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『男と女』(Un Homme Et Une Femme)['66] 『男と女II』(Un Homme Et Une Femme, 20 Ans Déjà)['86] 『男と女 人生最良の日々』(Les Plus Belles Années D'une Vie)['19] | |||||
監督 クロード・ルルーシュ
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最初に観た第一作『男と女』は、『男と女Ⅱ』『男と女 人生最良の日々』と続けて観るべく果たした十二年ぶりの再見だ。当時の談議でウケた“経産婦ならではの色香”が『男と女Ⅱ』『男と女 人生最良の日々』でどう変化してくるのか、楽しみで観直したものだ。 陽水の♪背中まで45分♪になぞらえれば、100分余りの作中で85分かかった第一作は、アンヌ(アヌーク・エーメ)の亡夫との日々を織り交ぜながら映し出された10分近いベッドシーンという、この手のシーンでも長さで言えば最長に属する部類だと思われる場面が印象深く、山口百恵の歌った♪イミテイション・ゴールド♪のような違和感にアンヌが思い掛けなく見舞われてしまうという散々な目にジャン=ルイ・デュロック(ジャン=ルイ・トランティニャン)が遭う。 まさに天にも昇る高揚感から谷底に落とされたような気分になるわけだ。結局一番良かったのは、アンヌが「テレビで観ました」を思い直して「愛しています」に変えて送った「ブラボー、愛しています。アンヌ」との電報を受け取ったジャン=ルイが逸る気持ちのままに有頂天で車を駆っていた「着くまでに考えよう」の♪ダバダバダ♪時間だったように思う。 だが、さすがは「レースに大事なのはエンジンの音だ」と言っていたレーサーだけあってアンヌの心底にあったエンジン音を聴き逃すことなく、乗換駅に乗り込むところがそこらあたりのモテ男には真似のできない振る舞いだと改めて感心した。 続いて観た二十年後の『男と女II』については、前作にジャン=ルイ、アンヌとも良き義父母になれそうな子供との関りが描かれていたので、そのあたりがどうなっているのか、観てみたいと思っていたのだが、そのような単純な続編ではなく、凝りに凝った意匠塗れが観応えの作品だった。 今やプロデューサーになっているアンヌに「もしも私を抱き締めるところで終わったら、ちょっと甘すぎるわ」と言わせたり、二十年前の『男と女』のリメイクメイキングとも言うべき描出やミュージカル・ヴァージョンでの撮影がされていたり、前作の編集を指すのやら本作の意匠を指すのやら曖昧な形で、試写を観た娘のフランソワーズ(エヴリーヌ・ブイックス)に「複雑だわ…もっと単純にしないと」と言わせていたりしているのが目を惹いた。 それにしても、一緒に仕事をしている息子アントワーヌ(アントワーヌ・シレ)の奥さんの妹マリー・ソフィー(マリー=ソフィー・ポシャ)を内縁の妻にしているジャン=ルイのモテ男ぶりは、前作の追加オーダーに「部屋を一つ」に負けない「二十年前に別れてよかった……この瞬間を持てた」と言ったり、昔の恋人への電話を掛けに行く口実としてマリーに「車に贈り物を置いてある」と言って外に出て、戻った際に「贈り物は?」と問われて平然と「このキスを、車に置き忘れてた」と返せる手練れぶりにも健在で、全く畏れ入った。 だが、それ以上に恐れ入ったのが、二十年前の『男と女』のさまざまなシーンをふんだんに折り込む編集を施している本作において、二十年後のアンヌを演じている五十路半ばのアヌーク・エーメに見劣りを感じさせる部分が殆どないことだった。どう変化してくるのか、楽しみだと記していた“経産婦ならではの色香”のほうは、“キャリアを積んだ堂々たる貫禄を漂わせる艶やかさ”に変じていて、作中でも既に孫がいるという設定になっていた。そして今度は、電報ではなく手紙を受け取る側になっていたアンヌが、「もっとそばにいたかった。ジャン=ルイ」という手紙を読んだときの得も言われぬ表情に魅せられた。 アンヌが娘とジャックの恋仲を観て「でも二十年も待たないわね」と言っていたが、二人の禁煙は、その後どうなったのだろう。三十三年後になった最終第三部がまた楽しみになって来た。 そして観た『男と女 人生最良の日々』。フランソワーズ(スアド・アミドゥ)が女優ではなく、獣医になっていて、意表を突かれた。どうやらⅡから三十三年後ではなく、'66年から五十三年後の第二部といった作りのようだった。最後に十年後の'76年は言及されるけれども、'86年のエピソードに触れられることはなく、専ら'66年作品の引用ばかりだった。 それにしても、齢九十を前にしたアヌーク・エーメの生気とジャン=ルイの老衰の対照に恐れ入らずにいられなかった。だが、施設医と思しき女性の言うように、演じているのか実際なのか、判然としない認知症の訪れを窺わせながらも、相変わらず「ウソツキ女はかわいい」などと宣う色男ぶりは健在だった。そして、アンヌからは「レーサーだったうえに女たらし」と回想されていた。そんなジャン=ルイが作中でアンヌにその仕草がいいと褒める髪の掻き揚げに、第1作を観て「しばしば出てきた髪を掻き揚げる風情に悩殺された」と記していたことを思い出し、改めてアヌーク・エーメに感心した。 本作は、トランティニャンにおいては遺作になったようだが、彼女は、まだまだ出演作が出てきても全くおかしくないと思った。それと同時に、たとえそうだったとしても中途半端に新作出演するより、本作をもって自分のキャリアの最後の作品にしたいとの思いが湧きそうにも思った。そのような特別感に包まれた稀有な映画だった気がする。観ることができて良かった。 | |||||
by ヤマ '22. 9. 4. DVD観賞 | |||||
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