『カンバセーション…盗聴…』(The Conversation)['74]
監督・脚本 フランシス・F・コッポラ

 同日に観たエンドロールのつづきで監督・脚本のパン・ナリンが「道を照らしてくれた人々に感謝を込めて」として挙げていた映画監督の一人の未見作品で、長年気になっていた宿題映画をようやく片付けた。これがコッポラの『カンバセーション…盗聴…』かと思いながら観たが、公開当時は、扱った題材そのものにインパクトがあったにしても、いま観ると、音声分析を扱った映画としては四十年前に観た『ミッドナイトクロス』['81](監督・脚本 ブライアン・デ・パルマ)や一年前に観た『ブラックボックス:音声分析捜査』['21](監督 ヤン・ゴズラン)のほうが面白かった気がする。

 行きずりと思しきメレディス(エリザベス・マクレイ)に盗聴テープを盗まれてしまうハリー・コール(ジーン・ハックマン)の不用意な間抜けさ加減に脱力し、そもそも信心深くてナーバスな質の男をジーン・ハックマンが演じることの不釣り合いがしっくりと来なかったように思う。しかも盗まれたテープが当の依頼主の手に渡っていたりしてハリーは所期の報酬1万5千ドルを受け取るのだから拍子抜けしてしまう。そうなると、依頼主たるリチャード専務の秘書ステット(ハリソン・フォード)が事を仕組んだ意図は、専務に聴かせる前の事前チェックに他ならなくなるから、自ずと殺害犯人は彼だと思われるものの、その目的は何だったのだろう。

 それにしても、ハリーは盗聴相手の不倫と思しきカップルに何をしようとしていたのだろう。二人が殺害される妄想に囚われていたが、彼らが殺害される危険性を知ったのが当の二人の交わした会話からだというのが、あまりにもの「なんだこれは!」ぶりで困惑してしまった。三重鍵を破った侵入者が合鍵を渡してある家主であることに動揺していたり、ステットが自分のことをよく調べ上げていることに不安を感じているようではあったが、メレディスに易々と盗聴テープを盗まれたり、同業者のモラン(アレン・ガーフィールド)にメレディスとの会話を容易に盗聴される迂闊な無防備さからすれば、観ている側に驚きはなく、ハリーの間抜けぶりが際立つだけだったように思う。隠し電話の番号を知られていたことに動転して、自室に仕掛けられた盗聴器探しを始めるに至っては、恋人エミー・フレドリックス(テリー・ガー)にすら住まいも素性も明かさず、依頼主への連絡さえ公衆電話からしていたくせに、独居の自室で何を喋っていたというのだろうと呆れてしまった。

 ほぼ半世紀前に『ヤング・フランケンシュタイン』を観て気になっていたテリー・ガーがどのような役どころで出演しているのか楽しみだったのだが、ほんの端役だったことにも拍子抜けしてしまった。あれなら、リチャード専務の妻アン(シンディ・ウィリアムズ)のほうがずっと印象深い役柄だと思った。そして、イチバンの驚きは、録音業者の全国大会兼見本市のようなものがアメリカでは行われていたのかということだったが、それは映画的サプライズとは少々別物のような気がする。
by ヤマ

'23. 6. 7. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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