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『続・激突!/カージャック』(The Sugarland Express)['74] | |||||
監督 スティーヴン・スピルバーグ | |||||
1969年に起きた実際の事件を元にしているとのことだから、クロヴィス・ポプリン(ウィリアム・アザートン)は、狙撃致死となったのだろう。福祉局がポプリン夫妻の子供を承諾なしに里子に出したり、または、クロヴィスの妻ルー・ジーン(ゴールディ・ホーン)が刑期満了まで四ヶ月に漕ぎつけていて腰の引けていた夫に囚人更生訓練所の脱獄を強要しなければ、或いは、ルー・ジーンが新米巡査スライド(マイケル・サックス)の職務質問に怖気づいて車を奪取し逃げ出したりしなければ、更には、スライド巡査が迂闊にも彼女に拳銃を奪われたりしなければ、この逃走劇もクロヴィスの死も起こらなかったわけだ。それなのに、結局、最も鍵となっていたルー・ジーンが十五ヶ月で釈放されたのち、福祉局が彼女の親権を認め、息子ラングストンを取り戻す顛末になっていた。そこのところに、半世紀余りの時の隔たりを感じないではいられなかった。 本作では、実親の意思を蔑ろにした福祉局や、犯罪者に対して正義の名のもとに私的制裁を加える予備役を詐称していたガンマニアが悪役だったが、今や児童福祉の局面は親の意思以上に踏み込んだ行政判断のほうが求められ、犯罪者に対してではなくても好ましからざる者に対して、社会正義を口実にして言いたい放題やりたい放題の私的制裁を加えることがすっかり当たり前になってきていて、本作に現れたガン・マニアもどきは、今やネット界隈に大勢いることが顕在化しているような気がする。比率で言えば、おそらくは多数派ではないはずなのだが、少なからぬ数であり、目立つ動きで顕在化してきたから、質が悪い。 それにしても、実際の事件でもパトカーの数珠つなぎができたり、「キルデア【テキサス州?】生まれだ、驚かない」などとガソリンスタンドの主が言っていたような、警察による無断給油や隣州の野次馬警官によるパトカーの暴走が起きたりしたのだろうか。 エンドロールには、強硬手段の行使には、あくまで慎重な指揮を執っていた些かアメリカらしからぬ指揮官タナー警部(ベン・ジョンソン)もスライド巡査も事件後、なおテキサス州公安局に勤めているとのテロップが流れていた。逃走中に夫婦喧嘩を始めたポプリン夫妻に割って入り、「巡回だけでなく夫婦喧嘩の仲裁も仕事なんだ」と人質警官の身ながら、常に何らかの形で職務を全うしようとし、怠ることのなかったスライド巡査の人物造形が初々しくて好もしかった。 また、直情径行思慮浅薄のルー・ジーンをゴールディ・ホーンがキューティに造形していて、これはたまったものではないなと恐れ入った。考えてみればクロヴィスは、息子奪還への圧倒的な大衆支持を得て、妻の切望を叶えることができたのだから、本望だったかもしれないとさえ思わせるルー・ジーンに仕立てあげていたような気がするから、なかなか大したものだ。 推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/1905445359555038/ | |||||
by ヤマ '23. 6.21. DVD観賞 | |||||
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