなった。
by ヤマ

'23. 8. 3. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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